見出し画像

宮崎戦レビュー~負の重圧を乗り越えて~

3勝1敗、鹿児島戦での悪い流れを断ち切って、今度こそホーム初勝利を目指して戦ったこの1戦。率直に言うと失意の方が多かったが、試合を振り返ってみると意外に良かった点や悪かったけど納得できる点、逆に新たに浮き彫りになった問題点も見えてくる。

また、5試合で勝ち点10、11得点7失点という結果をどう捉えていくか。まだまだどのクラブも試行錯誤、振れ幅が大きい中で、どういう未来を思い描いていくかもこの時期ならではの楽しみかもしれない。

<両者のフォーメーション>


・松本山雅

スタメンは1名変更(村越→浜崎)。ベンチにはパウリーニョが復帰。

システムは3421。

GKはビクトル。
最終ライン5枚は変わらず。
ボランチには前・浜崎、シャドーに住田・菊井という前節後半の形に。
最前線には前節の2ゴールでJ3得点ランクトップに躍り出た横山が入る。

・宮崎

今週はアクシデントにより数名が急遽離脱となったが、スタメンの変更はMF徳永1名のみ。代わりにインカレ準Vの阪南大でエースナンバー14を背負っていた江口がJ初先発となった。

<記録>

・ゴール数

5:横山
3:外山
1:小松、常田、榎本

・アシスト数

2:常田
1:菊井、ルカオ、佐藤、住田、濱名

・累積

1:佐藤、米原、パウリーニョ、住田、村越、前、浜崎、宮部

<戦評>

■強みを押し付けたもん勝ち

・繋ぐ隙を与えないハイプレス

前節の後半の布陣を引き継ぎ、1トップ2シャドーで試合に入った山雅。
これまでの試合は序盤の入りが悪く、押し込まれることが多かったが、この試合では住田の高さや宮部のオーバーラップを使って優位性を作り、新保をつり出すことで開始1分、2分と2度相手の裏を突く。

一度目は自陣のFKから。
アンカー脇に立つ住田に浮き球を入れ、あえて新保と競らせたところで空いたSB裏のスペースを横山が突き、相手のCBをつり出した形⇩

※初期設定のとこミスって所々神保になってます。新保です……申し訳ありません……。

もう1つは流れの中から。
菊井が下りてきて時間を作ったところで右の宮部が攻め上がり、ハーフスペースに侵入。幅を取っていた下川にボールが渡る前に同じくハーフスペースを狙う住田と動きが被ってしまったが、2人でコミュニケーションを取りながら、宮部が新保の方に動き直して幅を取る⇩

これにより、新保⇔代との間にはギャップが広がったところで住田は宮部に出すような体の向きのまま、横山にスルーパスを通す。本来は左利きの住田だが右足でもゴール方向に向かう絶妙なボールを出しており、このあたりはさすがキックに特徴のある選手……。

(プレビューにもしつこいほどに書いたが)宮崎はこの左サイドの裏のスペースを使われての失点がほとんど。また、アンカー・千布の脇を起点に使われて誰もプレッシャーをかけにいけないというケースが多いので、この2度の攻撃からも対宮崎の分析に基づいてチームが準備してきた攻撃ということが分かる。

・先んずれば則ち人を制す?

こうして序盤から相手の裏を突く攻撃を繰り出し、敵陣に押し込んだところから先制点が生まれる。

相手のパスミスがあったとはいえ、形としてはスローインから相手に圧力をかけて後退させ、パスコースをほぼ遮断したところから。CBに戻しても横山にハメられることからリサイクル(やり直し)しようとパスを出したこと自体は"ボールを大事にするチームらしい選択"だったが"あの場面ではそれもリスキーな選択"だった。それだけ山雅が相手の選択肢を狭めて能動的にミスを誘ったといっていい。

ここから15分ほど宮崎はほぼ保持で落ち着いた形が作れず、SBが高い位置を取り、サイド攻撃を繰り出す間もなく、山雅に押し込まれた立ち上がりとなった。この15分でのポゼッションは山雅57%:宮崎43%、シュート数も5対1と優勢に。

宮崎も決して保持してなんぼというチームではないとはいえ、相手の攻撃の厚さに押され、自陣に押し込まれる展開が続くと前線の質で局面をひっくり返すチームではなく、自陣での守備も粗が目立つことが多い。後に似たようなことが山雅にも言えるわけだが、この時間までは先んずれば則ち人を制す状態。「どちらが自分たちの強みを相手に押し付けられるかのゲーム」という想定通りの展開だった。

■勝負を分けた前半15分以降

・早かったペースダウン

しかし、山雅側は自陣からのミスが目立つようになってきてから相手に高い位置から攻撃を開始されることが増える。すると今度は逆に山雅側が押し込まれる時間が続き、敵陣へと押し返すことができなくなってくる。

右で密集ができることが多くなっていたので、18分・外山から横山へのボールがそのままGKまで流れていったシーンなど左からの攻撃も増えるようになっていくが単発で終わることが多く、なかなか厚みのある攻撃までに至らない。

決して意図してペースダウンをしたわけではないとは思うが、宮崎が序盤のように自陣から時間をかけて繋ぐことを辞め、クイックスタートでまずは敵陣までボールを運ぶことを意図的に行ってきており、こちらは良い形で前線からプレスをかける展開をなかなか作らせてもらえない。

その結果、撤退を選ぶしかなくなり、陣形も541となる時間が増えてしまった。リードされている相手がペースを上げ、高い位置を取ってくるのは当然のことだが、こちらもそのペースに合わせてしまったのが結果としてペースダウンに繋がってしまった気がする。

前がかりにくる相手に対してGKも使いながら深さと時間を作ってみたり、相手のプレスをひっくり返す方に力を入れても良かったかもしれない

・J3屈指のアンカーにより解き放たれたSB

そして、自分たちの強みを押し付けられるようになってきた宮崎は本来の姿を取り戻す。

このペースアップ前、相手が高い位置を取っていない時の山雅側の非保持時には前回の鹿児島戦の時の反省を生かしてCF横山は中央に位置して、常にアンカーを射程距離にいれた守備ができていたが

一度、敵陣(山雅側の陣地)まで運ばれると山雅は541の陣形になるので、シャドーはSBも監視することが多くなり、必然的にアンカーのマークを横山が行う範囲が広くなる

横山も去年に比べて格段にカバーシャドウはうまくなっているがまだまだ千布が上手。横山の後ろで千布にボールを受けられると浜崎・前のボランチも数的に出て行けず、菊井・住田も4のSHの位置からプレッシャーをかけても矢印を変えられるだけでうまく挟み込むことができない

さらに試合を通して厄介だったのは左SBの新保で、外に張って54ブロックの外経由のボール回しに関与していただけではなく、中央に侵入してきて54ブロックの前でボール回しにも関わってきていた。千布を捕まえなければならない前線3枚のトライアングルにとっては非常に面倒な存在だった。

横山をアンカーの位置まで下げるとますます重心が低くなり、カウンターに移れなくなるということだったかもしれないが、結局、このSBの高いポジション取りを引き出し、シャドーの守備範囲を広げていたのはアンカーの千布なので、(結果論になりそうだが)「3人の前線は経験が浅く、細かな駆け引きの部分では宮崎に分がある」と割り切って千布には明確なマンマークをつけるというやり方に振り切るのもありだったかも。

■上がらなかったギア

・修正策も実らず……

こうして苦境に立たされながらも前半は無失点で耐え抜く。
HTを挟んで前への推進力を取り戻した山雅は再び敵陣に素早くボールと人を送り、相手の保持時もシャドーを1列上げて、また高い位置からのプレスを試みる。

菊井を上げたようにも見えたが、CBにボールサイドのシャドーが出ていき、プレッシャーをかけるという形だったはず。もう一方のシャドーは中に絞って中盤に加わる分、必要に応じてボランチの一角が前に出るなど変化を見せた。

一時はそれによって宮崎もロングボールも多くなり、山雅が回収→保持のサイクルを生むことができていたが、宮崎は一筋縄ではいかない。

後半頭から江口に代わり投入されていた北村だが、ボランチを主戦場にしている江口と違い、FWやジWGでのプレーを得意とする北村は江口よりも高い位置、CBとボランチ間を動き回り、前線の選手とのポジションチェンジも頻繁に繰り返すようになっていく

全体的に暑さで疲労が見える中、フレッシュな北村の動きに掻きまわされるシーンは後半は多かった。特に初先発となった浜崎は昨年~キャンプ期間にかけて90分のゲームはほとんど経験していないはずなのでなかなか身体がついてこないというシーンも多かったように感じた。

・続く穴埋め作業

そうした流れを押し返すべく、前線のターゲットとして62分には住田に代えて榎本を投入。相手に前進されて自陣に閉じ込められるのを防ぐべく、再び前線からのプレス&カウンターのスイッチを入れようとする。

さらに先ほど書いたように宮崎も北村を中心として中盤が活性化、山雅の中盤が潰し切れないシーンも多かったので69分に外山に代えてパウリーニョを投入。

何人か配置を組み替えて、後半の宮崎で特に特徴的だった北村の動きに加え、ほぼWBのような位置を取っていた新保に蓋をするような交代策を立て続けに取ってくる。

68分には榎本が、70分には前とパウリーニョ、78分には宮部がそれぞれ身体を張って相手の左サイドの攻撃を防ぎ、ボールを完全に奪いきるなど相手にゴール前まで行かせない時間が続いたので自陣からなかなか出られないものの、守備自体は悪くなかった。

浜崎の疲労のみが改めて見返しても気がかりだったが、この時間を0で乗り切る"防衛策"、"人海守備"としては悪くない穴埋めだったと思う(その裏付けの1つとしてSPORTERIAのゴール期待値でも後半10~40分の間は両チームのゴール期待値は0.1~0.2ほどしか上がっていない

押し込まれてはいたが、もしかすると感覚的に「逃げ切れるかも」というのが選手の中にもあったかもしれない。

・失点を招いた立て続けのロスト

しかし、実際の試合では時間という概念とも戦わなければならない。局面的にエラーがなくてもずっと同じペースで守ることは不可能である。守備一辺倒になっていたことによって振り回され、体力は奪われていく。

だからこそカウンター、もしくは敵陣への前進をやりきることは重要で、宮崎にとってもこのクロスカウンターは大チャンスだった。

例えば81分のシーン。パウリーニョの奪取から横山→榎本とボールを落とし、再び榎本が左裏のスペースにスルーパスを送って横山を走らせ、中には猛スプリントをかけていた菊井・榎本が入っていたがあえなくGKにキャッチされ、逆に宮崎側にカウンターを仕掛けられていたが、結局後半の宮崎の決定的なチャンスもほとんどがこちらが人数をかけられないでいるうちに奪われたところからのカウンターだった。

そこから続いた2失点もそれぞれ失うような場面ではないところで奪われて守備組織が整う間もなく、得点を決められてしまっている。

失点についてはもちろん、身体を張る、粘り強く対応するというサッカーの根底にある部分は常に高めていかなければいけないが、ここ数試合は気持ちがかかりすぎて味方も予期せぬような展開に転がり、相手にしたたかに決められてしまうことの方が多いので、漠然と失点したことにフォーカスするのではなく、しっかりと原因は原因として精査し、気持ちがかかりすぎてる要因となっているような負の連鎖は早く断ち切りたい

・遅かった交代の要因

失点後には濱名と安田を投入。結局、名波監督が考えていたシステム変更は謎のままだったが、もしもこの2人を入れるならこんな感じかと予想している⇩正解は分からぬままだが……笑

どんな形になるかは一度置いておくとして、全体的に外山→パウリーニョ以降の交代が遅かったというのは間違いなくこの試合の問題点としてあった。

ただ、早めに切るのが正解かと言われるとそれも難しい。
残りのメンバーだとGKを除くと橋内・安田・村越・濱名。特に濱名や村越のような攻撃的な選手は早めに入れて、カウンター策を打ちたかったが「追加点が"必須"ではない状況」「後ろに重たい541」という状況ではリスクも大きかった。先ほど「時間との闘い」と書いたが、できるだけ拮抗を保っていたメンバーを引き延ばし、ベストなタイミングを探っていた心理も理解できる。

となると、この展開に見合ったベンチを組めなかったのは痛手だったが、宮崎の開幕からの試合を見ても後半にペースが落ち、主導権を相手に握られるという試合が多かった。それに加えて、前節は山雅側が相模原を運動量で圧倒したのもあってこうしたベンチ構成になったのも要因としてあったはず(ちなみに宮崎と相模原の試合では宮崎は後半失速して逆転負けを喫している)。

前や浜崎など"最後まで持つか分からない"状態の選手のスクランブルも想定してもしかすると交代は遅れてしまったのかもしれない。いずれにしろ、前半からの失点を避けた重たい戦い方とベンチメンバーのミスマッチがこうした事態を生んでしまったというのを受け止めて、今後の戦い方やベンチを決めるときに加味しないといけない。

■負けに等しい、だが負けてもない

・勝ち点1の価値

先制しながら自分たちのミスから逆転され、勝ち点3を取りこぼしたというのは個人的には限りなく負けに等しい1戦だったと感じているが、それでも終盤には意地を見せて勝ち点1は何とかもぎ取ることができた。

序盤以外はほとんど大きなチャンスは作れていなかった中で、90+4分のFKから常田がヘディングで競り勝ち、そのまま榎本が押し込んだ。チームには良い時も悪い時もあるので、こうした試合で勝ち点1を取ることができたことはシーズンを通してみるとかなり好材料でもあるのではないかと感じる。

まだまだ勝ち点勘定をするには早い気もするが、一般的に勝ち点平均2.0以上が昇格目安と言われているのでスタートの5戦で勝ち点10を積み上げることができたというのも、色々試行錯誤している状態であることや昇格という観点から見ても及第点の結果と言っていい(そりゃ全勝に越したことはないけども……)。

ホームでいい加減に勝たないといけないというのは強く思うが、この試合を通して、「こういうチーム相手には下手に守りに入るよりも攻めに行った方が効果的なのでは?」という感触を掴めていたら……と密かに思っている。

・悲観や危機感が是というわけでもない

逆に、その点で言うと、1失点目から2失点目を失うまでのチームのリアクションは少しだけ引っかかる。1失点後には多くの選手が倒れこみ、残り5分で同点の状況とは思えないような落ちようだった。

これまでの失点が失点なので、それだけ無失点へのこだわりが強く、ホームで宮崎相手に無失点勝利を達成したいと気持ちも込められていたことだろう。そのこと自体は間違っていないし、責めることはできない。

だが、我々は「無失点」という目標を達成するために戦っているわけではない。あくまで「相手よりも1点でも多く点を取り、勝利すること」が最大の目標である。それはかつて堅守を誇っていたころの山雅であってもそうだったはずだ(よく反町監督も「失点は最小限に」という言い方をしていた)。たらればだが、もしもそうした切り替えがすぐにされていればわずか6分後の2失点目はなかったかもとすら思う。

僕自身はウノゼロ勝利が好きな方だが、山雅のここ5試合では虎の子の1点を守り切る戦い方よりも攻撃で持ち味を出して攻め切った方が良い循環が生まれているので「無失点」という言葉ばかりに捉われず、攻め切ったうえでの勝利やポゼッションをした上での勝利というという新たな形があっても良いと感じている。その先に無失点という形があればさらに良い。まだまだ良い方にも悪い方にも可能性のある今年のチーム、そうしたチームの変化をサポーターも感じながらチームの最適解を探ることを楽しんでいければいければと思う。

END

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?