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夫がいないと

夫がいないと、掃除がはかどる。
夫がいないと、食事の支度が楽だ。
夫がいないと、洗濯が早く終わる。
夫がいないと、ドラマがゆっくりみられる。
夫がいないと、一番風呂に入れる。
夫がいないと、洗う皿が少なくてすむ。

仕事帰りにちょっとゆっくり自分の用事が出来る。
カーテンも雨戸も、好きな時間に閉められる。
「おーい、ちょっとー」と呼ばれて、手を止められることもない。
綺麗にしたばかりのシンクに、使用済みのコップをポンと置かれることもない。
美味しいデザートを食べていても、「ちょっと一口味見させてくれ」と言ってフォークで横から削られることもない。
「お前は甘いもん食い過ぎや」と理不尽なお説教をされることもない。

眠い時に「背中を押してくれ」と頼まれることもない。
出勤しようとドアを開ける瞬間に、「ハンカチ取って」と言われることもない。
部屋中に散らかったなんやかんやをよけながら、掃除機をかけることもない。
敷きっぱなしの、汗臭い重い布団をあげることもない。

こう書いてくると、なんだか良いことばっかりだ。
身体は楽だし、時間にもたっぷり余裕ができる。
部屋は広々している。
何時に寝ようと起きようと自由だ。

だけど、なんだか肩のあたりがスースーする。
「ごちそうさま」と言っても、「うまかったなあ」と言ってくれる相手はいない。
玄関を施錠すると、さあ今晩一人で過ごすんだな、とほんのちょっと気が引き締まる。

いつの間にか、必ず傍らにいてくれる人になっている。
いつの間にか、必ず傍らにいる人になっている。
いつの間にか、それが重荷ではなくなっている。
いつの間にか、それが当たり前になっている。
いつの間にか、これから先の人生も一緒に歩む気になっている。

愛とか情熱とか、そんな熱いものはない。
お互いを理解しようとする静かな心が、歳と共に少しずつ深くなっていくのを感じる。
相変わらずしょうもない喧嘩もするし、小競り合いはしょっちゅうだけれど。

出会ってくれてありがとう。
あなたが私の伴侶で本当に良かった。
心からの感謝を。


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