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僕はゴーストライター Story04.

 僕が人気脚本家・綾瀬柊介の息子ということはクラスの中でもちょっとした話題になることがある。だから、僕が親父の事を聞かれることも少なくない。主に女子から。
「綾瀬君って、あの綾瀬柊介の息子なんでしょ? お父さんにサインって書いてもらえないかな?」
 クラスのミーハーな女子は聞いてくる。
「さあ、どうだろう? 親父も忙しいからね」
 そう笑って受け流しているけど、内心穏やかではない。コメンテーターとしての仕事は親父の仕事だから良しとしよう。だが、脚本を書いているのは僕だ。僕が書いている脚本で、親父がきゃーきゃー言われるのは癪だ。非常に腹立たしい。だから僕は、これ以上親父のファンが増えるのを止めている。だって、実際に会ったり達筆な字でサインを貰ったりしたら、ますます親父のファンが増えるから。それだけはさせてなるものか。むしろ、親父のファンを減らしてやりたい。
 午前の授業が終わって昼休みになり、僕は弁当を食べる。一緒に食べるのは、友達の林田悟(はやしださとる)。あだ名はリンダだ。
「お前の親父って人気あるよな」
 リンダはたこさんウインナーを口にして言う。
「クソ親父だけどな。見てくれだけは良いんだよ」
「面白いらしいじゃん。圭吾の親父が脚本を書いているドラマ。俺は観てないけど」
「あっ、そう」
「あっ、そうって、素っ気ないんだな」
「別に」
 僕はおにぎりを口に入れ、水筒の麦茶を流し込む。リンダは四人の女子が固まって座っている方向をじっと見つめていた。
「どうした?」
「いや、江藤さんが可愛いなって。圭吾って江藤さんと仲良いんだろ?」
「昔から知ってる幼馴染ってだけだよ。家も隣だし」
「羨ましい! 江藤さんみたいな超絶美少女が隣に住んでるだなんて。最高のシチュエーションだよな!」
「お前、超絶美少女なんてワード言ってて恥ずかしくないの?」
「可愛いなあ、江藤さん。俺もあんな彼女欲しい! それが叶わなくても圭吾みたいに幼馴染になりたい」
「聞けよ! 幼馴染はもう無理だよ!」
「あっ、江藤さんがこっちを見た」
 仲の良い女子と弁当を食べている鈴奈は、リンダの視線に気付いたらしく、こっちを見た。何で見ているのだろう、という不思議そうな顔をした後、ぎこちない愛想笑いをこっちに向けた。
「圭吾、見たか? 江藤さんが俺に向けて笑ったぞ」
「お前が気持ち悪い視線送るからだよ。鈴奈困ってただろ」
「あの髪良い匂いするんだろうなあ。黒髪ロングなんて、最強に清楚だよなあ。それでいて、あれでエロかったら最高だよなあ。ああ、あの髪触りたい」
「聞けよ! ていうか、すごく童貞くさい妄想してんな」
「何だよ、お前も妄想くらいするだろ?」
「しねえよ!」
 駄目だ。埒が開かない。友達との会話に戻っていた鈴奈は、再びこっちを見てどこか呆れたような顔をしている。もはや愛想笑いすら浮かべていない。冷たい視線が痛い。全てリンダが悪い。神様、もしいらっしゃるのであれば、こいつを黙らせて下さい。僕は切実にそう願った。

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