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ZZZ・・・

私はどこででもすぐに寝てしまう女である。
今日のような夏の風呂上がり、ほこほこの身体をキンと冷房の効いた部屋で冷やし始めると、次第に強烈な睡魔に襲われる。
体温が下がる時に眠くなる、と言うのを聞いたことがあるが、多分本当だろう。
先日など、風呂上がりに床にペタンとお尻をつけてストレッチをしていたら、冷たい床のあまりの心地良さに、ストレッチの途中で眠ってしまった。
変な態勢で寝ている私に驚いた夫に揺り起こされるまで、全く気付かなかった。軽く鼾もかいていたらしい。
他人には見せられない醜態である。

閉経するまでは貧血が酷かったため、色んな所で強烈な睡魔に襲われて困っていた。どうも貧血は眠くなるらしく、勤めていた頃も会議中などに眠さを抑えることが出来ず、どうしたものかと真剣に悩んでいた。
営業車の運転中急に眠くなり、危険を感じて、路肩に車を停めて仮眠を取ったことも何度かある。現金を沢山持ち歩いている時などは気が気ではなかったが、自分の意思でコントロール出来ない睡魔を抑えるにはこれしか方法がなかったから、已むを得なかった。
閉経してからは少しマシになったように思う。少なくとも、運転中に眠くなることはなくなった。

困るのは合奏中に眠くなる時である。
私の担当するエスクラリネットは、曲中で長い休みがよくある。派手な高音のなる楽器なので、静かな旋律の時はお休みになることが多いのだ。
大体は穏やかで気持ちの良い、ゆるやかな旋律のところなどを、十小節以上休むことが多い。
合奏の部屋は快適な音程を保つ為、夏は冷房で、冬は暖房で、程よい温度に調節されている。楽器にとってちょうどいい室温は、人にとっても気持ち良い。そして耳に入ってくる旋律は静かで穏やかとくる。
ゆりかごの中で子守唄を聞いているようなものだ。寝るなと言う方が酷である。

しかし寝てしまうと次に入るところが分からなくなるので、こういう時は眠るまいと様々な工夫をこらす。膝をつねってみたり、足の指をぐにゅぐにゅ動かしてみたり、踏んでみたりするが、いつも睡魔に負けそうになる。
あと何十小節か休みが長かったら危ないところだった、という経験もした事がある。決して自慢にはならない。
因みに知人のチューバ奏者は、オーケストラの舞台で真剣に寝てしまい、最後の一音が吹けなかったことがあると言っていた。確かチャイコフスキーの四番?だったそうだ。出番がその最後の一音しかなく、オーケストラの演奏を聴きながらずっと舞台に座っているうちに、気持ち良くなって寝てしまったらしい。
こういうのは稀にあることで、『寝落ち』と言う。大変不名誉で恥ずかしいことである。絶対にやりたくない。

さすがにレジは立ち仕事だから、眠くなることはない。しかし電車で立っている時に寝てしまうことは、今でもよくある。
いつも階段を踏み外したような、ガクッと膝が折れる感覚で目が開いて、全身に冷や汗をかいたりする。反射的に、つり革を必要以上にぐっと握りしめてしまう。誰も見ていないだろうに、恥ずかしくて俯いてしまうのが常だ。

寝転がってスマホをいじくっているうち、睡魔に襲われることもある。すると顔の上に突然スマホが降ってきて、自分でびっくりして目が覚める。
ここまでわからないなんて、何かの病気かとも思うが、健康診断の数値は極めて正常値なので、単に自堕落なだけだろうと思っている。
夫も同じことをよくやっている。寝転んでスマホ、は眠くなるものらしい。

余程睡眠が足りていないんだ、お前は夜更かしする上に朝早起きだからいけない、と夫などは猛烈に非難する。
しかし自分は寝不足の実感がないので、その所為ではないと思っている。
私の睡眠時間は確かに、やや平均より短いかも知れない。しかし眠りが足りなくて辛い、と感じることはないので、これが私の適正睡眠時間なんだろうと思っている。
だから睡眠不足による眠気だとは、思っていない。
何時間寝ないといけないとか、色々脅迫めいた情報は日々、耳に入って来るが、どれも気にしないようにしている。
眠れる時に、眠れるだけ眠る。それで良いと思っている。
あ、合奏中は禁止だけど。