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幸せの五本指ソックス

外反母趾に永らく悩んでいた私は、ここ数年五本指ソックスを愛用している。昔は関心が全くなかったので、どんなデザインや材質のものがあるかなんて知らなかったのだが、驚くくらい豊富な種類があり、買う時にはいつも迷ってしまう。
仕事の時に履くものは酷使することになるので、三足いくらでウチの衣料品売り場で売っている安いものにしている。我々従業員は靴下とパンティストッキングは『必需品』とされており、購入する時に社員証を提示すればお値段に関わらず必ず一割引き、という大変お得なシステムがある。支給しない代わりに値引きで許して、ということらしい。
これを使わない手はない。いつも何足かまとめて買ってローテーションし、傷んで来たら捨てるようにしている。

元々は存在を知ってはいたけど、試してみたことはなかった。一本ずつ足の指をあの小さな袋状の部分に入れるのって面倒くさそう、時間かかりそう、と敬遠していたし、洗濯の時に指の部分をちゃんと綺麗に洗えるのか?と疑問も持っていた。
夫が登山に行く時、
「ぎゅっと地面を掴みやすいから」
と言って五本指ソックスをわざわざ履いていくことはあったが、その言葉を聞いても
「足の指で地面を掴むなんて、あり得へんやろ」
と笑って、大袈裟なことを言う人や、と半分小ばかにしていた。
この私の稚拙な考えを変えてくれたのは、今お世話になっているKさんというフットケアラーさんである。

関西を離れる直前、私は足の裏に出来た硬いタコと、甲の耐え難い傷みに悩まされていた。外反母趾のせいだとは分かっていたが、病気でもないのに整形外科に行くのも憚られた。しかしこのまま放置すれば、年齢を重ねるにつれ段々歩けなくなっていくのではないか、と心配になってもいた。
何かいい方法はないか、と探していた時に巡り合ったのが『ドイツ式フットケアのお店』である。店主は当時私の住んでいた県で、ただ一人のフットケアラーであるFさんだった。
Fさんのたった一度の施術で、私の足は信じられないくらい快適になった。

しかしフットケアは何か月かに一度、定期的にやらねばならない。歩き方の癖や日頃履いている靴のせいで、放っておくとまた同じような問題が起こってしまう。
生憎Fさんのところに行った時は、二か月後に関東への引っ越しを控えていた。通いたいのは山々だが、何度も通える距離ではなく、ちょっと困ってしまった。
「じゃあ、お近くで開業している私の知り合いを紹介しますね」
とその時Fさんが紹介して下さったのが、Kさんである。それ以来のお付き合いだ。だからもう三年になる。

いつも施術は土曜日の午後と決まっているので、仕事を終えた後、職場から直行する。靴下が汗ばんできっと匂うだろうと思い、履き替えてから行くようにしている。
ある時、施術終了後に靴下を履いていると、Kさんがまじまじと私の足指を見て、
「在間さん、足指の掴む力弱いから立ち仕事しんどいでしょう?五本指ソックスにすると随分疲れ方が違いますよ」
と勧めて下さった。
なんでも、指と指が離れることで、自然と足指が地面を掴もうとする為、指の力が鍛えられ、ひいては歩く時の助けにもなるのだという。

足指はただ足にくっついているだけのものではなくて、地面を蹴りだすようにして歩く為に大変重要な役割をするものなのだ、と教えてくれたのもKさんである。
歩く時の基本動作はこうだ。
先ず踵が地面に着く。そこからつま先にかけて足裏が地面に降りて行く。足指が地面に着き、踵が上がり、足指が『地面を掴んで』蹴り出す。
この動作の繰り返しが理想的な歩き方なんだそうだ。
だから足指の『掴む力』は、正しく歩く為に実はとても大切なのである。

私はずっと、足指の付け根の部分だけか、もしくは足裏全体を同時にべたんと地面に着けるような歩き方をしてきたものだから、足指の力が信じられないくらい弱かった。
「足指って、鍛えないとドンドン弱りますよ。早めに鍛えておくのがお勧めです。毎日、無理なく少しずつで良いですから」
そう言われて、意識的に履きだした五本指ソックスだった。
最初は違和感があって、ちょっと面倒くさかった。洗濯の時に裏返すのも手間だと感じた。
しかし今はこれでないと落ち着かない。普通の靴下を履くと、指が寄ってしまっているような気がして、かえって窮屈な感じがしてしまう。洗濯に出す時に指の部分を裏返すのも、もう『いつもの作業』になってしまった。
慣れというのは恐ろしいものだ。

私の足を生きかえらせて下さり、Kさんを紹介して下さったFさん。
施術の度に色んなアドバイスを下さり、毎回『ドンドン良い足になっていってますね!』と喜んで下さるKさん。
最近はタコもほぼなくなっているし、甲の痛みが出ることもない。
有難い出会いを頂けたことに、とても感謝している。
私はこれからもずっと、五本指ソックスを愛用するつもりでいる。