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頑張ったご褒美(後編)【feat.ななコ】



 今回90分で打ったのは計679球。前回の630をさらに上回る。
 無酸素運動を超える「しきい値」5分は、間違いなくこのラリー後半で発生していた。ちなみにいつものクラスで前回打ったのは269球。一つ一つのメニューが長いのも関係していると思うが、相変わらずななコのクラスは運動量が多い。
 さて、もうお気づきだろう。速水ガス欠問題である。これだと30分で220とか打ってる計算になりますね。通常もう「あと1ゲームやって終わりねー」な球数ですね。でもまだ30分です。丸っと1時間残っている訳です。

 そうして私にとって直に影響を受けるのが、そう、サーブである。この日2NDはことごとく入らず、たぶん10本弱ダブった。40―0で、どチャンスボールをがっつりネットにかけたななコに「ええっ!」と声が出ちゃうくらいには、マジでサーブ勘弁してほしい今日この頃だった。

 ただ、そんな絵に描いたような右肩下がりの出来でも、今回そんなに凹むことなく帰ってきた。今回の目的はあくまで測量であり、ゆっくり安定したラリーであり、それが変えたグリップで実現可能か判断することだった。こうして改めて振り返ってみると中上級でやることではない。ただ結果よかった。8球で15分。一球2分打ち続けられるだけの安定感があれば「良」と言っていいのではないか。

 めっちゃダブった原因も分かってる。分かっていたから他でカバーしようと切り替えることができた。その際、リターンの安定は大きい。
 そうして何より大きかったのは「中上級」という名に怯まずに済んだこと。自分のしたいことをした上で、上手い人たちの試合を観戦する。なるほどゆっくりだ。ゆっくりだけど重厚感がある。凄まじい駆け引き、智略が巡っていた。そうしてそれは、100%叶わないものではないと思えた。うっすら自分と繋ぐ線が見える。一枚、天井を取り払われたようだった。


 緩急。
 言うだけある。ななコはドロップとスマッシュを使い分ける。光と影のように、その明度からどちらも映える。そうして相変わらず打っている本人が誰より楽しそうだ。驚くのは対戦相手まで楽しそうにしていること。
 ななコと組んでいると思わず笑ってしまう。時々信じられないことをやらかすけど、高いベースがあるから崩れない。スマッシュ一本で持ち直す。ああそうか。


 根本甘えてるんだ、と思う。


 決して仲がいいとは言えない高校時代のペア。
 思い出したのは最後の最後、完全に噛み合った彼女とダブルスで出ることになり、チームメイトで順番に決意表明をした時のこと。
〈「私は」〉





〈「私は自分のやるべきことをする。そうすればきっと彼女が決めてくれる」〉





 別に最終この人が何とかしてくれると思っている訳じゃない。けれど、どこか大丈夫だと思う節はある。それはゲームスコア、結果に依らない。
 この人は頼っていい。それはコーチという立場だからではない。修行。私にとってむしろななコは、純粋な一プレイヤーとしての気質の方が色濃い。だからこそ余計に希少価値が高い。

「崩す」と言った。
「味方が決めるために」と。

 自分がパンパカスマッシュ打ちたいんだろ、と思った。けれどポーンと喜ぶ私の傍ら、ななコはいつだって「ナイスリターン」と声をかけた。


 今回振替を使えたのは「仕事の研修頑張ったね! ご褒美のお休みだよ!」だからで、これから繁忙期の冬に向かう。その前に来れてよかった。

 この感覚は忘れないでおこうと思った。
 最高のご褒美だった。







【おまけ】
 向こうのコート、同じ時間帯の初級は一人だった。たぶん受付の人が前の時間の初級と勘違いしてた。結果オーライだったけど。



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