西洋美術雑感 3:フランシスコ・ゴヤ「マドリッド、1808年5月3日」
前回はゴヤの版画を貼って独り言のようなことを書いたが、もう一枚ゴヤから選んでつぶやくとするか。えーと、なんでもいいんだが、そうねえ、これとかどうでしょう。『マドリッド、1808年5月3日』
自分はよく、西洋絵画は複製やデジタルではどうしても伝えるのが無理、って言うことが多いのだけど、この大きな油絵はその典型のひとつだな。これはマドリッドのプラド美術館にかかっているが、実物を見たときは本当にショックだった。
というのは、まず、この絵の主題ははっきりしていて、これは戦争で自国のスペイン市民たちがフランス兵に次々処刑されるところを描いており、ゴヤその人は、怒りに震えてこの事件を知り、のちにこの絵をアトリエで完成させるのである。
ところが、この絵の実物を見ると分かるのだけど、絵の全体の色彩の美しさは常軌を逸していて、衣服の白と黄色、流れるクリムゾンレーキの血、黒と灰、そして地面に置かれたランタンのレモンイエロー、といった色の調和がどうしようもなく美しいのである。
主題の陰惨さと、色彩の美しさの二つは、どう考えてもどこにも交わる要素が無い。それなのに画布の上にはそれが同時に見えている。
初めてこれを見たとき、そのあまりの相反するコントラストのむちゃくちゃさにショックを受け、長く見ていられなかった覚えがある。
以上はこのデジタルデータではどうにも無理で、マドリッドへ行くしかない。元気出して行ってこないと。
Francisco Goya, "The Third of May 1808", 1814, Oil on canvas, Museo del Prado, Madrid, Spain
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