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もし二宮金次郎が、今の学校の先生だったら

プロローグ

2019年4月7日、金次郎の七代目の子孫中桐万里子さまと出逢った。中桐さんは僕たちの金次郎象を根底から覆してしまうお人だ。

少なからず僕は、金次郎の子孫と会うのだから説教されると思っていた。小さい学習塾を経営していて、別段いけない生業に付いているわけではないのだけれど、金次郎の目を通せば僕など未熟者中の未熟者。とてつもない喝を入れられて当然の人間ではある。

「くっ! 40歳を過ぎて怒られるのが怖くてここまで真剣になるとは!」

僕は小学校1年の時に廣岡くんと流血戦になって、お母さんと一緒に井原外科さんまで謝りに行かされたことを思い出していた。

「あのときのおじいちゃんの先生は優しく許してくれた」
「そうだ! 金次郎もおじいちゃんだから優しいかもしれない!」
「おじいちゃん最高!」

どんな時も人を立ち直らせるのは、愛の記憶である。

地元掛川の大日本報徳社は、金次郎の魂で荒地を開墾し世直しをしてきた金次郎の聖地の一つ。中桐さんの講演会はそこで開かれた。

友人である麗しの岡本さんに教えてもらって、僕ははじめて大日本報徳社へうかがった。そこはとても歴史のある重厚な外観をしていて、知らぬものを寄せ付けぬ荘厳さが漂っている。岡本さんは昔から報徳社に所属していて、わりあいと暖かな雰囲気だから大丈夫だという。

「すみません。会員ではないのですが友人に誘われまして」
「あぁ、いいですよ。お越しいただきまして本当にありがとうございます」
「それではこちらにお名前をお書きになって、建物にお入りくださいませ」

受付のお母さまたちは、いつも本当に親切にしてくださる。これが金次郎の徳というものなのかもしれない。僕はいつもここにくると嬉しくなるのだ。

「岡本さん、来させてもらったよ」
「え? あ・・・、松井さん」
「はい、私は腰痛でこちらの座布団にすわっておりますので、松井さんはあちらの椅子へどうぞ」

彼氏と勘違いされたらどうするのオーラを発しながら、岡本さんはぴしゃりとそう言った。

「なるほど、金次郎の仕法は甘くないようだな」

僕は背筋を伸ばし、彼女のすぐ前の椅子に座ろうとした。

「もっと前の方の席へ行かれたらいかがでしょうか。せっかくの機会ですし」

岡本さんの目の奥に真剣ななにかを感じ取った私は、素直にその言葉に従うことにしたのである。

「おはようございます。中桐万里子です」

中桐さんはすらっとした背の高い、ショートカットの美人だった。

「これは来てよかったというものだ」

私を含め、皆が中桐さんのプレゼンに釘付けになった。ちらっと触りを出させていただくと、、、

・金次郎は借金を踏み倒したことがある。
・金次郎は1回目の結婚で奥さんに愛想をつかされ逃げられた。
・金次郎は初めて農村の復興を任された時、7年間なんの成果もあげられず失踪した(その後、600の村を復興させたけれども)。

中桐さん自身も子供の頃はまったく勉強をせず、職員室から失敬した学校の屋上の鍵を使って、授業中いつも雲を眺めていたのだという。

「うそ!? 俺の方がまだましだったのかよ」

こんな救われ方があるのかと思ったものだ。神格化された金次郎象はよく聞いていたけれど、人間じみた救世主なんてものがこの世にいるとは、まるっきり思ってもみなかったのだ。

中桐さんの気を引きたいこともあり、私は金次郎について彼女から学ぶことにした。そして自分の学習塾で小中学生を教えるときに、金次郎の言葉がおそるべき説得力で生徒たちの気持ちを落ち着かせてくれるのを目の当たりにしてきた。

「そういえばさ、金次郎が今の学校の先生だったら、どうするんだろうな?」

いつしか、そんなことを思うようにもなっていたのだ。おそらく地上波のゴールデンタイムのテレビ番組になって、金八の愛称で令和時代に徳を教えてくれるのではないかと感ずる。いや、さらに私の想像だにしなかったことをしでかしてくれるに違いない。

彼は当時最先端の金融商品に手を出してみて、「こりゃダメだろ」とすぐ止めたりしているのだ。じゃぁ、金次郎が学校でICT教育をしたらどうなるのか? 新しい教育にどう文句をつけるのか? 生徒を何人東大に入学させられるのか??? 

興味は尽きないけれど、やっぱり人間的に失敗してくれて、いろんな意味で僕たちを写し出してくれるんじゃないかと思う。僕も現場でどれだけ助けられたことか。そんな実際に役立たせていただいた話から、この『3年B組、金次郎先生』を描かせていただきたいのです。

それでは、なにか申し訳なくも思いますが、少しだけお付き合い下さいますよう、よろしくお願い致しますm(_ _)m

(大日本報徳社で開かれた『えんとつ町のプペル』展です)


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起業家研究所・学習塾omiiko 代表 松井勇人(まつい はやと)

下のリンクの書籍出させていただきました。
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