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クラリネットのストラップ

サックスやクラリネットと言った縦笛系の楽器を演奏する際は、その管体を支える為にストラップを使用することがある。サックスの場合、重量が非常にあるので使用しなければ演奏自体不可能である。管体にちゃんとフックを引っ掛ける場所が作ってあって、そこに引っ掛けるようになっている。
バスクラリネットもサックス同様、フックを掛ける所がある。だが所謂普通のクラリネットやエスクラリネットにはついていない。着けなければ演奏が出来ないほどの重量はないからだろう。

一応クラリネット用にもストラップは存在する。伸び縮みする素材で、演奏にも不都合は出ないよう工夫されている。
ストラップを引っ掛ける部品はついていないが、『指かけ』という一センチ程度の金具が本体裏の下の方に飛び出しているので、それに引っ掛けるのだ。引っ掛けるものが何もついていないオーボエよりマシかも知れない。
だが私の周りを見る限り、ストラップをつけている人は多くない。プロ奏者では一人くらいしか見たことがない。一般的には着けても良いけど着けなくても良いもの、それぐらいの感覚だと思う。
私は今まで着けたことはない。そもそも持っていない。

バスクラリネットの場合は立奏をする時や、楽器を持ち運びする時などは着けた方が安心な為着けていたが、演奏時は着けていなかった。
演奏中胸元にブラブラ紐状のものがぶら下がっているのは、煩わしくて鬱陶しい。私は好きではない。ちゃんと奏者のことを考えて作られているから、使えば快適な面もあるのだろうとは思う。だが今日まで着ける気になれず、ずっと使ったことはない。
同じくらいの年齢の友人の中には、着けている人がそこそこいる。曰く、
「楽だよー」
ということなのだが、『面倒くさい』という思いが『楽をしたい』という思いに今のところ勝っている。

だが最近、そうも言ってられなくなってきた。右腕の筋肉痛に悩まされているのだ。力を入れづらい。
原因は右手親指にあると思っている。先程述べたクラリネットの『指かけ』はこの指に乗せるように出来ている。乗せる場所は爪の右横、第一関節と爪の間くらいの位置である。私だけでなく、クラリネット奏者は皆大抵、ここに大きなタコが出来ている。通称『クラリネットだこ』という。
このタコが最近痛む。私は手首はかなり細い方だが、楽器をやっているお陰か指や腕の筋力は結構ある。指に関しては夫よりあるかもしれない。が、寄る年波には勝てないのか、このタコから肘、二の腕にかけて痛みが出るようになってしまった。
右の小指にも慢性的な痺れが出るようになった。痛みはなく感覚はあり普通に動かせるのだが、小指だけ二十四時間電気風呂に浸けているような感じだ。日常生活に支障はないが、ちょっと違和感がある。おそらく使いすぎが原因だろう。
身体の不調をくだくだと述べるのも聞くのも大嫌いなのだが、自覚症状があるのは認めざるを得ない。

指かけそのものは金属製だが、ゴム製の『サムレストクッション』と言うものがあり、これを装着することが出来る。着けると吹奏感が劣る、という人もいるが、私は着けるようにしている。痛くてたまらない時は演奏どころではなくなるので、最近着けるようになった。
着けると快適である。柔らかいし、指に安定してフィットする。最早手放せない。

が、やっぱり筋肉痛は改善の兆しを見せない。
今日近所の楽器屋にストラップを見に行った。別にそんなに高いものではない。買ってしまおうかな、と何度も手に取った。万引きと間違えられそうなくらい、ウロウロと思案していた。
が、『面倒くさく煩わしい』という気持ちがどうしても拭い去れず、結局買わずに帰ってきた。これでは何をしに行ったのかわからない。

筋肉を鍛えるか、根負けしてストラップのお世話になるか。諦めの悪いアラフィフおばさんだなあ、と思いつつ、もう少し粘るつもりである。
師匠のK先生に知れたら、
「無意味な意地っ張りはよして、さっさとストラップ着けなさい」
と言われてしまうかも知れないが。
やっぱり好きでないことはしたくないのだ。

(※写真は愛器エスクラリネットの指かけを裏側から撮ったものです。ピンボケしていますが。)