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奈良戦レビュー~霜田塾開講~

J1・J2に遅れること2週間、ついにJ3リーグも開幕。
今年も山雅の試合の良かった点、反省点、今後にむけての改善点などできるだけ広い視点を持ちつつ、考察、まとめていこうと思います。お手柔らかによろしくお願いします!


さて、山雅の開幕戦の相手となったのはJFLの王者・奈良クラブ
一昨年の王者・いわきはJ3で即優勝、昨年の2位・FC大阪は前日に鹿児島をあと一歩のところまで追いつめる惜敗を見せており、そうしたことからも奈良も非常に侮れない強敵であることは明らか。

昨日の結果を受けても「霜田体制初戦から難しい相手」だったと個人的には思っているが、山雅はそんな相手を上回るパフォーマンスを披露。序盤から勇気を持って攻勢をかけ、見事Jの先輩としての貫禄を見せつけて2-0の勝利。終わってみると奈良にとっても山雅は「J3初戦から難しい相手」になれていたように感じる。

霜田スタイルでの初戦と考えると、開幕戦は「言うことなし!」と手放しに喜びたいくらいの気持ちだが、まだまだシーズンの38分の1なので、ここは一度気を引き締めて(?)開幕戦を振り返っていく。

■両チームのスタメン

・松本山雅

開幕スタメンは神戸戦から4人変更。
村山/安東/喜山/渡邉→ビクトル/パウリーニョ/住田/小松。

早い段階で2択となっていたGKはビクトル。

最終ラインも左から、キャンプの当初から評価が高かった下川・常田・野々村・藤谷の並びに。ベンチには藤谷と競っていた宮部。CBの控えに入ったのは橋内だった。

安東・住田・喜山・パウリーニョが中心だったボランチの2枚は住田・パウリーニョの組み合わせに。安東は負傷で8週間ほどの離脱になるようで、ベンチには複数ポジションを試されている稲福が入った。

前線の4枚では、トップ下にはキャプテンマークも巻いた菊井。
両翼には左に榎本、右に滝と神戸戦でスタメンだった2人が出場。中央には渡邉ではなく、指揮官のサッカーを熟知した小松が先発に

前線の控えにはその渡邉と高卒ルーキーでいきなりベンチ入りとなった田中、そしてJFL青森から復帰してTMでも結果を残していた村越が入った。

・奈良クラブ

JFLを制した戦力をほぼ維持した上で、上乗せとなる補強もしていた奈良だったが、この日はスタメンから本来の姿ではなく、主力と思われた数名が不在。少数精鋭のスカッドが裏目に出る形になった。

JFLベストイレブンのGKアルナウ、CBの伊勢は先発。CBの相方には新加入の鈴木が入った。しかし、左SBで昨年最長時間出場の加藤が不在で右SBに入っていた都並が右SBに。右SBにはCBが本職の寺村が起用された。ベンチにもCBが2枚入っており、SBの選手がベンチ含めて1人しかいなかった。

中盤には川崎からキャリアをスタートさせた可児をアンカーに片岡・長島が並んだが、不動の存在でプレスのスイッチ役にもなっていた10番山本がベンチスタート。新加入で中島賢星も不在でこちらも想定していた形と違う形だった。

3トップはエースの浅川は健在だったものの、攻撃の仕掛け役となる左の森、期待の若手ドリブラー高橋が不在。右には金子、そして左には昨年1先発だった嫁阪が今年はいきなり先発で起用される。

■試合総括

■繋ぐ奈良×奪う松本

・勝負は立ち上がり30分

どのチームにとっても「難しい」と言われる開幕戦。

J3で2年目の山雅はご存じの通り、霜田体制になってからこれまでやってきてない新たなスタイルに挑戦。その初陣とあってどれだけそのスタイルが通用するかは未知だった。対して、奈良クラブはJ3初挑戦どころか、公式戦でのプロチームとの対戦もフリアン体制になってからは初(昨年の天皇杯ではHONDA FCに敗れている)。恐らく『J3で最もやってみないと分からない』要素が多い対戦カードとなった。

そうなると入りで主導権を握り、「いけるぞ」という感触を得られるか?は通常のシチュエーション以上に大きい。もっと言えばそこで先制点を取ってしまえば勝率はより高まるゲームだった。

そんな試合で山雅の入りは非常にハマっていた。

立ち上がりに少し動かしたんですけどボールが足につかなかったり、ターンしたときにボールが跳ねちゃったりワンテンポ、ツーテンポとどんどん遅れて結局ミスになって、ボールを失う…というシーンが結構あったので、もう少しシンプルに背後を狙ってもいいんじゃないかと思いました

(松本山雅公式 試合後コメントより)

と話しているように、決して山雅のボール回しはスムーズではなく、シンプルに裏にボールを蹴り、そのセカンドをパウリーニョ・住田らが回収するという攻撃でリズムを作る。

恐らくキャンプではもう少し立ち上がりから丁寧にボールを繋ぎ、それが失点に繋がったこともあったと思われるが、その割り切りによって、TMのように序盤の慣れないうちに後ろの繋ぎでピンチに陥るようなシーンは見られなかった。

ただし、裏を返せば「我々はもっとボールを回せるチームだと思いますが、キャンプでやってきたことの半分ぐらいしか出せませんでした」という監督コメントにも繋がってくるわけだが、この試合に関してはそれが良い結果に繋がった一因でもある。

一方、奈良は山雅の裏へのボールには対処できていたものの、その後のセカンドボールの拾い合いで後手を踏み、ややナーバスになってしまったように感じた。フリアン監督は敗因について『感情のコントロール不足』を挙げれば、選手たちも「このリーグでは挑戦者なので、アグレッシブに戦わなければいけない。でもチームは受け身になってしまった」(嫁阪)、「相手をリスペクトしすぎた。もっと自信をもっていかないといけない」(浅川)と話す。

これだけメンタル面の話がピッチの内外から出るということは反省点も明確。開幕戦の重圧に飲まれてしまったせいか、実際に試合を見ていても、仕掛けられるような場面で仕掛けることができなかったり、丁寧に繋いで相手をいなしながら前進する本来の持ち味が出せず。焦って縦パスを入れて相手に引っかけてしまったり、やり直すべき場面で難しいプレー選択をしてボールが繋がらなかったりと『らしくない』プレーが明らかに多かったように感じる。

・優位性があった中盤の球際勝負

さて、具体的な試合の流れに話を進めると、序盤は奈良は後方からのビルドアップ(1-4-1-2-3)でゲームを組み立て山雅は高い位置からプレッシャー(4-1-3-2)をかけに行く。

そして、まだ様子見だったのか、序盤のうちは奈良はリスクをそれほど冒さず、基本的に山雅の選手より前(監視できる位置)に奈良の選手は立ち位置を取ってプレー。

SHが二度追いを強いられるような場面もなければ、中盤の優位性を奈良が使って来ようとする場面もなく、2CBに2トップがプレスをかけるとGKを使ってシンプルに3トップの裏へとロングボールを蹴ってくる。

最初の何本かは山雅の最終ラインも頭の上を越されてしまい、相手のアタッカーとのイーブン気味の勝負になっていた場面もあったが、その後はCBとGKでよく処理できていた。

対して、山雅側も、先ほども書いたように奈良以上に割り切った立ち上がり。奈良がアルナウなら山雅は常田の左足のフィードが冴えわたり、小松や榎本の左サイドを中心に相手の最終ラインに圧力を加え続ける。

常田野々村の最終ラインとパウリーニョ住田のボランチ、ターゲットとなる榎本小松のキャラクターを考えると中盤の頭の上をボールが超えていく展開は山雅に分があるのは明らか。今年目指す志向ではないものの、得意の土俵ではあった。そして、その展開に持ち込めたのは前線からの精力的なプレスが効いていた証拠でもある。

奈良は元々そういう展開を好むチームではないが、加えて球際の強度を補う185cmの大型ボランチ・山本がベンチスタート。中盤の落ち着きどころになっていた森田も移籍して、その代わりに加入した中島もベンチ外と、中盤の球際や空中戦の部分の不安要素がこの試合でもネックになっていたように思う。

基本的には繋ぐ奈良と奪う山雅の構図だったが、最初の30分では山雅が保持率で上回るなどいい意味で予想を裏切るような展開が作れていた。

■象徴的だった「サイドの押し込み」

こうして試合が流れるにつれて徐々に山雅が押し込む時間が増えていく。

試合前には「攻撃に振ったサイドがどれだけ高い位置を取れるか?の勝負になる」とポイントを挙げたが、前半はまさにその点が顕著に出ていた。

なかなか高い位置で起点を作れず、SBが上がる時間がなかった奈良に対して、山雅は菊井や榎本が高い位置で起点を作って、時間を作り、両SBがともに上がって攻撃に参加するような攻撃がいくつか見られる。PKでの得点の直後には下川→藤谷で追加点かという場面もあった。

その要因となったのは大きく2つのポイントがあった。

・<4人でのビルドアップ>+<5トップ化>

1つ目はキャンプ、そして神戸戦でも見られた「SBのWG化」と「後ろ4枚の関係性」。

後ろはボランチ・CBの4枚でボールを動かし、前線はボールサイドのSBはもちろん、逆のSBも高い位置を取って、時折常田や野々村から対角のフィードを受けることもある実質5トップ状態。

一時期Jリーグで一世を風靡した「ミシャ式」のように相手の最終ラインの4枚に対して、前線で数的優位を持って攻撃を仕掛けていた。もちろんミスが起きれば一気に数的同位、もしくは数的不利になることもあり、この試合でも何度かその一歩手前までいくシーンも起こることも。だが、この試合の前半では特に相手を押し込むのに効果的な「仕組み」を見せれていた。

そして、最後に、このシステムを一番理解して周りを先導、+αの変化を与えなければならないのが10人目となる「トップ下・菊井悠介」である。

ある程度タスクが決まっている残りの9人に対して、菊井は時には組み立てに参加し、時にはサイドに顔を出し、そして時には最前線の小松と入れ替わって前線に飛び出したり……。さらに守備では1トップと共にハイプレスをかけていかなければいけないので要求されることは多いが、彼の運動量や主体性を遺憾なく発揮できる絶好のタスクとなる。

さすがの菊井も途中で足を攣ってしまい、交代となってしまったのはチームとしての課題になってきそうだが、今年は昨年以上に彼のチームになりそうな予感は感じられた。

・SHが低すぎた奈良のブロック

それに対して奈良は非保持時に中途半端な対応をしてしまい、かえってサイドを押し込まれる事態が起きてしまっていたのもポイントだった。

序盤は2トップの背中でボランチを監視していたが、徐々にこの4vs2の数的不利が厳しくなってきて、常田、野々村の持ち運び・フィードに対してあまりプレッシャーがかからないことが増えていく。

こうなってくると奈良は「前線の人数を増やす」or「引いて構える」の選択肢があったが、前者でもなく、かといって前線が引くわけでもないので後者とも言えず、SH(WG)は高い位置を取るSBに引っ張られてずるずると下がっていく中途半端な対応に。

守備では4-4-2になる奈良だが、攻撃時は3トップの4-1-2-3になるのでWGが低い位置まで下がるのは本意ではない。SHが下がっても出し手にプレッシャーがかからないので、菊井・下川に加えて、ボランチ脇に下りてくる榎本のパスコースまでできてしまい、縦パスを何本も通されていた。

これは攻撃面でも痛手となっており、初シュートまでかなり時間を要し、試合後コメントでも「リスペクトしすぎた」という発言があったのは守備時に人数を合わせるためにWGが下がりすぎて攻撃に転じられなかったことを指しているように思う。(ACLなどで「初見殺し」と言われたミシャ式の前線の形に飲まれてしまう他国チームのようだった)

今後は相手のWGがリスクを取ってでも高い位置を取り、山雅のSBが攻め上がったサイドのスペースをWGで突いてくるチームも増えてきそうで、山雅にとってはそっちの方が嫌な相手となってきそう。

■課題も見えた後半

・中盤の優位性を使ってくる奈良

そして、後半に入ると奈良は昨年の主力で10番・山本を投入
パウリーニョと唯一やりあえていた球際の強さと山雅のプレスの穴を突く配置取り徐々に自分たちの時間を増やしていく。

山雅は基本的に「前線の枚数を合わせる形&ボランチが縦関係で1枚は前線に顔を出す形」のハイプレスで理想形なので、IHに幅を取られるとボランチの縦関係を保つのは難しくなってくる。

一度山雅のプレス隊を右に寄せておいて逆サイドに展開するなど、山雅の運動量を奪っていくボール回しを展開してきた。

・運動量が落ちる前に……

先ほど保持率に触れたが、後半になると奈良がほとんどの時間で相手が保持率で上回る展開に。

多少間延びも見られたが、昨年の良くない試合のような「前線から行くのか」「割り切って引くのか」が中途半端になってるということではなく、前線から行き続けるのは2点目を奪った終盤も曲げることはなかったのは好材料。ただ、その代わりにスタミナは前半から消耗し続けるので、後ろがついていけず、CBが晒されるというシーンが出てきてしまう。

このあたりはポジティブな変化でもあり、シーズン通しての課題にもなってきそう。特に夏場や連戦になると、CBの消耗や離脱も激しくなる。かといってゲームプランを変えたり、ペースダウンするようなやり方もしないはずなので、この試合であれば「序盤の割り切ったロングボールを無くしてちゃんと繋ぐ」「全ての時間で相手を圧倒し続ける」、そして「早い時間に安全圏となる点差をつけておく」というのがこのチームの改善の方向性になってくるだろう。

■村越のゴラッソで気持ちよく次節へ

・途中出場の前線の重要さ

そして、この日は72分には3トップを総替え。菊井も84分にはカウンターで走れない状況だった。リードした時間が長く、2点リードしたこの試合ですらCBがあわやDOGSOというシーンが生まれてしまっていたので、「ハイプレスをかけれて、できれば攻撃でのクオリティを落とさない」前線の控えが3~4枚はベンチに常時欲しくなるところ。

当然、CBも途中出場のアタッカーに対しても90分集中を切らさず、対応し続ける強度が求められてくる。

このまま1-0で終了すれば、PKでの1点と後半の内容で少しケチがつきそうな試合だったが、後半39分にはミドルカウンターから村越のゴラッソで追加点。2点差がついたことで試合のムードや両者の余裕も一気に変わった。

彼にとっても4年目にしてプロでは初ゴール。プレー自体は出れば良いものを見せていたが目に見えた結果だけが出せなかった中でようやく彼の持ち味が爆発してのゴールが見られた。昨年開幕ゴールを挙げて一気に爆発した横山のように、最初に肩の荷が下ろせることでその後のシーズンにも良い影響を与えてほしいところ。

・次節は強力アタッカーを擁する岐阜

というところで、2-0での開幕勝利でムードも上々。

次節は岐阜との緑ダービーとなる。
上野体制は今年から出奈良クラブほど組織は成熟していない段階であるが、前線にはンドカ、窪田、浮田、藤岡とスピード・パワーでJ3ではトップクラスの選手が並び、前節は地を這うような庄司のラストパスにンドカが反応。2CBが触れることすらできないまま、ゴールを奪い取った。

左に入った窪田のスピードにも昨年はH&Aどちらでも手を焼いたので引き続き侮れない。SBが高い位置を取る右サイドの裏はちょうど一番の弱点になってくるが、それに加えて岐阜には藤谷の特徴をよく知る天野HCがいる。手探り感のあった奈良とは違い、執拗なまでにそこを付いてくる嫌らしい戦い方をしてくる可能性は高いので注意が必要。

途中からもスピードを武器にする村田や上野、他チームでは主力だった田口や川上らが投入され、ベンチパワーもあるので、疲れてきたところを後半勝負も厭わないだろう。

もちろん、山雅は山雅で岐阜よりも一足先に初勝利を挙げ、いいイメージを持ってアウェイ岐阜に乗り込むことができるので、相手より少しはポジティブに試合に臨めるはず。さらに自信を深めるためにも、運動量を惜しまずにアグレッシブに入るであろう序盤からしっかりと先制、追加点と得点を重ねていきたいところ。

内容・結果共にしっかりと積み上げて、アウェイ連戦を乗り切り、ホーム開幕戦まで走り切りたい。


END

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