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【弁護士解説】契約書を一から読んでみる①

今回は、契約書を一から読んでみるということでnoteを書いていきます。
契約書は、後ろにいけばいくほど、各契約書に共通の条項が出てくることが多いので、後ろから一から読んでいきたいと思います。

契約書の書式集などの本には書いていない基礎中の基礎のところから、力尽きるまで読んでいきたいと思いますので、ぜひお付き合いください!

なお、全般的な契約書チェックのポイントは、以下のnoteに書いていますので、ご覧ください。

1.署名欄

まず、署名欄からです。
「署名欄ってどうやって書いたらいいんですか?」、「ハンコはどこに押せばいいですか?」ということを質問いただくことも多いので、署名欄から取り上げてみました。

署名欄には、自社の住所と会社名と代表者名を記載し、代表者名の横に押印をすることが多いかと思います(記載例のとおり)。なお、個人の方が契約する場合は、住所と氏名を記載し、氏名の横に押印することが多いです。

(記載例)
2020年●月●日
甲 住所   ・・・
  会社名  株式会社・・・
  代表者名 代表取締役・・・   印
乙 住所   ・・・
  会社名  株式会社・・・
  代表者名 代表取締役・・・   印

 (応用編)

① 甲乙という定義について
契約書では、各当事者のことを「甲」・「乙」と表すことが多いですが、別にそうしなければならないというルールがあるわけではないので、分かりやすいように書き換えることも可能です(例えば、甲を「買主」、「委託者」、「(会社名)」などと定義しても問題ありません)。

② 署名の名義について
日本の契約書だと、代表取締役名義での署名押印が多いですが、必ずしも代表取締役名義で契約書に署名押印する必要はありません。当該取引について決済権限がある人の署名押印がなされていれば、それで足ります。
電子契約の普及に伴い、実はこの署名欄の名義について問題が生じており、ご興味がある方は、以下の詳細な解説記事が勉強になりますので是非。

③ 誰と誰の約束か?
たまーに、契約書で以下のようなものを見かけることがあります。

(例)
・・・(略)・・・
第●条(再委託)
1.乙は、本業務を第三者(以下「丙」という。)に再委託することができる。
2.丙は、再委託を受託するにあたり、本契約を遵守しなければならない。
・・・(略)・・・
(署名欄)
甲 〇〇
乙 □□

さて、この場合、再委託を受けた丙は、本契約を遵守する義務があるでしょうか?
…答えは「NO」です。なぜなら、署名欄に丙の名前がないからです。
署名欄は、署名欄記載の各社が、その契約書の内容に合意した(=署名欄記載の各社の間での約束である)ということを表すものなので、↑の例では、甲と乙しか契約書の内容に合意していないこととなります。逆から言えば、丙は、この契約書の内容に合意していないわけなので、当然、自らが約束していない内容について丙が従う必要はない(=↑の例の第2項は丙を拘束しない)ということになります。

この場合、丙を契約書の内容に従わせるには、署名欄に丙も追記して丙も契約の当事者としてしまうか(例1)、丙が本契約を遵守するよう乙に約束させるか(例2)、契約書を修正する必要があります。契約書の登場人物が多くなってくると、意外と上記のような条項を見かけることもありますが、いざというときに効力を発揮してもらうためにも、適切な表現に修正することが必要です。

(例1)
・・・(略)・・・
第●条(再委託)
1.乙は、本業務を株式会社△△(以下「丙」という。)に再委託することができる。
2.丙は、再委託を受託するにあたり、本契約を遵守しなければならない。
・・・(略)・・・
(署名欄)
甲 〇〇
乙 □□
丙 △△
(例2)
・・・(略)・・・
第●条(再委託)
1.乙は、本業務を第三者(以下「丙」という。)に再委託することができる。
2.乙は、本業務の再委託にあたり、丙に対し本契約記載の乙の義務と同等の義務を遵守させなければならず、丙の行為に関し、乙が為したものとして
責任を負う。
・・・(略)・・・
(署名欄)
甲 〇〇
乙 □□

2.契約締結に関する文章

契約書は、各当事者が原本を保管することが通常なので、普通は2通作成し、各当事者がそれぞれ1通を保有します。
そのことを表すのが、契約締結に関する文章です(記載例のとおり)。

(記載例)
本契約締結を証するため本書2通を作成し、甲乙が各自署名押印の上、各1通を保有する。

2通作成せず1通を作成し、一方が原本を、もう一方が写し(コピー)を保管するというパターンもあります(例1)。

(例1)
本契約締結を証するため本書1通を作成し、甲乙が各自署名押印の上、原本を甲が、その写しを乙が保有する。

また、電子契約の場合は、紙の契約書を作成しないので、電子契約に合わせた文章を記載する必要があります(例2)。

(例2)
本契約締結の証として、本書を電磁的に作成し、双方にて署名捺印又はこれに代わる電磁的処理を施し、双方保管するものとする。

契約書の合意内容(権利義務の合意内容)とは関係がないので、チェックを見落とされがちですが、実は、締結方法に合わせて、この記載も修正される必要があります。

3.協議条項

ようやくここから、契約書の具体的な内容に入っていきます。

(記載例)
第●条(協議)
本契約に定めのない事項又は本契約の解釈について疑義が生じたときは、甲乙が誠意をもって協議の上解決する。

この条項は、読んだまんま、
「契約書に記載がないトラブル・イベントが発生した場合や、『契約書の文章の意味がよく分からない』となったときは、お互い話し合って解決しましょうね」
という条項になります。

予期せぬトラブルやイベントが起きたときには、とりあえず話し合いましょう、ということを定めたものですが、それ以上の意味合いはあまりない条項と思います。

4.専属的合意管轄条項

ここから法律っぽい条項に入っていきます。

(記載例)
第●条(専属的合意管轄)
本契約に関連して生じる一切の紛争は、●●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

この条項は、
「この契約に関して裁判になったときには、●●地方裁判所で裁判をしましょう(それ以外の地域の裁判所で裁判はできません)」
ということを定めた条項になります。

日本の法律には、裁判をする場所(「管轄(かんかつ)」といいます)のルールを定めたもの(民事訴訟法)があります。
例えば、沖縄の会社と北海道の会社が裁判をするとなった場合、どこで裁判をするのでしょうか?
裁判となると、だいたい月に1回、期日が開催されますが、仮に↑の裁判が北海道で行われるとなると、沖縄の会社は、月に1回、北海道に裁判のためだけに出張しなくてはならず、時間的・金銭的コストがかなり掛かることとなります。このように、どこで裁判をするかは、意外と重要だったりするのです。
そこで、法律の管轄のルールに関係なく、どこで裁判をするのかをあらかじめ決めておくため、この専属的合意管轄条項を契約書に記載することが多いです。

契約当事者のパワーバランスにもよりますが、交渉の結果、専属的合意管轄裁判所を特定の裁判所(例えば、東京地方裁判所)と定められない場合には、以下のように訴えられた会社の所在する地域の地方裁判所とする、という記載にすることもあります。

(例)
第●条(専属的合意管轄)
本契約に関連して生じる一切の紛争は、被告の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

つづく

3000文字を超えたところで力尽きました…
契約書の内容で言うと、まだ10%も読めてないですね…(契約書の世界は奥が深い…)

不定期にはなりますが、今後も契約書をできるだけ分かりやすく読んでいきたいと思いますので、良ければご覧ください!

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