僕はゴーストライター Story02.
僕はまだ高校一年生。帰宅してからが僕の仕事だ。部屋に入りパソコンを起動させ、原稿を書き始める。今書いているのは、「幸福な日常」という水曜日の夜十時から放送される青春ドラマの脚本だ。内容は主人公の男子大学生が心を閉ざした同級生の女性と心を通わせるといったものだ。初回の視聴率と評判がともに良く、「やっぱり綾瀬柊介の脚本は素晴らしい」と言われているらしい。書いているのは僕だけど。
親父は夜の八時には家に帰ってきた。夕飯は既に食べてきたらしく、帰宅してすぐに僕の部屋に入ってきた。
「圭吾(けいご)、調子はどうだい?」
部屋に入って最初に口にした親父の言葉だ。
「まあ、ぼちぼち」
「いやぁー、助かるよ。こんな息子がいるなんて、俺は幸せだなあ」
うぜえ。どこかわざとらしく聞こえるその台詞が腹立たしい。
「で、報酬はどれくらい弾んでくれんの?」
僕は報酬について聞く。これだけは絶対に押さえておきたい条件だ。
「そうだなあ……、考えとくよ」
(絶対考えてないだろ、こいつ)
僕は心の中でそう毒づいた。
「ていうかさ、親父は俺に頼るんじゃくて自分で書けば良いだろ」
「だって、俺スランプじゃん?」
「知らねえよ!」
「スランプって、筆が進まないじゃん?」
「だから、知らねえよ! 親父はそれが仕事なんだから、自分で何とかしろよ」
「スランプで悩んでいたら、あらびっくり! こんなところに脚本家の原石が! って思って、お前に頼んだわけ。俺ってすごくない? 先見の明あると思わない?」
「すごくない。大体、高校生の勉強時間奪っておいて、あんたに罪悪感ってものは無いのか?」
「無い!」
親父はどや顔できっぱりと言い放った。
(クズだ。人として最低だ)
「お願いしますよー、圭吾先生。視聴者の皆さんがあなた様の脚本を待ってるんですよー」
親父は僕の左肩を揺らして、子供がおねだりするような顔をしてきた。
「ええい、触るな! 気持ち悪い!」
「気持ち悪いとは何だ。それが父親に対する口のきき方か?」
「こんな時だけ父親ヅラすんな! 執筆の邪魔だから、出て行ってくれ!」
そう言うと、親父は僕の肩から手を離し、ドアまで歩いていった。
「良い脚本、書いてくれよな」
親父は笑顔で振り向きサムズアップした。
(殴りたい、この笑顔。頼むから一発殴らせろ)
そんな事を僕が思っていることは、親父にはおそらく知る由も無いだろう。親父は笑顔とイライラと殺意だけを残して、部屋を後にした。
これが僕の日常風景の一場面だ。こうして、僕はまた執筆に勤しむことにした。