見出し画像

世界の森林面積、減ってる?増えてる?

森林は世界の陸地の3割ほどを覆ってますが、その面積は減少しつつあるのでしょうか、それとも増加しつつあるのでしょうか。1分ごとに東京ドーム2個ぶんの面積の森林が失われているなどと聞くので、もちろん減少している・・・と思ってました。しかし先日読んだ『虚構の森』¹⁾という本では、衛星画像解析によると最近35年間で世界の森林は7%も増えている、という研究が紹介されてました。意外な話だったので、少し深堀りしてみました。

世界の森林面積について最も著名な情報源は、国際連合食糧農業機関(FAO)が5年ごとに実施している世界森林資源評価(Global Forest Resources Assessment; FRA)でしょう。直近の2020年の調査結果²⁾では、世界の森林面積は減少しつつあり、1990年からの30年間で178万km²も減少したと報告されてます。これは、日本の国土面積の4.7倍にあたり、先の東京ドーム云々の説明も、こうした調査にもとづいてます。

しかし、この調査は各国政府が報告した情報を単純に積み上げたもので、なかには情報の信頼性が低い国もあるという問題があります。情報の信頼性は3つのレベルに区分され、国ごとに格付けされてますが、最も信頼性の低いTier-1というレベルでは、専門家の目算による情報に過ぎません。そして、森林減少が特にい著しいとされる熱帯地域では、このTier-1レベルの国が半数以上を占めています。こうした事情から、世界森林資源評価による森林面積の動態は、あまり正確ではないと考えられてます³⁾。

いっぽう衛星画像解析を利用すると、世界の森林を同一の手法で評価できます。先の『虚構の森』では、米国メリーランド大学のSong博士の研究グループが、2018年にNatureという科学雑誌に発表した論文⁴⁾を紹介してます。この論文では、NOAAという衛星が撮影した1982年から2016年までの35年間の画像を解析した結果、世界の森林面積は224万km²(割合にして7.1%)も増加していたと述べてます。ただし地域別にみると、熱帯地域では減少しており、他の地域の植林などによる増加が上回った結果だとのことです。

ただし、衛星画像解析により世界の森林面積を評価した研究は他にもあり、多くの研究では、世界の森林面積は逆に減少しつつあることが示されてます。では、どの研究が正しいのだろう、という疑問がわきますよね。探してみると、この疑問に答える研究論文がありました。中国のハルビン工業大学のChen博士の研究グループが、2020年にRemote Sensingという科学雑誌に発表した論文⁵⁾です。

Chen博士たちは、衛星画像解析により世界の森林面積を評価した5つの研究、およびFAOの世界森林資源評価をあわせた計6つの情報を比較しました。それぞれの研究の解析対象期間は異なっていたため、すべてが重複する2001年から2012年までの12年間を比較してます。下の表は比較の結果で、6種類の情報が示す世界の森林面積の12年間の変化です。このうち1番のVCFマップが、先に紹介したSong博士たちの研究結果です。このように、Song博士たちの結果だけが大幅な増加を示していて、他は減少を示してました。

画像1

Chen博士たちは次に、2001年から2012年までの毎年の森林面積の変化をグラフにしました。その結果、Song博士たちの結果(VCF)は特に激しい変化を示していて、例えば2004年に200万Km²もの増加を示した翌年の2005年には100万km²もの減少を示すなど、実際には起こりえないような変化でした。ここでChen博士たちは、Song博士たちのVCFマップに疑いの目を向けることになり、Google Earthを使って高解像度の衛星画像を確認して、VCFマップの検証をおこないます。その結果、VCFマップでは農地など背の低い植物を誤って森林と認識することがあり、農作物の成長などが森林面積の増加にカウントされていることを突き止めました。こうして、世界の森林面積が増加しているというSong博士たちの主張は、きわめて怪しいという結論になったのです。

Chen博士たちは、世界の森林面積が実際にはどう変化しているか、現状では明確な回答は存在しないと述べています。ただし、彼らが独自におこなった精度検証の結果では、Hansenマップ(上の表の2番)の信頼性が最も高くお勧めできるとしてます。Hansenマップでは2001年から2012年までの12年間で世界の森林面積は160万km²も減少しており、FAOの世界森林資源調査の60万km²の減少という値を大幅に上回っています。

まとめると、世界の森林面積の動向については複数の情報源があり、どれが正しいとは言えないものの、森林面積が減少しつつあることはおそらく間違いないようです。

引用文献
1) 田中淳夫著『虚構の森』(2021年、新泉社)
2) 「Global Forest Resources Assessment 2020」(The Food and Agriculture Organization of the United Nations, 2020)
3) 「Evaluating uncertainty in tropical forest loss between 1990 and 2010: an inter-comparison of different data sets」(Ferretti-Gallon K., The University of British Columbia, 2017)
4) 「Global land change from 1982 to 2016」(Song X-P. et al., Nature, 560(7720), pp.639-643, 2018)
5) 「Large uncertainty on forest area change in the early 21st century among widely used global land cover datasets」(Chen H. et al,, Remote Sensing, vol.12, 3502, 2020)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?