マガジンのカバー画像

【連載】西洋美術雑感

43
このnoteの記事が本になりました。ペーパーバック版もあります。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0C6ZQ4TGY この本は、13世紀の前期ルネサ…
運営しているクリエイター

2022年5月の記事一覧

西洋美術雑感 17:ルーカス・クラナッハ「景色の中のヴィーナス」

北方の絵画を続けよう。これはルーカス・クラナッハ。 宗教改革のかのマルティン・ルターのお友だちで、教科書にも載っているおなじみのルターの肖像はクラナッハのものである。画家として名士として揺るぎない地位を築き長寿だった彼は、まさに大御所の威厳をもって、宗教画から肖像、寓意画まで数多く描いているが、少なくとも僕がクラナッハと言うと、一連の女性の裸体を描いた作品をまず上げる。一目見てクラナッハとわかる非常に個性的な姿なのである。 ここに上げたのは「風景の中のヴィーナス」で、

西洋美術雑感 16:マティアス・グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画・磔刑図」

ついでなので、北方の絵画で行くところまで行ってしまおう。この陰惨極まりないキリストの磔刑図は、グリューネヴァルトのものである。 グリューネヴァルトを知っている人はどれぐらいいるのだろう。その特異さのせいで一部に有名ではあるけれど、メインストリームにはやはり乗らないのではないだろうか。時代的には、北方絵画の後年の巨匠であるデューラーと同じである。デューラーは知る人も多いと思うが、あの人の絵が北方ルネサンス後の正統な方向を決めたものだとすれば、このグリューネヴァルトはそこから

西洋美術雑感 15:ヒエロニムス・ボッシュ「快楽の園・地獄」

引き続き北方の絵画から、ヒエロニムス・ボッシュである。 彼の絵は、いまのこの科学とリアリズムが常識な時代から見ると、もう破格に奇妙な絵で、おそらく今の人はこの絵の分類に困ると思う。というか、まず、ここに描かれたおびただしい数の半怪獣みたいな生き物と、奇妙で謎めいた人間の振る舞いについて、これがなにを意味をしているか、という詮索に明け暮れる始末になると思うし、実際、大半がそうなっている。 でも、そもそも、そういう反応を僕らがしてしまう、というところに、僕ら現代人の画一化

西洋美術雑感 14:ヤン・ファン・エイク「アルノルフィーニ夫妻像」

さて、北方ルネサンスの画家である。北方の絵画は、僕はおしなべて敬遠ぎみとはいえ、その独特の魅力を捨てるわけにはいかない。この文はただの自分の感想なので好きに言わせてもらうと、北方の絵はとにかく暗い。イタリアルネサンスと北方ルネサンスの絵を並べてみれば、どんなに絵に不慣れな人でも、イタリアはあっけらかんと明るくて、北方は重くて暗い、と答えると思う。 重くて暗いというのもあいまいな言葉だが、もうひとつ言うと、醜い、というのも入る。ところがですねえ、こと芸術の話になるとこの醜い