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讃岐戦レビュー~堅実と葛藤の3連勝~

<両チームスタメン>

・松本山雅

前節今治との6ポイントゲームを制した山雅はスタメンは変更なし。
野々村・菊井の出場停止から橋内は3試合連続でスタメンに、滝もこれで3試合連続左サイドでの先発に。

ベンチは米原・龍平に代わって、喜山・国友が入った。

・カマタマーレ讃岐

前節は盛岡を相手に思い切った選手起用が功を奏し、8試合ぶりの勝利を挙げた。その流れを継続してスタメンは変更なし。

出遅れて前節で初出場となったCB宗近やそれまで出番の少なかったGK今村、左SH福井、そしてスーパーサブ起用がほとんどだった森本らが引き続きスタメンに名を連ねている。

<記録>

・ゴール(21)
12:小松
3:菊井、村越
2:パウリーニョ、
1:鈴木、榎本、山本、野々村

・アシスト(14)
3:小松、菊井
2:下川、山本
1:鈴木、野々村、榎本、住田、渡邉、滝、常田、村越

・警告(20)
4:菊井、野々村
2:山本、パウリーニョ
1:小松、住田、榎本、下川、喜山、滝、渡邉(、武石C)

<戦評>

■のらりくらりと先制点

・現実策のようで現実策でないプレス

前節の良い流れを継続させたい意図がスタメンからも見えた両者。

序盤はボールがなかなか落ち着かずに頭の上をボールが行ったり来たりするような展開が続いたが、1トップの森本が競った後のボールがなかなか繋がらずシュートまでいけない讃岐に対して、山雅は相手のクリアミスを拾って宮部や村越が思い切りのいいシュートを放つなど偶発性は高いものの、序盤から積極的にシュートを打っていってリズムを作っていく。

流れが変わったのは讃岐の保持の時間が増えてきた辺りから
讃岐はボランチの長谷川がCBの間に常時下りてきて3バックでビルドアップを行っていたが、両CBの宗近(→YS横浜)と奥田(→宮崎<徳島からの完全移籍>)が足元の技術に長けた選手で、山雅がプレスをかけるとGKも交えてボールを回し始め、空いた選手を使って前進することで山雅2トップのプレスは無力化され、全体がずるずると下がらざるをえなかった。

山雅的には相手のビルドアップ隊の人数に合わせて、前線に人数をかけて圧縮を作るのが今年のセオリーだったはずだが、ここ数試合はリスクをかけて前線に人数を送っていないせいか、1トップの森本に対してあまり最終ラインを上げることはしなかった(できなかった?)ためか、それほどラインを上げず。その結果、讃岐の2列目の選手がボランチ脇で受けるようなシーンが多発していく。

一応、試合中にも両翼を前に出して3トップにしてプレスをかけようとしたり、SHが中央のコースを消そうと奮闘したりと中の選手であの手この手を尽くそうとしている感はあったが、出し手となる最終ラインの選手が自由に、柔軟にボール回しの仕方を変えていく中で後出しじゃんけんをさせられている感じが強く、相手のミスがなければボールを奪えないという状況に近かった気がする。

・讃岐の泣き所を突いた先制点

ただ、選手コメントでも

--なかなか狙いを表現できない展開が続いていた。

確かに難しいゲームにはなった。ただ、正しい立ち位置を取って、その中でどこが空いているかを後ろで選びながらプレーできていて、結果的に攻撃の部分では左サイドが多くなった。

Jリーグ公式 森選手 コメントより

と、讃岐の選手が話すように、山雅のプレスを惑わせ、できたスペースで受けて仕掛けるところまではうまくいっていた讃岐もその後の局面で攻めあぐねてスピードが落ちてしまったり、全体的にミスが多く、そこからカウンターを喰らう展開も少なくなかった

また、山雅の後ろの選手が球際では常時上回り、ボールがずれたりイーブンな当たりになればほぼ負けずに奪えていたのも大きいように思う。

そして、先制点にも繋がったシーンのように、讃岐が可変することによって生まれる「泣き所」は前半の山雅にとって何度か大きな突破口となっていた。

先制点のシーンはまさしく讃岐がペースを掴みかけて前がかりになったところで山雅のロングカウンターが決まった形。

悪い流れを打破しようとGKから繋ごうと試みたが、ボールを受けた滝が2人に囲まれて倒されてしまい、讃岐が再び攻撃を開始。

福井がボールを受けたところで両SBが高い位置を取って厚みのある攻撃を繰り出そうとする。

が、その裏を突いて密集地帯にボールを入れたところで意図が合わず、常田がこれをカット。

ボールを奪った常田がこのままフリーの村越がボールを預けると、左サイドで起き上がっていた滝に通して得点の形を作った。奪ってからゴールまでの流れはスピード感があり、絶好調の滝の仕掛けからのゴラッソもケチのつけられない素晴らしいものであった。

しかし、チーム全体の流れで見ると讃岐に押し込まれて本来山雅がやりたいようなSBが高い位置を取る形を作られてしまったところで、相手の軽率なロストとその直前のシーンで倒された滝が攻め残りしていたというシチュエーションが重なってうまく先制に成功したとも取れる。

ゴールの美しさとは裏腹に、讃岐が能動的に、山雅が受動的になったことによって生まれた流れだったので山雅の今年のコンセプトからすると不本意さも残る部分もあったようにも思う。

■手堅さが出てきた3連勝

・好調な前線カルテット

前半終わってみるとシュート10本ー1本。
序盤の良い入りの後は徐々に相手の時間が増えてきて、主導権を握られてしまったものの、住田が下りてきて左サイドで数的優位を作るビルドアップや村越が中央に侵入して受けて展開する形など見応えのあるシーンは多かった。

後半も両者主にプレスを修正して入ったが、配置で前進を図る讃岐と球際の強さと前線の状態の良さが光る山雅という構図は概ね変わらず。ビルドアップで山雅陣内まで讃岐が運ぶもゴール前に近づくほど堅い守備に苦戦し、逆にカウンターで山雅がゴールまでの形を作るという流れが続く。

大きかったのは後半15分の追加点。

ーー前節・今治戦に続き小松 蓮選手のゴールをアシストした。

(小松が)何回か動き出してくれているのが見えていたけど、簡単に上げて相手ボールになって、また守備の時間が長くなってしまうのがちょっとイヤだった。動いてくれていた蓮くんには申し訳なかったけど、自分がゲームコントロールをする上でもう少しボールを動かしたかった。その中で、あの瞬間はCBがけっこう割れてギャップもあったので「いける」と思って上げた。この前みたいな完璧なボールではなかったけど、蓮くんがうまく決めてくれた。あの得点は蓮くんに感謝したい。

Jリーグ公式 菊井選手 コメントより

と菊井が話すように、ゲームコントロールや守備に重きを置く展開の面では山雅の理想とする展開からはだいぶ離れた展開が続いていたが、相手の最終ラインとGKの間にできた隙を2人の関係性で突き、小松にとっても山雅にとってもメモリアル弾となる5戦連続弾を突き刺した。

1点目は村越→滝で、2点目は菊井→小松から。前節に続き、前線の状態の良さを示すかのような難易度の高いゴール・アシストが飛び出しているのは今の山雅にとっては好材料。結果が出ない時から一転、3連勝を果たしたのはチームの成熟度が急激に上がったというよりは前線の小松、滝らのフィット感や調子の良さに支えられている部分は間違いなく大きい。

・後半問題は解消に向かうのか?

しかし、長らく続いていたこの構図も次第に崩れ出す。

崩れたのは滝・村越が交代で下がった72分あたりから。61分の交替(福井・臼井→吉田・赤星)で可変から固定の3バックに変更し、さらに流れを引き寄せていた讃岐も、この時間からはシュート数が増加。逆に推進力のある2人を下げた山雅はロングカウンターが打てなくなり、守備一辺倒の展開へと陥ってしまう。

山雅も以前はバテバテになりながらもハイプレス・ハイラインは辞めず、できるだけ高い位置でサッカーをしようという意志が見られたが、この試合では今治戦に続き、プレスは割り切って低い位置を取り、繋げるような場面でも割り切ってクリアして、時間を稼ぐようなシーンも多く、"この試合で勝ち点3を取ること"への比重の高さは伝わった。

ただそのための"現実策"がうまくハマっていたかというと、それもまた微妙なところでサイドの1対1で抜かれてゴール前へのクロスを供給されたり、クロスバーに救われたりするシーンも多くなっていて、1点入ると分からない締め方になっていたように感じる(実際被ゴール期待値も終盤やられても不思議ではないほど爆上がりしている

渡邉や榎本(SH時の)、藤谷など自陣に引いての逃げ切り策を行うには適していない交代カードがほとんどで、小松菊井を引くのも難しくなってしまうので、「中長期的に見て勝ち続けられるやり方か」というところまで突き詰めるとまだまだ最適解というには疑問符が多い。

その都度、最適解を見つけながら"カメレオン"的なチーム作りをする分には納得感もあるが、目先の勝ち点を取るための突貫工事になっていないかはもう少し見ていく必要があるかもしれない。

■理想と現実で揺れる先は…

これで山雅は今季初の3連勝、2連続クリーンシートと「今季最高の結果を出している」といっても過言ではない。このまま連勝街道を突き進むことを目指すならば下手にやり方を変えないのがセオリーだろう。

一方、そんな時こそ落とし穴には気をつけなければいけないもの。

悪い時に何かを変えるのは当たり前だが、良い時に何かを変えるのには勇気がいる。だが、今年本当に目指している設計図を完成させるならば止まっている余裕は恐らくないのも忘れてはならない。

そんな中、

--2試合連続のクリーンシートで3連勝となった。手ごたえは。

それ(結果)だけだと思う。それ以外の内容はもう1回イチから見直す必要があると思うし、今日の内容をやっていては自分たちが求めているサッカーは無理だと思う。相手が[4-4-2]で、そんなにプレッシャーがない中でも簡単にボールを失ってしまう。キャンプからやってきた形が多分1回もなかった。ここから先、強度のあるチームにどうやって勝つか。(第10節・)パルセイロ戦の二の舞になってしまわないか。自分たちの攻撃の仕方が何もなくて、結局何もなく終わってしまう形をもう1回繰り返したいか。絶対にみんな繰り返したくないと思う。だからこそ、内容をもっと突き詰めていかないといけない。

Jリーグ公式 菊井選手 コメントより

という菊井のコメントは素直に心強かったし、期待感を感じた。

(監督やチーム全体の意向は分からないが)もしかすると直近の結果からは「最適解」と思える今の形をもう一度壊してでも、少しずつリスクをかけてでも常に得点を狙いに行く「元のレール」に戻っていく可能性はある。

そうすることで失点も増えるかもしれないし、今のような結果はすぐには出ないかもしれない。万が一そうなっても最後の成功を信じて同じようにチームを信じられるか否か。

この菊井のコメントを受けて、今のやり方を一度懐に仕舞いつつ、チームのチャレンジを見守るというのもサッカーの楽しみ方、サポーターの醍醐味としてはありかもしれない。

そんな次節は昨年J2のいわてグルージャ盛岡。

昨年J1・J2で戦ったような選手がGKから前線まで数多くおり、多彩な個の力を持った選手が揃う。特に昨年からの流れで高さ・強さのある選手が各ポジションにいるのは特徴的。「FPで唯一の全試合出場が山雅サポにはお馴染みの新保を中心に左で作ってクロスを上げ、右の長身WG・宮市(185cm)、チャンヒョンス(180cm)が飛び込んでくる」というのが1つの"止められない"パターンとなっている。

大きく変わったスカッドの最適解をまだ見つけ切れておらず、結果はついてきていないが、降格組ということもあってこれまでとは違う難しさのある試合となってきそう。アウェイ岩手という環境にも要警戒。

色々言いはしたが昇格を目指す上で勝つに越したことはないので、結果だけに囚われないようにしつつも4連勝5連勝と結果を積み上げて気持ちよく元気よく週末を迎えたい。切実に。

END



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