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親友の自殺から考えたこと

親友の自殺


つい先日、小学校2年、6年の時に毎日遊んだ友人が自殺した。

2月。彼の家が持っている賃貸駐車場から出てきたあいつは、異様に思い詰めた表情をしていた。

車でふと見かけただけだから、違う奴かもしれないとも思った。

数週間後、道すがら彼の方から声をかけてくれた。表情にハリがあったから、あの時見たのはあいつではないと思った。

小2の時。
彼の家に遊びに行った。

「みんなには秘密だよ」

そう言って、沢山のトロフィーや大きな賞状を見せてくれた。書道でもらったのだと、得意顔だった。

「言ったほうがいいよ、みんなに」
「こんなに凄いんじゃん」

「だって、恥ずかしいから」

誕生会では、母親が三段重ねのケーキをつくって振る舞ってくれた。

「これ、お母さんが作ったの?」

「そうだよ」

「本当に?」
「本当の本当?」

見たこともないケーキに驚いて、そんな風に尋ねたのを覚えている。家も立派で裕福だった。

「お母さんなら、お菓子の家も作れるんじゃない?」

「え? どうなんだろう」

「絶対に作れるって」
「だって、三段重ねのケーキを作っちゃうんだぜ」

「今度聞いてみるよ」

「うん、楽しみだな」

彼の母親と妹は、偶然にも私と誕生日が同じだった。

「え?! 僕と同じ誕生日だ!」
「なにかの運命かな」

喜んだのは一度だけではなく、思い出すたびに彼と手を取って笑った。


隣の学区のスーパーまで行き、100円で売っていた西瓜をふたりでひとつ買ってきたこともあった。ふたりとも小遣いが50円だったから、50円ずつ出して。うちの母に包丁で半分にしてもらい、半分を僕の家で食べ、半分を彼が持って帰った。

「安かったのに、おいしいね」

母を交えて、そんな話をした。

「こんな大きなものを買うのって初めてだよ」
「スイカが大きいって意味じゃないに」

彼がそんなことを言った。

「僕もそうだよ」
「なにか、大人になった気がしない?」

「うん、気がする」

帰り道は、二人が大人になったら、そんな話で盛り上がった。

小6の時。
10キロ離れた隣町のデパートまで、もう一人の友人Aを交え3人で歩いて行った。

これが、「冒険してやったぞ」と初めて思った私の原点である。

「遠すぎる」と彼はずっと不満を言っていたけれど、デパートが見えると、「ここ、おばあちゃんと行った道だ!」と誰よりもはしゃいで駆けだした。

あまりの変わりように、「あいつ、すごい」と、Aと一緒に舌を巻いたことを覚えている。リーダーの役割を奪われたことが僕は少しだけ悔しかったけれど、彼が元気を取り戻してくれたことの方がもっと嬉しかった。

噂では、友人Aも自殺したという。

河合隼雄は「人は12歳で、一度人格的に完成される」と語っている。少しずつ登る大人への階段を、僕は彼と一緒に登ったのかもしれない。

07 地水師
「リーダーに才能がなければ、彼は死に、みんなは彼の遺骸をかついで帰る。いいことはない」

易経、ウィルヘルム=バインズ版より

易経を立てると、そんな文面だった。

私が昔から作ると言っているコミュニティを、もっと早く作っていたらどうだろう。易は死なずに済んだと言う。

この時勢だから、引きこもりやニート、生活保護や障害年金をもらうことになった友人が僕の周りにも驚くほどいる。

「あいつらも皆んな死なないだろうな」

仲間を集め、コミュニティを作らなければ。僕の話だけを聞いてくれても駄目だ。色々な人の話を聞かなければ、起業家にしても普通の人にしても復活できない。

今日、体験入塾に来た生徒がB先生の話をしてくれた。B先生は私が中学の時の音楽の先生。今は地元の合唱団で教えているのだという。

あいつは、「B先生が一番好きだ」と、話してくれたことがある。

「変な話だけど」

「うん」

「人には絶対言わないでよ」

「分かった」

「なんかね、、」
「お母さんみたいな感じがするんだ」
「B先生って」

僕は体験授業をしながら、そんなことを思い出していた。

「人がしっかりと働いて、生きていけない世の中はおかしい」

そう言って起業支援をしている方に師事して、私は本格的に起業家研究を再開した。修士号を取得できたことも、私がひきこもりから復活できたのも、かなりがその方のおかげではある。

彼は格好良い話をしたけれど、実際は嘘ばかりついていた。女性起業家らに嫌がらせばかりした。被害者の会を結成したいと持ちかけられたことも、一度や二度ではない。

彼のやることはすべて間違っていた。けれど、彼の言葉はすべて正しかったと、今でも思う。

「人がしっかりと働いて、生きていけない世の中はおかしい」

特にこの言葉は忘れられない。


「あいつ、英検二級取って就職したいんだって」

友人にそう伝え聞いたことがある。

「はっきり言っちまうとさ、」
「英検二級なんて『英語できません』って言ってるのと同じだぜ」

「そんなこと、あるわけないだろう?」

「電話取れない、英文書けない、メールを読むことすら怪しいんだ」

「なるほど」
「なら、どれだけ取ればいいんだよ」

「TOEIC800あれば、派遣会社なら20万で雇ってくれるところは山ほどある」

「ただ、基礎がないあいつの場合、」
「5年間、毎日10時間、死ぬ気でやって、」
「もしかして、取れるかもしれないってイメージだ」
「死ぬほどいい先生を見つけられれば、っておまけも付く」

「分かった」
「やめろってことか」

「英語なんて勉強したって、仕方がないぜ」


アメリカで問題になっている「大辞職」



アメリカでは「大辞職」というものが問題になっている。

労働市場を離れた約300万人が、たとえコロナが終息しても、コロナ前の活動(出勤や店頭での買い物、外食を含む)に戻らない考えを示している。

Wall Street Journalより

米労働長官のマーティ・ウォルシュは、この一大ムーブメントを分析し、「人々が、働くことの意味を考え直し始めたことが一因」としている。また、米国のネット掲示板Redditでは、反労働トピックの人気が爆発している。(INSIDERより)

2021年10月初旬、Reddit「反労働トピック」のフォロワーは50万人だったが、その月の終わりには90万人に膨れ上がった。(INSIDERより) (2022年8月29日現在は、220万人)

Redditは、2chのような掲示板だ。少し見てみたが、反労働トピックでこんなスレッドが人気を博していた。

200社以上の就職に失敗。修士号を取ったからだと思う。生きていてこれ以上の失敗はないわ。(Jackie Zimmerman)

https://www.reddit.com/r/antiwork/comments/x0ncun/when_you_looking_for_a_job/

コメントでは共感の嵐が巻き起こっていた。

拙著『人は幽霊を信じられるか、信じられないかで決まる』の前書きにも書かせて頂いたが、米国の大卒就職率は50%。他の者はマクドナルドでのアルバイトなど、大学に行く必要がない仕事をせざるを得ない。

これはスタンフォードなど超一流大学でも、同じように起こっている話だ。

1996年に『アジル・コンペティション ~速い経営が会社を変える~』がベストセラーとなったが、現在起こっているのは労働者によるスローダウンへの希求である。

エリカ・ロドリゲスはガーディアン誌で、

「スローダウンの目的は利益を下げることではなく(往々にして起こるにしても)、生活に人としての尊厳を取り戻すことにある」

https://www.theguardian.com/commentisfree/2021/nov/01/great-resignation-employers-sweating-time-to-escalate-pressure

と語る。

あまりに急かされた仕事場は、もはや人の住める場所ではない。

下がり続ける労働参加率



労働参加率という言葉を紹介させていただきたい。

生産年齢人口(15歳~64歳の人口)に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合を示す。

すなわち、働く意欲がある人間の割合である。

数値を見て驚いたが、日本の労働参加率は61%ほど。労働適齢期の約4割が、そもそも働くつもりがないのである。日本だけではなく、アメリカ、中国でも、労働参加率は日に日に低下している。

中国の寝そべり族


中国では、「寝そべり族」というライフスタイルが問題になっている。

是非wikiを見ていただきたいが、

家を買わない、車を買わない、恋愛しない、結婚しない、子供を作らない、消費は低水準でいい。「最低限の生活を維持することで、資本家の金儲けマシーンとなって資本家に搾取される奴隷となることを拒否する」といったポリシーである。

「寝そべり族」wikipediaより

2021年4月17日、ネット掲示板「百度貼」に、駱華忠が投稿した一文が発端となった。

彼は今、哲学書を読んで過ごし、いくつか雑用をし、貯金から月60米ドルを下ろして生活している。 年に1~2か月働き、食事は1日2食のみだという。

中国政府はこれに危機感を持ち、習近平氏が警告を発せねばならないほどだった。


日本の起業家「草むしりマイスター」


世の中に、草むしりで生計を立てている方がいるという。最近、平賀さんにそんなことを教えて頂いた。

「草刈りで生計がたつんですか?」

ある方が素直な質問をする。

「自分の周り、5キロ四方に精通することです」
「最初はビラ配りから始めます」

「師匠は5キロ四方と言いましたが、実際は3キロ四方を開拓すると、」
「スケジュールがいっぱいになります」

「市場性のないもので起業すべきではない」

たしかに巷では、そんな風に言われることが多い。

しかし、私の友人、岡村充之の弟子は靴磨きで20万円稼ぎ、もう一人はバナナの叩き売りで学費と生活費をすべて賄っている。一人は静岡県立大学薬学部の男子学生、もう一人は静岡大学の女子学生である。

草むしりにしても、いわゆる市場性などありそうにない。しかし、生活の糧となり得て、会社員より適性がある方も多いという。


会社の時代は終わった


「昭和28年ごろかねぇ、お母さんが小学校にあがったくらい」
「急に豊かになってきてね、、、」

「サラリーマンと結婚するのが花形になったの」

「え?」
「それまでみんな、なんの仕事をしてたの」

「そりゃ農業よ」
「役場の人とか、大工さん、左官屋さんなんかもいたわね」
「瓦屋さん、今の掛川の中心部に釜があって瓦を焼いていてたわ」

70年前には、サラリーマンは珍しい職業だった。会社に入って生計を立てることには、それほど歴史があるわけではない。

1939年アメリカに移住したドラッカーは、「この国は経済で動いている」と驚いたそうだ。当時の欧州はまだ貴族的な世界だった。貴族制が民主制に代わったのは、第一次大戦が終わった1918年。ドラッカーが驚いたのも尤もな話だ。

・領主から禄をもらう。
・農業で糧を得る。
・会社の給料で生活をする。

江戸時代の人は、幕府とは大地と同じ種類のものだと考え、幕府が倒されるなど夢にも思っていなかった。

僕たちは、会社に入って生活をすることを当たり前だと思っている。だが、会社の時代も盤石ではない。

「今の時代、一番強いのは市場を切り拓ける人間です」

起業家の坂口ユウキさんは、そう語っている。

最近、僕の周りのITに強い人たちは、AIに絵を描かせることに凝っている。AIは、かなり上手な絵を描くのだ。

学習塾にしても、先生を雇うよりAIの学習システムを入れるほうが安上がりだ。一人につき一月2000円ほどで良い。家庭教師を一時間1000円で雇うことに比べれば格安である。

AIに仕事を奪われる。そう捉える向きが強い。だが、小資本でも大きな仕事をすることができるようになった、と取ることもできる。もちろん、後者の場合、仕掛ける方に回らねばならない。

受け身でいて、仕事を回してもらうことを期待する時代ではない。会社にいれば、やりたい仕事をもらえる。そんな時代ではない。


市場は人間関係と同義


起業理論のエフェクチュエーションでは、「市場は人間関係と同義」だとする。どこか遠くにあるマーケットを探るのではなく、今ここにある人間関係を耕す。

私の塾だったら、今いる生徒や親御さんを十分大切にすること。そこから思わぬ輪が広がってゆく。

また、5キロ四方にビラを巻き、知らないことがないレベルにまでその土地の人間関係を耕してゆく必要がある。草むしりマイスターの話は、僕らに耕すべき場所を明確にしてくれた。

これまでの学問は仕事に就くための教育だった。しかしそんな教育制度が制度疲労を起こし、役に立たなくなっている。

redditではこんな議論がされている。先のスレッドのコメントを、少し訳させていただく。

https://www.reddit.com/r/antiwork/comments/x0ncun/when_you_looking_for_a_job/

JaxSuzAtpodsさん
分かるよ。僕は修士号。量子力学を研究したんだ。この前言われちゃったよ。学歴過剰だって。だから色んな職業につく資格がないって。

apeturtieさん
同じだ。僕は博士号だけどな。

LifeGivesMeMelonsさん
同上。私も博士号。たまに学歴を捨てたくなるよ。私の場合、10年間大学で教えてたことが更なる足枷になっちゃってる。面接で延々と、そんなことをしていた理由を話さなくちゃならない。

学歴も資格も役に立たない。これから必要になるのは、周辺5キロ四方をどう耕すかという教育だろう。土の代わりに人間関係を耕すのだ。

2022年秋、ドラッカー学会のテーマは、

「あなたの『居場所』はどこですか?」
('Where is your “status“ ?)

であった。

通常"ステータス(status)"は「社会階級」と訳される。しかしドラッカー学会では、「居場所」と訳されている。

階級が高いことではなく、居場所があることがステータスとなる。そんな社会の到来。

我々は、居場所から生活の糧を得るようになるのだ。

戦略論やマーケティングは、そこにある欲しいものをそのまま奪う。新しい狩猟社会を生きる道具だった。しかし次代で我らは、5キロ四方の人間関係を耕す。人間関係を耕し、そこに種を撒き、時間をかけ育てる。

新狩猟社会が終わり、新農業時代が始まる。

お読みくださいまして、誠にありがとうございます!
めっちゃ嬉しいです😃

起業家研究所・学習塾omiiko 代表 松井勇人(まつい はやと)

下のリンクで拙著、『人は幽霊を信じられるか、信じられないかで決まる』の前書きを全文公開させていただきました。是非ぜひお読みくださいませm(_ _)m

どん底からの逆転劇を描いた『逆転人生』。4名の起業家と一緒に上梓いたしました。

5名分、下のリンクより少しづつ公開させていただきます。
是非お読みくださいませ(^○^)

下が処女作です。

起業家とは実はトラウマに陥りやすい人種です。しかしトラウマから立ち上がるとき、どうしてもやらねばならない仕事に目覚め、それを元に起業をします。起業論の用語でエピファニーと呼ばれるもの。エピファニーの起こし方を、14歳にも分かるように詳述させていただきました。

こんなことを言ったら、頭がおかしいと思われることが分かっていても言います。

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