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JST「目利き人材育成プログラム」のススメ 後編

はじめに

 2022年9月7日〜8日に、JSTが主催する「目利き人材育成プログラム:研究推進マネジメントコース・アドバンス編」に参加しました。9/7カリキュラム(A課程)で学んだことについては、下記のnoteでまとめていました。

 9/8カリキュラム(B課程)は後編としてまとめようと思っていたのですが、だいぶ時間が経ってしまいました。令和5年度も募集が始まると思いますので、改めてこの記事で整理したいと思います。なお、各課程の講義テーマは下記の通りです。

  • A課程:産学官連携を推進する組織作りと課題克服への取り組み

    • 産学官連携の現状と推進活動

    • 産学官連携とのかかわり方と基本姿勢

    • データ活用の取り組みと分析

    • 産学官連携にかかるリスクマネジメント

  • B課程:知財戦略や契約交渉の実践と組織の研究力強化

    • 大学における知財の意義と戦略

    • 共同研究契約について

    • 技術移転に関する業務課題と解決に向けて(ワークショップ)

大学における知財の意義と戦略(大阪大学・正城先生)

  • 知財のうち主に特許にフォーカスして、大学における意義、特許制度、大学での支援制度について解説されていました。

  • 大学にとって知財とは、研究成果の社会実装の選択肢を拡げてくれるものです。例えば特許があれば、共同研究、受託研究、譲渡、ライセンス、ベンチャー起業等の社会実装の形態や可能性が増えます。

  • なぜ、研究成果を社会実装することが重要なのでしょうか?それは社会からのフィードバックループを創ることによって、大学での研究をさらに進化させるためです。

  • 大学での知財支援活動としては、1. ライセンス活動(TLO等)、2. 企業マッチング支援(大型共同研究、イベント出展等)、3. ベンチャー起業支援等を行っています。

  • 大学のライセンシング活動については、JSTの「大学技術移転のロールモデル」資料を参照していました。下記のようなライセンシング活動のフローに沿って解説されており、よくまとまった資料だと思います。

  • グループワークでは、「令和2年度大学等における産学連携等実施状況について」で公開されているデータ(主に様式4、様式5、様式6-1)を見て、自分が所属する機関の課題や、同規模の他機関との比較等を考察し、意見交換しました。私は大学所属ではないので、出身大学である早稲田大学のデータを見て特徴を考察しました。

<産学連携等の実施状況データから見る早稲田大学の特徴>
特徴1:特許出願の厳選
様式4(発明状況)によると、特許出願/発明届 = 5/119 = 4%となっているが、これは間違いなのではないか。様式5(特許取得及び管理状況)によると国内特許出願件数が86件と記載されている。もし86/119だとすると72.2%であり、全体比率の84%よりも少し厳しめに発明届を目利きして特許出願しているのではないか。

特徴2:実施許諾の多さ
様式5(特許取得及び管理状況)によると、国内保有特許権は425件、実施許諾中のものは270件ある。特許件数は第20位だが、実施許諾件数は3位であり、保有特許のうち実施許諾をしているものの比率が高い。産業に活かすマインドが高いのではないか。

特徴3:経済的収入が低い
様式6-1(特許権の実施許諾等)によると、国内-収入額-契約別-計は12,595千円で35位である。実施許諾特許数が1位・東大(615件)は収入では2位(254,961千円)、2位・京大(319件)は収入では1位(664,128千円)であり、大きな差をつけられている。

強み・弱み仮説
保有特許の厳選、産業へ活かすマインドは高い点が強みだが(特徴1、特徴2)、いかに経済的収入に繋ぐことができるかが課題なのではないか(特徴3)。課題認識や打ち手など、早稲田内部の方に伺ってみたい。

共同研究契約について(九州大学・小川先生)

  • 共同研究における契約の重要性や実際の書き方について、事例を用いながら教えていただきました。

  • いきなり契約書を文章で書こうとすると難しいので、タームシートという契約の主な項目を表にしたものをベースに作ると良い。特許庁のオープンイノベーションポータルサイトに、様々なケースのタームシートを公開しているので参考になりそうです。

  • 大学と企業の共同研究の成果は、基本的には共同特許という形になる。これは下記表のように、大学と企業の理想が大きく異なる形である。そこで、現実的には、企業が特許を独占するか非独占するかを出願時に決定させる。そして、大学は企業から実施対価をもらうか、非独占の場合は第三者ライセンスによる収入を狙う。

おわりに

 このように、B課程では大学における知財マネジメントに関するテーマが中心でした。このカリキュラムを受け、「TLOとライセンス・アソシエイト―新産業創生のキーマンたち」という書籍を思い出しました。

 大学における知財マネジメントの重要性について、遺伝子組み換え技術を巡るエピソードがあるので紹介します。

 コーエンとボイヤーによる遺伝子組み換え技術は、80年に特許が付与され、特許権が切れるまでに450以上の企業にライセンシングされ、スタンフォード大学には2億5000万ドル以上の収入をもたらした。これを起点に米国でバイオベンチャーが続々と誕生し、バイオ産業が形成されていった。
 この技術を特許化し、技術移転させた育ての親はライマースである。生みの親であるコーエンは「特許化せずに広く使ってもらいたい」と考えていたが、ライマースは産業化できると目利きし、コーエンとボイヤーを説得して特許出願を行った。ライマースがこの技術を全ての企業が必要となる基盤技術であると認識し、非独占的にライセンスするという方針を打ち出したことで、バイオ産業が発展が加速したと言っても過言ではない。
 もしコーエン・ボイヤーの技術のような基盤的な研究ツールを、大学以外の企業が収益を第一に考えて特許化し、法外なライセンスフィーを他社から得ようとしてしまうと、研究開発や産業の発展が遅くなってしまう。そこで、大学が自らの研究成果を適切に評価・特許化し、合理的な条件でライセンシングすることで、こういったリスクを低減できる。 
 このようにTLOの使命は、大学の収入を最大化させることではなく、技術開発ができるだけ早く、広い範囲に渡って行われるようにし、最大限に社会還元できる方法を見出すことである。

 大学における知財マネジメントの重要性を感じる一冊です。是非、JST「目利き人材育成プログラム」のお供に、この本も一緒に読んでみると良いと思います。