中河与一『誰も書かないから僕が書く 隠された文壇史』
「誰も書かない」というタイトルから、どれだけすごいことが書かれているんだろうと期待して読んだら、完全に肩透かしを食らった一冊。谷崎潤一郎の妻君譲渡事件や、太宰治が佐藤春夫に芥川賞をねだったことなど、本書が出版された1980年の時点で散々書かれていることを、表面的にまとめているだけ。新事実のようなもの皆無。
中河は文壇との関わりも深く、本人しか知らないことはあったはずなのに、そういうことを一切書かず済ませているのはある意味すごい。
著者紹介の欄に、「構想を練って十年余り」と書かれているが、何に十年使ったのかまったくわからない。手堅さだけは認めるが、類書が数多くあるなかでわざわざこれを選んで読む必要性はないだろう。
本書を読了した後、記録を見たら、二年前にも読んでいたことがわかった。読んでいる間、一度も不審に思わなかった。それぐらい内容の薄い本だ。