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相模原戦レビュー~あの日の悔しさは試合でしか返せない~

開幕からの連勝スタートで期待に胸を膨らませていたところで前節はホーム開幕戦で完敗。しかも去年を思い出させるかのような形での敗戦。「最悪」の方向へ向かいかねない、分岐点となるような1戦だった今節。

しかもその相手は昨年最終盤、悔しさを味わされた相模原。古巣対戦となる選手も多いとあって、特別な感情が入り混じる中での試合だったが、昨年の悔しさを味わったメンバーに、若きエネルギーが加わり、4得点の快勝。1失点した以外は「最高」の形での勝利となった。

まだまだ34分の4。といえど何とか良い雰囲気を取り戻し、大きなプラスを得られたことは莫大な価値がある。そんな1戦を振り返っていきたい。

<両者のフォーメーション>

・松本山雅

スタメンは4名変更(稲福・パウリーニョ・佐藤・小松→常田・住田・横山・村越)。特別指定の濱名が初のベンチ入りに。

システムは352。
GKは4試合連続でビクトル。
CBは常田が先発復帰し、下川が前節務めていた左CBに。
WBには右にその下川が。外山も3戦連続で先発に。

アンカーに前が入り、IHには菊井・住田のルーキーが並んだ。
前線は前節も得点をあげた横山が先発復帰。さらに村越が今季初出場でいきなりのスタメン起用となった。

・相模原

スタメンは3名変更。
左SBで福島→渡部、持井→藤本、佐相→船山。前節がベテラン組を下げて活性化を図っていたのでより基本のメンバーに近い構成になった。

<記録>

・ゴール数

4:横山
3:外山
1:小松、常田

・アシスト数

1:常田、菊井、ルカオ、佐藤、住田、濱名

・累積

1:佐藤、米原、パウリーニョ、住田、村越、前

<戦評>

■電光石火の2トップ2シャドー

・明確となった守備のスイッチ

鹿児島戦の反省を受けて、明確に2トップ2シャドーのような352の布陣で挑んだ今節。

最終ラインから繋いでくる相模原に対して、立ち上がりは特に積極的に前線に人数を割いてプレスをかけにいく。

前節に比べてボランチの捕まえ方も整理されていて、アンカー役になる田中、最終ラインに落ちて3バック化する川上の動きもあらかじめスカウティング済みというように見えた。川上が最終ラインに下りてきてもボランチを捕まえている2トップは菊井に左のプレスは任せており、展開役の田中を空けないように徹していた

ただ、この日のプレスの肝になっていたのは「整理されたプレスの仕組み」以上に「ユニットの嚙み合わせの良さ」だったのではないかと思う。

試合後コメントで敵将の高木監督も『(松本の)奪いどころは正直に言って分かりません』と話していたように上記の図のような形・ルール通りになっていなかったことも多かったが、「①横山・村越・菊井の3人がプレスを開始した時のスピード感」、「②空いたスペースを埋める前・住田のサッカーIQ」、そこに「③(偶発的だが)ピッチの不安定さ」も相まって、組織としての成熟度は十分なレベルに達していなくても相手のビルドアップを上回るプレスを仕掛けることができていたように思う。

・快速コンビが生んだロングカウンター

そして、相模原がこのピッチと前線のスピードに対応しきれてなかった前半13分に先制点が生まれる。

この日の山雅は「スタメンに生え抜き7人、平均年齢24.3歳」ということでも話題になっていたが、2トップも横山170cm、村越167cmと(自分の記憶の中では)これまでにないほどスピードに振り切った2トップだった。

それが見事にハマっての得点。40mもの距離をドリブルで運んだ横山ももちろんだが、横山のスピードを殺すことなく、前線の動き出しを行い、2vs2、2vs1の状況を作った村越、奪取からのロングスプリントで相手を追い越していき、最終的に3vs1の状況を作った住田の貢献も見逃せない

今日のようなストロングだけではなく、ウィークもはっきりしているスタメンだと入りをミスすると逆効果になることも多いが入りとしては良好だった。また、これだけ早さに特化した前線の並びだと相手CBは一度対応を誤ると物理的に追いつくことは難しくなるので、それを取り返すのはどのカテゴリーの選手であっても苦労していたと思う。

■狡猾と省エネとサボりは紙一重

・先制点によって生まれた余裕

そして、1点を取ったあたりから山雅の守備の仕方も切り替わる。

山雅が得点決めるまでは、前線に菊井を上げて相手の保持時の最終ライン3枚と合わせることでチャンスも作れていた一方で、藤本がその背後を取ることで起点を作られることもあった

そこから時間が進むにつれてそのケアとして、菊井を上げる機会を少なくして、相手のビルドアップ時の後ろ3枚に対して、こちらは村越・横山のプレスのラインを下げつつ、2枚でのプレスに。前はハードワークで数的不利を補うことで中盤3枚が相手を監視しやすくするようにする⇩

相手へのプレスは弱めて、ボールを持たせる形になっていたのでいわゆる「省エネ」モードに切り替えたが、その分、守備範囲が増えたのは先ほど一仕事をした横山と村越。

もちろんこの2人もサボっていたわけではないが、ここが簡単に突破されるとどちらにしろ菊井・住田ら中盤が引き出されることになるので先ほどと同様かそれ以上のハードワークが求められることになった。

酷といえば酷とも見ることはできるが……この点は今年のコンセプト、そして試合に絡めるメンバーが豊富にいる分、今年のチームではシビアに要求されるだろう。点差に関わらず、ここでサボったら次の試合使われないかもしれない……そんな緊張感を持ち続けることで高いレベルを保っていきたいという意図は名波監督のコメントや姿勢からも強く感じる

・甘さが出た失点

そして、残り5分+αになった40分にゲームが動く。
相模原の前への圧力が強まっていく中で、こちらとしては残り数分凌げればHTで体力回復や修正ができるという中で、相手に「ひっくり返せるかも」と希望を与えかねない1点だった。

きっかけは相手のCBのコンドゥクシオン(運ぶドリブル)から。

これは相手3枚に対してこちらは2枚のFWで対応しているので狙いとしては考えられる攻撃で、住田がスライドしても前が余っているのでそれほど大きなエラーではなかったはず。渡部が裏を狙っていたが下川も付いていけており、宮部もそのカバーに入っていたので対応できる可能性が高かった。

しかし、問題はその宮部の裏を狙ってダイアゴナルな動きをしていた浮田

宮部は下川のケアに入っており、恐らくパスが出された後に浮田へのボールだということに気づいたため、身体を寄せるのが少し遅れたように見えた。大野が付いていくでも受け渡すでもセーフティにこのボールに対応できれば問題なかったが、視野の確保も余裕があったのも大野の方なので結果的には一声かけておくかしっかりと切っておけば問題なかったように思う。

ボールがこぼれてしまった後はまずは①ボールサイドの問題。
3人がボールサイドに寄っていたにも関わらず、クロスをあげる渡部はニアでもファーでも狙い撃ちできる位置、余裕を持ったタイミングでクロスを入れることができたので相手のFW(船山)はクロスがあげる瞬間にDF(常田)の視野から消えてゴールを狙うのが簡単になってしまった。

そして、一番は②ゴールを決められた藤本に前に入られてしまってる問題。
これは名波監督も「サボり癖」と表現しているが、裏にボールが出された時点で相手よりゴール側にいたにも関わらず、絞り切れておらず、前にも入られているのでシンプルに準備不足と言われても仕方がないだろう。ここは名波監督にも口酸っぱく言われているとは思うが早急に解決せねばならない。

■さらなる可能性を見出した後半

・流れの中で修正された守備

そして、後半からは村越に代わって浜崎を投入。
3412にすることで「①失点につながった左右CB(川上・藤原)の前進を防ぐ」「②アンカー(田中)はトップ下(住田)が監視」「③中央に侵入するSHが狙っていたアンカー脇を消す」などのメリットを得ようとした⇩

この修正自体、策としてはそれほど問題はなかったはずだが、相模原が後半から石田や藤本らサイドの低い位置を起点にしだしたことで一つ飛ばしのパスやサイドで1対2を作られた際の対応が難しくなってくる⇩

3412の方が重心を前にかけやすいという利点もあったが、3点目が入ったこともあり、そこから菊井・住田が名波監督とコミュニケーションを取ってシステムを3421に変更。この日、3つ目のシステムを取り入れることで自発的にウィークを消そうとする⇩

こうしてCBにはプレッシャーがかからない分、サイドのケアとボランチとの挟み込みを強化。後半はよりサイドを起点にして攻撃を仕掛けようとしていた相模原の狙いを封じる一手を打つことに成功した

・浜崎の投入による安定と変化

また、浜崎を投入したことによる保持時の安定もまた後半の1つの見どころだった。左や中央に入ることが多かった浜崎を中心にシステムのズレ、数的優位を作り出し、相手のプレスを無力化、全体の保持の質を高めた。

さらに選手間のパスが円滑になっただけではなく、左でオーバーロード(意図的に密集を作る状態)を作っておき、展開力のある浜崎や菊井、住田、前で構成された中盤がアイソレーション(意図的に孤立させた状態)された右の下川へと展開する攻撃も以前までは偶発的にしか見られなかった形。ここにあらかじめSB化していた宮部も加わってサイドで2VS1を作るような攻撃が後半は多くみられるようになった。

このあたりはWBを置くシステムによるメリットであり、流動的なポジション移動、宮部による追い越しによってさらに厚みを加える攻撃も「名波監督が好きそうだなあ」と思いながら見ていた。

・期待の変態系ファンタジスタもプロ初出場

そして、残り10分を切ったところで2つの新たな可能性を見せる。

1つは外山のシャドー起用。これまでのキャリアで見てもSBやSHでの起用だった外山だったが、安田投入に伴い、シャドーにスライド。さすがにポジショニングは多めに見なければいけない部分もあったが、圧倒的な走力と持ち前の馬力でここのポジションに置かれただけの十分な動きは見せ、終盤には試合を締める4点目もねじ込んだ。今年は交代時のポジション移動が多く、システムも試合中に変化していくのでチームにとっても本人にとってもこのオプションは貴重だろう。今後の起用法ももしかすると変わってくるかもしれない。

そして、もう1つは特別指定でいきなりJリーグデビューを果たした、松本大学に在学中の新星・MF濱名。(彼自身の実力も当然あるが)スクランブルもあって準備期間が少ない中でメンバー入りしただけではなく、この3点リードという山雅的には珍しいシチュエーションがいきなりやってきたのは"もってる"と言っても過言ではないだろう

守備時は外山同様にポジション迷子になるシーンも見られたが、攻撃ではいきなりドリブルでの前進からノールックで外山に柔らかいラストパスを供給するなどさっそく見せ場を作る。これがプロでの初アシストとなった。見れば見るほど「緊張してる人のプレーじゃない」と思うような一連のプレーからもなんとも可能性を感じさせてくれる。

鹿児島戦後のスペースでちらっと「途中から流れを変えられる選手が出てこないうちは菊井はベンチに置いた方が得策なのでは」という風な発言をしたが、もしかすると早速それに対する答えが出るかもしれない。いずれにしろ今後が楽しみである。

■2つの失意を跳ね返すような一勝

前節の鹿児島戦、降格が決まった昨年のアウェイ相模原戦。
敗戦に「ただの敗戦」などはないが、それでも「とてつもなく大きな敗戦」となったこの2戦を払拭するような快勝をこの地でできたのは喜びとともに安堵も正直あった。

また、メンバーが大きく変わり、若手が多く起用された中で結果を残せたこともさらなるチームの成長を促し、今後の競争をさらに加速させてくれるだろう。

この勝利から得られたものを無駄にしないためにも次節こそホーム・アルウィンで今季初勝利をつかみ取りたい。

END

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