幽玄朗読舞KANAWA
2021年9月3日
キャスト
安倍晴明 井上和彦
藤原和人 中島ヨシキ
桔梗 吉岡茉祐
内容
能の名作「鉄輪」を朗読劇に仕立て直した作品。
丑の刻参りとはなんなのか? 嫉妬に身を焦がした女がどう鬼になるのかを描き、その中に和泉式部や平安時代当時の検非違使や地方豪族を組み込んでいる。
吉岡茉祐ファンの視点からの感想
まず衣装が素敵でした。吉岡さんの和服はとても似合っていて堪らなかったです。鉄輪自体、衣装は決まっているようだったので、それをモチーフにしたものなのかとも思いましたが、鉄輪の原典を当たっても、イマイチ用語がよく分からなくて、調べるのを断念しました。私にとっては似合っていればとりあえず、十分だったので。晴明の衣装など調べてみると面白いかもしれませんね。
さて、演出の面白さもさることながら、話の筋が私の好きな吉岡さんの芝居が見られる脚本だったので大満足でした。
恋で不憫な思いをして、さらに恋の炎に身を焦がす、桔梗と和泉式部。裏返って恨みとなるその感情は大好物なので、吉岡さんの叫びを聞くたびに鳥肌が立ちました。
この桔梗、和泉式部に加え晴明の式神という三役を演じるにあたっての演じ分けも大変だったように思います。
そもそも少し古文口調だったり、慣れ親しまない神々や役職、地名などがたくさん登場する点も難しかったに違いありません。
その上で役柄をせっせと入れ替え演じ分けていくのは、とてもカッコ良かったです。
まず式神から行きましょう。一番の可愛さの出しどころです。
とにかく、口元の膨らみが可愛かったです。晴明との掛け合いや和人とのやり取りも、もう少し長い舞台であれば、その辺りの尺が増えたでしょうから、より一層、桔梗や和泉式部とのギャップが激しくなり、可愛さが増したことでしょう。それを思うと90分の長さは少し短かったように思います。
次に和泉式部ですね。
私はあまりこの歌人については詳しくは知らなかったので、公演後少し調べてみました。
紫式部と同世代の人間であることは知っていましたが、著作である和泉式部日記については全然知らなかったので、その内容を知って結構びっくりしました。
不倫日記みたいなものなのですね。当時の女性のモテ要素の一つに、和歌の才があり、和泉式部はそこに長けた人間でした。そんな彼女が2人の親王との恋、しかも道ならぬ恋について書かれた本と知り、なかなかぶっ飛んだ文学作品だなと思いました。
途中舞台でも、敦道親王が自分の方がイケメンというセリフがありましたが、死んだ兄しかも和泉式部と付き合ってた兄よりもイケメンというのは、なかなかに陽キャの匂いがします。
そんなパリピ感全開な和泉式部を吉岡さんが演じるのは珍しく、こう言ってはなんですが、鬼となってからの和泉式部の方が、私には親しみがありました。
和泉式部はこの作品において、桔梗の背中を押す鬼としての役割がありますが、その背後で他の都にいる女性の恨みをまた代弁する存在でもあります。ではなぜ、和泉式部だったのでしょうか?
私が思うに、それには恋人2人を失ったこともそうですが、それとは別に和泉式部が娘の小式部内侍を亡くしていることが関係しているように思います。
恋人となった為尊親王とその弟の敦道親王を共に早くに亡くし、娘の小式部内侍もまた若くして亡くしています。当時疫病が流行っていたことからも、都では多くの人が死別を経験しており、その哀しみを一手に象徴として引き受け、この作品に登場したのが、和泉式部だったのではと考えました。
さてそしてメインの桔梗ですね。
まず、全体的に役自体は実在の人物ではないのだと思います。色々調べてみたのですが、藤原和人や美努雅経も出ては来なかったので、この作品独自の登場人物なのだと思います。しかし、この桔梗の夫である美努という名前も、あまり聞かないので調べてみると、美努王という存在が出てきました。ただ人としては、奈良時代の人で四大氏族の橘氏と関連がある人物でした。
橘といえば、作中で和泉式部が思い出されます。回想にて帥宮が和泉式部に橘の花を送ります。また、和泉式部の実の夫は橘道貞です。それをふまえると、桔梗という人物はもう1人の和泉式部だったのかもしれません。
とはいえ、和泉式部は恋に生きた女性ではありましたが、桔梗とは異なり常に夫を裏切り続け、帥宮との間にも子供をもうけています。ただ終いには父に勘当されているので、そういう意味では実家と縁切りになっていると思われる桔梗とは少し重なります。となると、この頃の和泉式部は産んだ娘も他界しているので、桔梗ももしかするとなかなか子供に恵まれなかったのかもしれません。
せめて子供がいれば、もしかすると桔梗は鬼にならなくてもすんだかもしれないのに。
この作品では鉄輪の結末と異なり、桔梗は地獄に落ちてしまいます。本来ならば姿を消すだけなので、どうなったのか分からないのですが。
美努の悔恨に対し、桔梗は赦したのかどうかわからないまま、救いのない結末を迎えるのでした。
と、偏った感想でしたが新しい朗読劇を見られてとても面白かったです。
また是非次のシリーズ、巴御前やお市の方なんかでも見てみたいですね。楽しみにしています。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?