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【ミステリー】4時になったらね(前編)

友人の死

私が大学2年生のとき、同じ大学に通う友人Kが自ら命を絶った。
死因と言うべきなのか、どのような最後を迎えたと言うべきなのか、とにかく詳しい話は殆ど教えてもらえなかったが、Kはアルバイト先の警備会社の仮眠室で亡くなっていたらしい。

Kはどんなに忙しくても大学の授業をサボるような人間ではないし、アルバイトで警備員として夜間に働いていたため、『眠い』が口癖になるくらい睡眠不足であったことは否めなかったが、Kが亡くなったという知らせをKの幼馴染みから聞いた時はとても驚き、強いショックを受けた。

何がKを追い詰めたのか、当時の私には皆目検討がつかなかった。前日もその前の日も一緒に授業を受けて、一緒に昼食と夕食を食べたはず。
ずっと一緒にいたのに、何も分からなかった自分が恨めしかった。


Kはいつも特別に明るかったという印象ではないが、良い意味でいつも変わらないテンションでいたような気がする。

私は"Kがいなくなってしまった"という悲しさからか、現実逃避をするようにKのことを忘れようと踠いた。
携帯電話からKの連絡先を消したり、Kとやり取りをしていたメールを消した。当時はスマートフォンではなく、LINEやカカオトークなどのアプリもなかったため、メッセージを全部消去するのはとても大変だったことを記憶している。

友人の母からの電話

Kが亡くなってから3ヶ月ほど経ったある日、私は突然Kのことを思い出した。
きっかけはKの母からの電話だった。大学生である私を気遣ってのことなのか、着信は平日の夕方4時過ぎくらい。
調度授業が終わって帰宅準備をしているところであり、とてもタイミングが良かった。


『つい先日、Kから私達両親に宛てた遺書が見つかり、同時に私達からあなたへ渡すように宛てた手紙が見つかりました。Kという者に心当たりはありますか?Kが私達へ宛てた遺書には、あなたの携帯電話番号が記載されていて、何のためかは分かりませんが、あなた宛ての封筒にはお金が一緒に入っています。』

私は愕然とした。
Kは当時私と同じ20歳。
お金が入っていた意味は10年以上経った今でも分からないが、余程のことがない限りは一般的に遺書を書こうとは考えたこともない年齢だろう。
しかも、自分の家族に私へ渡すようにと手紙を書いて準備をしていたということは、自◯したのは突発的ではなく計画的なものだったのか、それとも誰かに命を狙われているのを知っていた?或いは自◯ではなかった…?

Kが亡くなってから、私はとにかくKに関係すること全てから逃げていたので、久しぶりにいきなり訪れたKのイベントに頭が付いて行けず、目の前が真っ白になってしまった。
本当に情けないことだ。


折角、Kの親と話す機会を得たのだから、沢山聞きたいことや話したいことがあったはずなのに、私の口からは受け答えの返事と相づち、郵送先の住所以外何も出なかった。

友人からの手紙とお金

私がKと出会ったのは大学に入学した初日のオリエンテーションだった。
Kが持っていたトートバッグと私が持っていたトートバッグが全く同じだったことから交流が始まった。
気が合うというよりは、お互いがお互いの知らない事や体験したことが無い事を教え合えるような仲であったため、2人で話をしているだけでとても楽しかった。

校舎が都心にあったせいか、全国各所から進学のために上京してきた人ばかりでそれぞれ全員、殆どが初対面。
私とKが仲良くなって周りを巻き込み、友達のグループは急激に増えていったが、悩み事を相談し合ったり合コンに行ったり、2人だけで食事することや2人だけで出かけるのはKとだけだった。

後日、私の手元に現金書留で郵便が届いた。封筒に書いてある文字はKの字ではなかったが、中に入っていた私宛ての手紙は間違いなくKが書いた文字。

開けたことを少し後悔した。
本来、手紙とは意思を伝えるために書くものであって、相手に内容の意味が伝わらなかったら意味がない。意味が伝わらない文章は不気味なだけだ。
大人であればそんなこと百も承知のはず、ましてや友人相手にすることではないはずだ。普通の精神状態なら‥

しかし、その手紙には私の名前と【前に相談していたことは現実になる 前に言ったあいつのせいだった 今は危ないから逃げて 助けにきてほしい 4時になったらね】と書いてあるだけ。

意味が分からなかった。前に言ったあいつとは?4時?助けてくれ?今は危ない?縦読み?暗号か?

Kは自分だけでは手に負えない、何か大きなことで悩んでいたのか?
何か危ないものから私に救ってもらいたいと思っていたのか?

私は今までKのことから逃げていた自分に対して急に怒りの気持ちが芽生えてきた。
そうだった。Kは私の友人だ。逃げている場合ではない。このままにしたら絶対に後悔する。

私は気持ちを入れ換えて、Kの死について調べることにした。

友人の母は偽物

そうと決まれば、まずは手掛かりを辿る必要がある。
ターゲットはKの母親、Kのアルバイト先、Kの幼馴染み。
Kは生前、学生寮に住んでいたので、Kが亡くなった理由が自分で選んだ死であった場合、情報を得られるのは遺書だけだろう。
そこに何故自ら命を絶つ必要があったのかが書いてあれば一気に解決だ。

学校生活や恋愛、アルバイト等の日常生活について母親に話をしていれば、それもヒントになるかも知れないが、この1年と8か月の間、Kと一番多くの時間を共にしたのは私だ。
私にすら話していない悩みや身の危険について話したとすれば、その相手はKの家族くらいだと考えられる。

いずれにしろ、Kの母親に接触できれば、それが大きな一歩になるかも知れないことは事実だ。

ただ一つ、私には以前電話で話をしたKの母親に対して疑念があった。
それは電話で【Kの母】と名乗ったその女性の声が、かなりのご高齢であるような気がしていたこと。

Kの生前、私はKが夏休みを前に実家にはお盆も帰らないと言っていたのを聞いて、『親はいつまでも生きているわけじゃないんだから、たまには顔出してあげなよ』と余計なお世話発言をした際、Kは俺の母さんは42歳で若いんだと言っていたはず。
それがどうしてあんな声なんだ?
もしかして、あの電話を掛けてきたのはKの母ではなく、Kの死に関して何か関係している人なのか?

色々考えたが、とにかく電話を掛けてみることにした。
本当の母親でなければ、話しているうちにボロが出るはずだと浅はかな考えもあったが、とにかく動かなければ何も変わらない。

私が着信履歴から折り返しの電話を掛けると、もしもし…とかなり若い感じの男性が出た。
不思議に思って、『私はK君の友人ですが、こちらの電話番号はK君のご家族の電話番号でしょうか?』と尋ねると電話はすぐに切られた。

その後、10分ほど経ってから折り返しの着信。今度の電話から聞こえる声は、以前話をしたKの母を名乗る女性だった。
先ほどはKの弟が出たが、間違って切ってしまったとのこと。
益々怪しいが、私は自己紹介と送っていただいた”何の意図があるか分からないお金”は返したい旨、Kの死について調べてみたい旨を伝えてみた。
所詮、大学生の言葉だ。今思えば怒られても仕方のないくらい、ズケズケと立ち入ったことをそのまま聞いてしまった。

すると、Kの母を名乗る女性は私に送ったお金の数枚には血がついていること、鉛筆で文字が書いてあることを指摘し、何か手掛かりにならないか一緒に考えたい。一度会って話をしないかと提案してきたので、私は速攻で了承した。

その日の夜、Kの幼馴染みからKのことで話したいことがあるとメールが入った。
私はすぐにその申し出に乗るために電話をかけ話をした。
紹介が遅れたが、Kの幼馴染みは私とKと同じ大学に在籍している3年生。

学部も学年も違うため、あまり接点がなかったが、Kを仲介して随分前に連絡先の交換を行っていた。

その日、私はKの死について真相の一部を聞くことに…
Kの幼馴染みはKが亡くなった時から何か違和感を覚えていて、自分なりに調べていたらしい。
私がKの死に対して調べているのを友人の伝手で聞いて情報を共有したいと。

そこで私が来週Kの母に会う予定だと伝えたところ、Kの母はKが亡くなる一週間ほど前に亡くなっているから、それはあり得ないとのこと。
弟がいることは事実だが、兄貴を訪ねて電話をかけてきた客人に対していきなり電話を切ってしまうような不躾な奴ではないはずだと。

私は何となくおかしい事には気がついていたことを伝えた。
更に受け取ったお金に血がついていたり、鉛筆でメモが書いてあるらしいことを言うと、『すぐに確認したほうが良い』と慌てたように支度を始め、2人で私の家へ戻ることにした。

友人の母を名乗る女性の目的は?

家に着くなり、私達はKの母を名乗る人物から送られてきたお金を確認したが血がついている紙幣もなければ、メモが書いてある紙幣も入っていなかった。
何故、Kの母親を名乗る女性はこのようなことをしたのか?
目的は私の住所を知るための物だという仮説を立てた。

手紙にはKが以前から私に”何か”を相談していて、危ない何かについて教唆しているようなことが書かれていた。

私がそのことに気が付いていても、そうでなくても、Kの死について”何か”を知っている可能性がある私の居場所を知る必要があったのではないか?
Kが大学生であったことから、その友人である私も大学生の可能性が高い。仮に『Kの関係者ではないから、手紙なんていらない』と白を切られるのを防ぐために、【お金も貰えるよ】という”おまけ”をつけて私の住所を調べるつもりだったのではないか?

しかし、ここで一つ不可解な点があった。もしも、彼女がKの死に関係する人物だったとするならば、私の住所を知ったらすぐに押しかけてくれば良かっただけなのではないか?
1人暮らしをしている私なんて、もしも大人数で襲われたらすぐに〇されてしまうだろう。

私達が立てた仮説通りなら、なぜわざわざ手紙やお金を送ったうえに、お金に血がついている、メモが残してあるなんて嘘をついたのか?さっさと襲えば良いのに‥

私は私自身にも怒っていたが、自分の友人Kの母を名乗る女性に対しても怒りが込み上げてくるのを感じた。


友人の母を名乗る女性の正体

Kの幼馴染はブツブツ言っている私を見ているだけだった。
本当に見ているだけで発言をしなかったため、どうすれば良いか困った。

そんな私を見兼ねてか、Kの幼馴染は私に自分が調べて分かったことを話し始めた。
Kの本当の母の死因も自〇だったこと。
使用目的まではまだ分からないが、Kの母が多額の借金を背負っており、Kが沢山働いていたのは母の借金を返すためではないか?
更にKは母の借入金の連帯保証人でもあったというのだ。

しかし、未成年は借金の連帯保証人にはなれない。
当時の成人は20歳であり、Kは20歳になったばかりのはず‥
それは流石におかしいと思って、今はそれを調べているところだとのこと。
それから、私の携帯に残っていたKの母を名乗る人物が使っている電話番号は、やはりKの母やK本人は基より、Kの家族が使っていた番号ではないと。
ここで私は不思議に思った。

いくら幼馴染みだろうと、家族でもない限りは借金のことや連帯保証人のことなんて簡単には調べられないはず。
この人はどうやって調べた?
もしかしたらKの生前にある程度のことは聞いていたのか?
この人も信じてはいけないのかも知れない…
私はあることを閃き、トイレに行くと言い席を立った。


友人の幼馴染も怪しい

私はトイレに入ると、大学の友人十数名に宛てて同時に"家に来れる人来てください。住所は◯◯〇〇 〇〇マンションの401号室。助けてください。勘違いかもしれないけど、命を狙われているかも"と一斉にメールを送信しました。
余談ですが、docomoのキャリアメールは100人まで同時に送信できるんです。

私が気付いたことは4つ。
Kの幼馴染みが私に連絡してきたタイミングが良すぎる。
Kの幼馴染みは何故私の家にすぐ行こうと焚き付けた?
Kの幼馴染みは何故私がKの死の真相を調べ始めたことを知っていたのか?
私がKの友人であったとしても、Kの死後3ヶ月以上も連絡してこなかった人間に借金というナイーブな問題を入れ知恵してきたことに疑問が残る。

しかも、その日、私がKの母から電話で話して、Kの死について調べる覚悟をしたことはまだ誰にも言っていないはず。

最後に、凡そ3ヶ月半前、Kの幼馴染みはKが亡くなったことをどうやって知ったのか?
しかも亡くなった当日、或いは翌日までに。幼馴染みで同じ大学に通っているとはいえ、情報が早すぎないか?

恐らく…あくまでも可能性の話だが、今私の部屋で待っているKの幼馴染みとKの母を名乗る女性は繋がっている。

告知

4時になったらね 前編はここまでです。
後日、中編、後編を公開していきますので、ご興味を持っていただけたら、また覗きに来てくれると嬉しいです。


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