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才能を感じる文章とは?

僕は書籍を上梓させていただいている一方、学習塾を経営している。

あるとき、地元の中学校でこんな課題が出された。

マイケル・モーバーゴの『世界で一番の贈り物』を読んで、戦争のない平和な世界を実現するための方法について自分の考えをまとめよう。

『世界で一番の贈り物』はクリスマス休戦の物語だ。Google booksにはこんな風に解説されていた。

「第一次世界大戦の初期、戦場の最前線に身を置く両軍の兵士たちが、自発的に休戦を決めた瞬間がありました。兵士たちは、てんでに武器を置くと、塹壕から上がり無人地帯に出て、敵兵を旧来の友人のように出迎えたのです。クリスマスプレゼントを交換し、互いの故郷について語りあい、なかにはサッカーの試合を楽しんだグループもありました」


以下は、中3の生徒Aの作文である。


戦争のない世界をつくる方法? そんなのかんたんさ。全員が同じ考えをもてばいい。この話しだって、イギリスとドイツが同じキリスト教でクリスマスという、大切な日だったからできたんだ。とある人は言った。『人を一番ころしているのはしゅう教』だと。昔十字軍は、キリスト教をしんじないやつは、悪まだとし、たくさんの人をころした。今の世界も同じだ。みんなを一つに集めみんなに同じやり方で教える。これらによってできたことがある。それはみんなと同じじゃないと少なからずこわいと感じるのではないか。だから平和を実現する方法はみんなが同じ考えをもつ、そしてしゅう教を一つにしぼり国を一つにする。そして反対するものは悪だとし、ばっする。そして勝負がつくものもきんじる。そしたら世界は明るいかはともかく、平和になるだろう。

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この文章は学校でも、どこの国に行っても評価されることはないだろうが、僕は高く評価する。

彼は中学2年まで定期テスト5教科すべてを白紙で出し、再テストさえすべて白紙で提出した猛者。もう卒業してしまったが、なんというか現代教育に対する怒りに満ち溢れた生徒だった。

不登校になったときもあったのだが、「あんな社会不適合者と一緒にされてたまるか」「テストが悪い人間には生きている価値がない」と、学校にも自分にもありえないほど強烈な怒りを持ち、人目をはばからず口にした。

ちなみに先輩女子からは「Aって凄くかわいい」と評判だった。彼はとてもひょうきんで、人懐っこい甘えん坊であった。

Aが毎日学校の先生に提出する日記には、長さこそないものの全てに上の作品と同じ力が込められていた。僕は少なからず驚愕し、彼の文章に対する情熱と独特な才能を認めた。

先の作文の欠点を指摘することは簡単である。

全員を同じ考えにしようとした宗教こそが、人を一番殺している。

原文を改変

文中で指摘したこの争いの元凶を、平和作りの結論に使ってしまっている。

全員が同じ考えを持てば、戦争のない世界を作れる。

原文を改変

これは極めてまずい。論理が破綻してしまっているではないか。

中盤以降は突然集中力が切れて、つながりが悪い。

「これらによってできたことがある。それはみんなと同じじゃないと少なからずこわいと感じるのではないか。」

原文ママ

執筆中の一文しか見えていない。丁寧に推敲する癖を身につけねば、プロにはなれまい。

それにも関わらず、僕は彼の文章にとてつもない魅力を感じる。大げさに言えば、かなりの才能があると思う。

どこにあるのか、と言えば、表現できないほどの怒りがにじみ出ている部分にである。そもそも怒りのない文章など何も面白くはないし、文章とは鬱屈としたありえないほどの強烈な怒りを造形したものなのだとも感ずる。大理石がなければ彫刻が彫れず、木がなければ像が彫れないように、怒りがなければ文章は書けない。

うっすらと見える天分に翻弄されてしまってはいるが、彼にはその怒りがある。技術と違い、怒りは宿命的なもので習おうにも習えない。

自分の怒りが映った文章を読んだとき、はっとさせられる。朧な気持ちを観察・記憶し再現する冷徹さもいい。「私はなにかを表現せねばならない存在」だと薄々感じていねばできない芸当である。

「たくさんの人をころした。今の世界も同じだ。」

原文ママ

この辺りの文末の処理は見事だ。中学生にしてはの話だが。書籍を読み気持ちが揺れる。それを文章に表す。だから、彼の作品を読むと内側から響くものがある。内の響きを彫刻しているのだ。

喜怒哀楽の4つの感情のうち、喜びと楽しみはすぐに流れ去ってしまう。しかし、怒りと悲しみは簡単には消えない。怒りを持つ者は、他者の評価に寄らず作品を書き続けられる。

怒りは活字にする価値がある。消えないものには消えない形が相応しい。

文章読本は巷にあふれている。技術に際限はない。しかし、なにより重視すべきは怒りだ。優しさも美しさも慈しみも、すべて価値あるものはそれを彫刻したものであるから。

323回松井さんチラシ (1)

お読みいただきまして誠にありがとうございましたm(_ _)m
めっちゃ嬉しいです❣️

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内容を5名分、下のリンクより少しづつ公開させていただきます。
是非お読みくださいませ(^○^)

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お読み頂きまして、心より感謝いたしますm(_ _)m


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