見出し画像

初の『キレッキレ』

オーボエは世界一難しい楽器としてギネスに認定されている、と聞く。確かにあの複雑なキー並びは運指の大変さを想像するに難くない。二枚のリードはプロでも常に調整に神経を尖らす。絶好調のリードに出会う難しさはクラリネット吹きにもわかるが、こちらは市販品なのに対しあちらは『自作』である。難しいと言われるのも納得、という気持ちにさせられる。
金管楽器ではホルンがそうらしい。マウスピースの口径が狭い上に、管が恐ろしく長い。良い音が鳴るように息を「当てる」のが難しいのは容易に想像できる。特に小さい音を出すのはかなりの技術を要するそうで、プロでも嫌なものらしい。マンガ『のだめカンタービレ』(二宮 友子作 講談社)にも、指揮者コンクールで千秋真一に「もっと小さく音を出して」と言われたプロ奏者が千秋をにらみつけるシーンがある。なんでも二宮さんがプロのホルン奏者に取材して『指揮者に要求されたら一番嫌なこと』を聞いたら奏者の答えが『「小さい音を出せ」って言われたらムッとします』だったとかで、そのまま採用したそうだ。
エスクラリネットも『上手な素人はいない』と言われる。音程をコントロールするのが難しいからそう言われるのだろう。勿論私も下手な吹き手であることをを自認している。師匠のK先生が
「素人にはピッタリ正確な音程を取るなんて無理です」
とおっしゃったことがあるが、エスクラリネットに関する限りわかる気がする。

そうは言うものの、オーボエにしてもホルンにしてもエスクラリネットにしても、アマチュアながら『凄いなあ』と思える人には何人かお目にかかった。アマチュアとして、ではあるが極める人はいるんだなあ、という感想を持っている。
が、私が今まで一人もそういう素人にお目にかかったことがない楽器がある。
ドラムセットである。

打楽器全般がタンバリン一つでも実は凄く難しいものであると思う。ドラムセットはその難しい打楽器の寄せ集めである上に、足と手をバラバラに動かす必要がある。エレクトーンやパイプオルガンといった楽器もそうだが、こういう動きの出来る人を私は心から尊敬する。
人間の本来の機能から著しくかけ離れた動きを要求されているではないか。
上手く演奏することが出来なくたって当然ではないだろうか。
川口千里みたいな天才は、きっと神様から「お前はドラマーになんなさい」と言われて地上に降りてきたのだ、と思っている。

ジャカスカ大きな音は出せるが小さな刻みは苦手、バスドラムの音がドスドス重くなり切れが悪い、気の利いたハイハットシンバルの音がどうしても鳴らせない、速くなる、遅くなる…等々、今まで私が出会ったアマチュアドラマーはこんな具合で皆さん苦戦していた。
吹奏楽にはジャスやポップスの曲が多くあるが、かなりの割合で管楽器は指揮者よりもドラムセットを頼りに演奏する。だから『ドラムこけたら皆こけた』という悲惨な事態を招きやすい。
非常にスリリングで責任重大な楽器である。

今度の定期演奏会の演目にはスイングジャスや超高速のポップスがある。ウチの楽団のドラマーも全然下手ではないのだが、所謂『キレッキレ』ではないので演奏後なんとなく消化不良感がある。口では説明しづらい。でもなんか違う。
団長が「吹きづらい」と業を煮やして、とうとう助っ人を呼ぶことにしたらしい。某有名音大の打楽器科在籍中の学生さんなんだそうだ。楽団の打楽器トレーナーの先生のご推薦らしいから、きっと『キレッキレ』に違いない。
専門教育を受けている人の参入は心強い。

私は上手な人の演奏を聴くとついうっかり『お客さん』になってしまう。吹くのを忘れてしまうのだ。今回も気を付けよう。初めて共演する『キレッキレ』のドラム。どんな感じかな。
今日はその学生さんとの初合わせである。今からとてもワクワクしている。