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机上の空論



「あなたのは言うことは理想論です、現場ではそうはいかない」
幾度となく現場で言われた言葉。だが、理想を語れない現場に希望なんかあるわけない。

認知症の方には場面転換が有効だ。研修でもよく耳にする。だが、果たしてそれを意識してケアを行えているだろうか。
とあるおばあさんがフロアで突然騒ぎ出した。理由や原因は定かではないが、なだめても落ち着く様子はない。そこである職員が別のフロアへとお連れした。その数分後、そのおばあさんは笑顔で帰ってこられた。
その光景を一部始終見ていた新人。
「なるほど…これが場面を変えるということですね!」
研修で言われた言葉が、目の前のお年寄りに届いた瞬間を目の当たりにした。

排泄ケアは朝食後が鍵となる。お年寄りの大敵である習慣性便秘を防ぐため、まさに介護のキーポイントといっていい言葉。これは新人研修の鉄板だ。
とあるおばあさんが朝食中にソワソワしだした。新人は懸命におばあさんにご飯を食べてもらおうとする。
「まだ残ってますよ!ご飯中ですよ!」
そんな声を無視するかのように、居室へ戻ろうとするおばあさん。ここで研修のことを思い出した。
「もしかして、おトイレなんすかね?ちょっと失礼します!」
スっとトイレに誘導すると、見事なまでの排便が。朝食を食べだして、排便反射が起きていたのだ。
「なるほど…これが朝食後に座って前かがみが大切ということがわかりました!」

もうお分かりいただけただろうか。
研修や勉強会で習う。それだけでは何も変わらない。いつもと変わらない業務が続くだけだ。
自分が得た知識を、目の前のお年寄りにどう還元するのか。机上の空論があるわけではない。机上の空論で終わらせてしまう現場があるだけだ。
もちろん難しい現実があるのは重々承知している。
だが、変わらない日常にモヤモヤするだけの日々は終わりにしよう。

現実をいかに理想に近づけるのか。その日々の積み重ねのことを仕事と言うのではないだろうか。
ただのお世話はやめにして、介護の仕事を楽しもうぜ。

「介護って楽しいですね!!」

新人からのこの希望に満ちた発言ほど嬉しいことはない。

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