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江戸のお廻りさん 新徴組事件簿②

新徴組本部跡、湯田川温泉 隼人旅館の庄司庸平です。

幕末の庄内藩の下、江戸市中取締りの任に就いていた【新徴組】。
今回は新徴組士・千葉弥一郎の回想禄から新徴組関連事件のお話しを2つ。

猿若町 酒屋強盗事件

慶応3年(1867年)4月23日、新徴組のお廻り隊が吉原方面に向かう途中で大雨になったので、浅草猿若町町1丁目の自身番屋(江戸時代、大都会の町地に設けられた自警組織の一つ「自身番」が使用した小屋。 )で休憩して夜食の弁当を食べていました。

その時、近所の酒屋の者が駆け込んできて、「今、強盗が抜刀して押し入ってきた!」と知らせてきました。

新徴組士はすぐさま番屋を裸足で飛び出して現場へ駆けつけます。

その時の組士は、小頭・中沢良之介、立花常一郎、大島百太郎、中村健次郎、千葉弥一郎の5人。

折しも暴風雨と暗夜で視界が悪い中、酒屋に到着した組士が建物に入ると、中は真っ暗でした。

途端にすれ違いざま、表に飛び出して逃げた者がいました。

表に待機していた中村健次郎が追いかけて、後ろから刀で一突きし、倒れたところにもう一度斬りつけましたが、それでも逃げて行きます。

店の中には他に賊も居なかったので、5人は集合して中村健次郎の話を聞きました。

明かりを灯し、中村健次郎の刀を見てみると切っ先から30㎝ほどが折れ曲がり、人を斬ったあとがあり、切っ先には血がたっぷりと付着していました。

中村健次郎の刀がなぜ折れたのかは謎でしたが、斬ったことは疑いもなく、重傷に違いないので遠くに逃げられるはずもありません。とにかく一旦、自身番屋に引き揚げて、近所を探してみることにしました。

11頃、自身番屋には町役人も集まり、それぞれ手配しているところに、再び届け出る者がありました。

すぐさま駆けつけると、酒屋から1丁ばかり隔てた横丁で人が倒れていました。

戸板に乗せて自身番屋に運んでみると、大坊主で、背中に長さ一尺(約30㎝)ほどの大鉈を背負っていて、鉈には刀キズがありました。背中に突き傷もあります。

中村健次郎の刀は、この大鉈を斬り付けて折れた事が判明しました。

男は、何を尋ねても返事をせず、ただ「水をくれ~」と言うばかり。その後、2時間ほどで絶命しました。

巷説によれば、酒屋の主人は強盗が入った際に「騒ぐと殺すぞ、逃げても表には仲間がいるから駄目だぞ」と脅されたといいます。しかし、近所の自身番屋に新徴組のお廻りがいるとは思わず、表から新徴組士がどかどかと入って来た時に、強盗の仲間が入ってきたと思い、すぐさま灯りを消したのだといいます。酒屋の店内が暗かった理由が分かって一同は大笑いしました。

この事件は江戸三座(江戸町奉行によって歌舞伎興行を許された芝居小屋)があった猿若町でのこともあって、新徴組の躍然たる活躍は市民に大好評を博しました。


江戸歩兵組との事件

慶応3年7月頃、幕府領の百姓から募集した歩兵組が九段坂上と西丸下に駐在していました。

歩兵組は規律が非常に緩く、歩兵組士たちは毎日のように市中を徘徊して無銭飲食などの暴挙を繰り返していて、江戸市民から忌み嫌われていました。

同年10月頃、新徴組3番隊が見回り先において暴状の告訴を受け、これを鎮めようとしましたが、暴行を働いたので捕縛しようとしました。

しかし、暴行を働いた者4、5人が逃走し、追いかけると神田小川町の歩兵奉行の屋敷に逃げ込みました。

そこで新徴組3番隊は屋敷に突入して玄関に登り、逃げ込んだ者の引き渡しを要求しますが、屋敷では引き渡しを拒んだうえ、さらに歩兵奉行の屋敷の玄関に土足で登ったことを咎められ、激論が数時間に及びました。

神田橋の庄内藩上屋敷が近かったので、すぐにこの事を国家老・松平権十郎に報告しました。松平権十郎はすぐに江戸城に登城し、老中に面会、非常の場合に処すべき手段を伺いました。

老中は新徴組の行為に対して、非常の出来事があった場合、前後を顧みることなく、突然に玄関に出入りすることを許し、平素の格式等は問題にしませんでした。松平権十郎はさらに、庄内藩の武士が突入してもいいかと聞きましたが、老中は、非常の場合は格別であり差支えないと答えました。

早速、新徴組3番隊へその旨を伝えると、歩兵奉行屋敷に居た両者は話し合いの結果、互いに老中に申し出て指令を仰ぐとの約束をして引き分かれました。

当時、「朱塗りの玄関何のその」という言葉が流行していました。
三位以上の大名が将軍家から妻を迎える際、朱塗りの門を建てるというならわしがありました。即ち、大名の屋敷の玄関でも新徴組のお廻り隊には差し支えは無いということです。

江戸市中のならず者たちは、「カタバミ(庄内藩・酒井家の紋)はウワバミ(大蛇)より怖い」と言ったと、そんな笑い話も流行しました。

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