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普通で特別なたまごボーロ



みんないつかは最後をむかえる。
それは全人類共通の運命だ。何も特別なことでは無い。
だが、どうしても人はそこにかえがえのなさを求める。

もうその時が近づいていることが誰からみてもわかるおばあさん。
身体はもう栄養を吸収することをやめ、少しずつ体内に残っているものを消費していっているだけかのようだ。身支度を整えるように。
ご飯はほとんど食べず、ただ栄養補助飲料だけはなぜか飲んでくれる。まるで僕らの思いを汲んでくれているようだ。

おばあさんは駄菓子が好きだった。
とある夜勤の日。駄菓子を片手に居室から出てきては、
「あんた寝えへんの!これ食べよ!」
と一緒に、いつの祭りの景品かわからない駄菓子を食べたことを思い出す。

そんなおばあさん、ご飯を食べなくなって、お菓子も食べなくなったが、たまごボーロだけは食べてくれることに気づく。
一つ一つゆっくりではあるが、自ら口に放り込む。その動作は薬を飲んでいるそれに近い。

その日から、おばあさんの主食はたまごボーロとなった。

「今日は十五ボーロです」

「昼二十ボーロも食べてくれました!今日は調子が良いみたいです!」

「夕方はボーロが減少傾向にあるみたいです」

おばあさんのためだけの、特別な申し送りが続く。

食べて欲しいという思いと、もう食べなくてもいいんじゃないか、という思いが交差する。
アンビバレントな感情を抱えながらも、おばあさんの食べられるボーロを今日もみんな数えていく。

その時が近いという暗黙の了解を胸に。

おばあさんは駄菓子が好きだった。

好きな時に好きな物を。

普通だけど、特別な、おばあさんだけのたまごボーロを、今日も数えていく。

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