withコロナの時代に日本酒はどこへ行くのか。

はじめに

僕は今も日本酒業界の片隅にわずかに身を置いていて、古巣でも一つの会社ではあったけど、色々な役割を与えてもらっていたので、比較的いろんな側面を見てきた。

その中で、日本酒というものを心から愛して、業界そのものを応援するようになったし、そして日本酒の魅力を知ろうとする若い世代は意外にも多く、日本酒の未来は明るい、と確信していた。

だが、その中で新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)の猛威は突如として世界中を襲い、たくさんの方の生命を脅かすこととなった。

経済封鎖や自粛が行われ、日本は第一波を乗り越えたと言われるが、日本酒業界にも大きな影響を今なお及ぼしている。

さて、偉そうなことを書くつもりはない。

書ける立場にもない。

飲んで応援、とも僕は安易に言葉にはしたくはない。だって誰もが余裕があるといえる状況ではないから。
僕だって、正直、買って応援できる状況ではない。

なので、このnoteはただまとめるだけのものだ。

沢山散らばる情報の中で、何か唯一絶対といえるものも無い中で、およそ確からしいというものをより集め、仮説を立てていく。

僕の思考を、ここにまとめ、置いておきたいと思う。

ただ、現場から離れてしまったので、リアルな生の情報が手元に不足していて、ニュースなどから読み取れる二次情報が中心になってしまうことだけが少し心苦しいところではある。

それでも、誰かの何かの役に立てばとても嬉しいなと思いつつ、書き始めてみよう。

なお、色々なところから引用をさせていただくので、敬称は省略させていただきたいと思う。


今、酒蔵に何が起きているのか

新型コロナウィルスの影響を受け、日本の経済の多くが影響を受けている。

僕は情報を読み解くとき、マクロ(広い視点)とミクロ(細かな視点)の両方からぼんやりと手がかりを探していくことが多い。

飲食店がヤバい、酒蔵も大変、そういった声は聞くが、何がどうヤバくてどう大変なのか、少し深めていきたい。

こちらの未来酒店のプレス記事では3軒の蔵元が登場し、口をそろえて

(売り上げが)4月は半減

とコメントされている。

こちらの福井新聞で紹介される蔵に至っては

前年同月の2割ほど

と言葉にされている。

何となく、僕の周辺に集まった情報を取りまとめてみて、概ね

前年同月比の50%程度のダウンがありそうだ、という予測を立てている。


とはいえ、純粋な前年同月比というのは少しフェアではない。

コロナの前から売上は下がっていたのか、コロナの前は売上は上がっていたのか、という視点も必要であろう。

この食料産業新聞社の記事では2019年の課税数量(酒税が掛けられた液体の量)が取り上げられている。

画像1

(※リンク先より引用)

これは単価が掛かっていないので直接的な売り上げとは言えないが、国内消費の変動を読み解くことはできる。

ここで読み取れるのは2019年の日本酒(清酒)の売上は5~6%程度落ちている可能性が高い、ということだ。

酒蔵の規模は考慮されないため、いわゆる地酒が下がったのか、ナショナルブランドが下がったのかまでは明確に追えない、という点は申し添えておきたい。
ただし、タイプ別の特定名称酒、特にこれまで横ばいか増を続けていた純米酒・吟醸酒カテゴリでも微減か横ばいという数字のため、

多くの酒蔵で下降トレンド(減~微減)に差し掛かっていたのではないか、ということが予想できる。

つまり、コロナ以前から苦しくなりつつあった酒蔵が、コロナで一気に苦境に立たされたのではないか、という予想が朧げに見えてくるのではないだろうか。

では、どこの売り先が下がったのか、もう少し考察を深めていきたい。


どの業界から日本酒は消えたのか

コロナの影響で日本酒は昨年対比で半減していると考えられるが、それ以前からも下降トレンドに入っていたのではないか、という予想を申し上げたが、

では、実際に日本酒はどこで消費されるはずだったのか、その消えた消費はどの業界のものだったのか、もう少し考察を続けたい。

さて、これはJCB消費NOWという

匿名加工されたJCBのクレジットカードの取引データを活用して、現金も含むすべての消費動向を捉える国内消費動向指数

の4月の動向を示し分析されたものである。

画像2

(リンク先より引用)

列一番右側の「参考系列」というものが1月以降の特にコロナの影響を抽出したもので、その左が「本系列」が前年比となっている。

今回は日本酒のお話なので、特に日本酒と関係があると思われるところを見ていくが、全体として目を疑うような数字が並ぶ。

特に減少しているものは
●百貨店(約-63%)
●居酒屋(約-77%)
の二つ。
また、旅行が大きく数字を落としていることも、「お土産物需要」が一定存在する日本酒にとって打撃を与えていることは予想はできよう。

その一方で増加しているのは
●スーパー(約+30%)
●酒屋(約+30%)
●EC飲食料品(約+41%)

である。
酒屋に関しては少し僕の聞いていることと異なる情報がここには表れていて、
例えば業務用(飲食店メイン)の酒販さんや、町の酒屋さんなどはもっと苦しいような情報を耳にすることが多い。

例えばカクヤスなどは下記リンクの通り、4月の業績が半減していて、特に業務用需要が8割ダウンしている。

その一方で、小売りメインの郊外のワインショップなどはかなり盛況とも聞き、

店舗によってのかなり格差が出ているのではと感じている。


さて、この数字だけではまた判断はつかない。

日本酒の消費は元々どこで行われていたのかについても見ていきたいと思う。

さて、これは僕が数年前に国税庁が発行する「酒類小売業者の概況」の中にある1-3-2 品目別小売数量から、清酒の業態別販売数量を元に作成したグラフだ。

画像3

これも清酒、とひとくくりになっているのでナショナルブランドと地酒を分けて読み解くことは出来ないが、

日本酒がどこでどんな割合で販売されているのか、ということをうかがい知ることが出来る。

さて、上記の数字と、前述のJCB消費NOWの情報を照らし合わせると、

一般酒販店(23.7%) は 好調(+30%)、
スーパーマーケット(36.6%) は 好調(+30%)、


百貨店(1.5%) は 激減(-63%)

業務用主体店(6.3%) も居酒屋の数字を当てはめるとして 激減(-77%)

というところのはずである。

しかし、これでは酒蔵の売上が半減する、という数字は表れない。

日本酒の販売数量の70%を占める上位2つが30%増の数字になれば、酒蔵は売上増につながっていてもおかしくない。

が、現実にはそうなっていない。


これらを踏まえ、少し仮説を立ててみたいと思う。

仮説

ここまでで

●酒蔵の売上は半減している(可能性が高い)
●売上が上がった業種と下がった業種がある
●清酒の業種別の販売割合とコロナの影響を受けた数字を合わせてみると、納得感のいく数字にならない

ということを確かめてきた。

なぜ納得のいく数字にならないのか、今回の数字の見えないところに要因が隠れているからだろうと考えられる。

例えば、

清酒と数字がまとめられているので見えないが、ナショナルブランド(大手酒蔵)は好調だが、地方の地酒蔵は苦しい

という仮説や、

消費マインドの変化で酒屋の売上増のうちワインやウイスキー、ビールなどのほかの酒類の消費が伸びていて、日本酒の消費は落ちている

といった仮説が立てられる。

検証してみよう。

例えばこれは酒販ニュースのバックナンバーで、見出しは無料で見ることが出来る。

これによると

【新型コロナウイルス禍】
4月の清酒出荷15%減、大手は健闘

という風に記載がある。

4月の清酒カテゴリ全体では15%ダウンしているが、大手が健闘(横ばいor微増?)
ということが読み取れる。

これで前述した仮説の「ナショナルブランドは好調」は半分程度当たっていた、と言えるだろう。
また、カテゴリ全体で15%ダウンという情報も出てきた。

半減、という情報が前半から踊ってはいたが、全体としては実際は15%ほどの減ということになる。

ただし、課税数量の割合を大きく占める大手蔵が健闘しているということは、全体としては大きく数字に表れにくいと言える。

その結果が15%であり、地方の地酒蔵はより苦境に立たされているといえるかもしれない。


続いて、消費マインドの変化はあったのか、ということを検証したい。

さて、これは食料産業新聞社の記事に出ていたPOSデータを基にした売り上げの変化を紹介した記事だ。

小売店の日本酒の変化動向を掴むことができる。

表を抜き出してみたいと思う。

画像4

画像5

ここから、清酒は前年比で90~95%程度の数字に落ちていることが見えてくる。

逆にリキュール、スピリッツ、ウイスキー、果実酒(ワイン)あたりが前年比で110%程度と好調であることが分かる。

このことから、消費マインドの変化も起こり、家呑み需要に日本酒は置いて行かれてしまった。

という可能性も見えてくる。


情報をまとめると

さて、これで納得感の行く数字になってきた。情報を整理したいと思う。

●酒蔵の売上は半減している(可能性が高い)

  →大手蔵の健闘で、実際に清酒全体では15%ダウン。ただし、地方の地酒蔵は半減しているところは事実あり、課税数量の比率の低い地酒蔵はダメージが大きいと言える。

●清酒の業種別の販売割合とコロナの影響を受けた数字を合わせてみると、納得感のいく数字にならない

  →消費マインドの変化で日本酒は減少、リキュールやスピリッツ、ウイスキー、ワインなどは伸びており、日本酒は家呑み需要にやや置いて行かれている可能性


というところが見えてきて、違和感は少し解消できたように見える。

では、総括に入りたいと思う。


日本酒業界に何が起こっているか・考察まとめ


ここまで情報を集め、仮説を立て、検証を行って、情報の精度を上げてきた。

ここまで来て、ようやく日本酒業界に「今、何が起きているのか」ということが外部からもやや実体を持った像として浮かび上がってきた。

ここまでの情報を踏まえ、僕の私見として状況をまとめよう。

①地酒蔵の窮地

日本酒(清酒)カテゴリは全体として15%程度の需要減がおきている。それは飲食店やデパートの休業、旅行などのお土産需要が失われているからと考えられる。
その一方で、スーパーや一部の酒販店の売り上げは伸びているが、そういった店舗で棚を抑えている大手のナショナルブランドが健闘し需要を維持しているため、一部の地酒蔵が売上が半減するなどの状況が続いている。

需要を維持しているブランド力のある酒蔵や中堅どころもあると予想できるが、多くの体力のない地酒蔵が窮地に立たされている。


②流通構造の窮地

ここまでの分析の中で、大きな販売力があり、今なお売り上げを伸ばしているスーパーや小売メインの販売力ある酒販店は、主に大手のナショナルブランドに抑えられている可能性が高く地酒蔵はなかなか入り込めていない、またそういった棚で選ばれることが難しいのではないか、ということも想像できてくる。

その一方で、地方の地酒蔵の主戦場であった可能性の高い飲食店・百貨店は休業を余儀なくされており、今後も苦しい状況は続いていく可能性がある。

そうなった場合、飲食店や百貨店はどんどん体力を失い、閉店や廃業となることさえ考えられる。
それは飲食店メインで販売をしている酒販店も同様である。

そうなると、地方の地酒蔵の売上基盤をつくっていた流通構造ごと破壊されてしまうことを意味しており、

地方の地酒蔵にとってますます苦境に立たされることになりかねない。


この2点が喫緊の問題として日本酒業界、特に地方の地酒蔵に降りかかっているのではないかということを感じる。


酒蔵は生き残るためにどうするのか・案


この問題を受けて、地方の地酒蔵はどうすれば生き残ることが出来るのか、案を考えていきたいと思う。

これは大いに私見の入るところではあるし、ほかの意見も大いにあろうかと思う。一応今回のデータをもとに練りだしてみるが、やれば必ず生き残れるというものではない。

何もしなくとも、コロナ禍が大したことなく終わって、元の状態に戻ってくれることも同時に願うが、

やはり窮地に変化し対応していくほうが、生存率は上がるように思う。

とはいえ、あくまで可能性の一つとして、案を出してみたいと思う。


①ECへの対応

最初のJCB消費NOWの情報からも、ネットショップ(EC)の販売需要は強く伸びていることが分かる。

ここの需要にアプローチしていくことはまず取り組むべきことのように見える。

具体的にどんなサイトで、どんなカートでとか、モールへの出店なのか自社サイトなのか、などなど、各蔵の状況によって全く異なると思うが、

何らかの形でECをはじめ、それを認知してもらうことが必要だと思う。

つまり、モール出店ならモール内SEOを考える必要があるし、自社サイトならSNSを駆使する必要がある。

ECで欲しい、という人に、ECを始めたよ、という情報が届かねば伸びていても売れないものは売れない。

ただ、始めればチャンスにつながる可能性は高い。


②家呑み需要への対応

スーパーなどでも日本酒が選ばれていないことも数字に出てきており、家呑み需要など、消費マインドの変化に日本酒が対応できていないことが予想できる。

現状家呑み需要に対応しているといえる、売り上げを伸ばしている商品はリキュール、ウイスキー、スピリッツ、ワイン(果実酒)の4つ。

今後も家呑み需要は一定の需要拡大をしていく可能性はあり、商品を見直して対応していくことで需要に対応できるかもしれない。

具体的には一升瓶など大きなサイズを小さな小瓶に対応する、といったことが真っ先に思いつくことだ。

他にも容器を見直したり、パッケージを見直したり、飲み方の提案を変えたり、味わいを変えたり、ということもやってみる価値はあるかもしれない。


そのほか、案として考えられることは

売上を伸ばす酒販店や地方のスーパーに入れられるよう工夫したり、店頭で見つけてもらうためにPOPをつけたり工夫したり、ということも考えられるけれど、それは酒蔵の営業マンの腕の見せ所と言えよう。


まとめ

酒蔵、とくに地方の地酒蔵にとっては、窮地と言える状況で、その状況はこれからも続くのではないかという懸念がある。

特に体力(資本力)のない地酒蔵ほどダメージを受けていることも想像でき、一つでも多くの酒蔵が、一つでも多くの銘柄がこの世に残されることを願ってやまない。

そんな中で生き残るための一助となればと、今、僕が出来ること、として無数に散らばる公開情報の中から現状を分析して、それを精査して、案を出してみた。


僕は日本酒と、そしてこの業界とそこに関わる多くの方を愛するものとして、何か出来ないかと思ってこのnoteを書いた。

これが、酒蔵にとって、この業界にとって、何かの一助になれば、とても嬉しい。

サポート頂けると、泣いて喜びます。 たぶん、むせび泣くと思います。 生活に余裕は無いので、頂いたお金は大切に使わせていただきます。