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相模原戦レビュー~ケチャドバのち大荒れ~

<両チームスタメン>

・松本山雅

スタメンは5名変更。

GKはビクトルから村山に変更。
DFは出場停止の野々村の代わりに橋内、前節崩されての失点が多かった右サイドでは宮部が今季初スタメンに。
ボランチは負傷退場の安東に代わって前節途中から入った住田。
前線は出場停止の菊井の代わりに滝が第6節北九州戦以来の先発に復帰

ベンチには出場停止の2人、負傷の安東、山本に代わって喜山、米原、國分が入った。

・SC相模原

スタメンは2名変更。

GKには竹重に代わって初先発の古賀。
DFはCBを加藤から國廣に変更。SHIBUYA CITYからの加入となった國廣は26歳でプロ初出場に。拓殖大からのルーキー・山下とのコンビに。
ボランチは FC延岡AGATAから加入してJ初挑戦ながら主軸として活躍する吉武。こちらも東海大学からのルーキー・西山との若い組み合わせ。

2列目は貴重な昨年からの残留組の藤沼・佐相がそれぞれトップ下と右、さらに左サイドにはここまで1G2Aを記録している法政大ルーキーの若林が入る。最前線には189cmの長身FW・松澤が入る。

ここまでの勝利は序盤で得た1勝のみ。順位も19位と厳しい戦いが続いているが、4月以降の7戦は1敗6分け、複数失点も1試合のみと簡単には負けないのが特徴のチームになっている。

<記録>

・ゴール(21)
9:小松
3:菊井、村越
2:パウリーニョ
1:鈴木、榎本、山本、野々村、

・アシスト(14)
3:小松
2:下川、山本
1:鈴木、野々村、榎本、菊井、住田、渡邉

・警告(13)
4:菊井(次節出場停止)、野々村(次節出場停止)
2:山本
1:パウリーニョ、小松、住田、榎本(、武石C)

<戦評>

■今季初となる2点リードの折り返し

前節鹿児島戦は先制点を奪った後、1度は追いつかれるももう1度突き放し、リードした状態で前半を終えたものの、後半の入りと終盤で合計3失点を喰らい、2-4の敗戦。さらに主力として先発出場を続けていた野々村、菊井が出場停止に。

相模原戦に向けてのこの1週間は4失点を受けて「守備の修正」を中心にして準備をしてきたそう。

・不安定だった入りだが…

前節と同じく強風の中、前節とは逆で風下の中での前半となったこの試合、

――前半は風下の中でやみくもにハイプレスに行かず、後半はいつものパターンで進めました。ボールを持たれてはいましたが、オフザボールのときに主導権をとることができていたのではないでしょうか?

「今年の僕らはボールを奪いにいく守備をやりたいですが、ただやみくもに追いかけるのではなくて、チームとしてのスイッチを入れる。そこからチーム全員が連動して、相手にボールを蹴らせて回収をする。それは非常にうまくできていたと思っています」

ヤマガプレミアム 監督コメントより

と話すようにこれまでは相手のボランチは山雅のボランチの1枚に任せ、2トップはCBとGKに集中してプレスをかけることが多かったが、この試合では意図的にプレスのラインを下げて、小松と渡邉がボランチを消せる位置からプレスをかけるようになる。

前節は安東負傷後から相手のボランチの位置まで山雅のボランチが出て行けず、相手に主導権を握られてしまったので(戦術的に重要な事項になるので監督コメントで言及されることはないかもしれないが)そうした事情もあってボランチの負担を減らす調整を行ってきたのかもしれない

だが、セーフティに蹴ってくる相手に対して蹴り合いのようになっていた序盤は、風上にいる相模原が主導権を握る。特に前半1分ほどの山雅ゴール前でのピンチは間一髪のところで宮部が掻きだして難を逃れたが、ここで決められていたら試合展開は大きく変わっていただろう。

その後、前半9分にはCB國廣とGK古賀の初出場組の間で意思疎通のミスが起こり、予想だにしない先制点が生まれたのは山雅のプレスや試合展開とは関係ない、まさに"何もないところから生まれたゴール"が生まれた。ラッキーとしか言いようがないレベルのゴールだったが、相当都合の良い解釈をすれば風下に立たされ、難しかった入りの部分で失点しなかったことで生まれたゴールという見方もできるかもしれない。

・MOM級の働きをした右サイドの門番

試合が落ち着いてくるとお互いに足元で繋ぐシーンも増えてきたが、おおまかには「持つ相模原」と「奪いに行く山雅」という構図が明確になっていく。

相模原は序盤から左を起点にしての攻撃が多かったが、左SBの綿引やボランチの吉武が絶妙なポジション取りや可変(旋回)を見せることで、前節の鹿児島のようにドリブラーの若林を大外に立たせ、サイドのライン際で1対1、もしくは中央に潜った左SB綿引を加えての2対2で勝負させるようなシーンを試合を通じて何度も作ってくる。 

山雅はプレスラインを下げていた分、前節よりもボランチがフォローに行きやすく、カバーや周りの飛び出しに対してのケアもできていたが、やはり1番はこの日キャプテンマークを巻いた宮部が法政大の後輩・若林に対して、完封に近い働きを見せたのが守備の面では何よりも大きかったように思う。鹿児島の福田同様、今季ブレイクしかけている左のドリブラー若林だが、3つ上の宮部に貫録を見せつけられる結果となってしまった。

(公式会見でも冒頭から2人の関係性に触れられていてほっこりした)
【公式】松本vs相模原の試合結果・データ(明治安田生命J3リーグ第12節:2023年6月3日):Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp) (jleague.jp)

・出停の功名?

そして、右サイドが守備で見せたなら、左サイドは攻撃で違いを見せる。

この日はここまで先発フル出場を続けていた菊井が出場停止。指揮官からの信頼は厚く、ピッチ内でも絶対的な存在だったアタッカーの不在は試合前からの不安要素としてあったが、左に入った滝が彼の不在を感じさせないほどのプレーを見せ、得点面でも5得点中4得点を左サイドから生み出す。

2点目は住田がサイドチェンジを行った後、下川が一度常田に戻し、前節のように再び右の宮部へサイドチェンジを成功させたところから。
左SHの頭を超えて宮部に通ったボールに対して、相手の最終ラインが右にスライド。

相手が寄せてきたので住田を経由して橋内に戻すと下川にまたまたサイドを変える。ここにSBの田中が喰いついたことで、5レーンをまたいでのサイドチェンジに4バックのスライドが追いつかなくなり、ハーフスペースの滝ががら空きになってしまう。

ここで滝のドリブルに対して國廣が対応することで、小松に対してはCB山下、そして左SB綿引が急いで渡邉のマークにつこうとするもこの時点でほぼ後手後手に。渡邉の空振りによりここでは難を逃れたが、最後は大外の村越がドフリーで仕留めた。

後ろの選手が次々とサイドチェンジを決めて、相手の守備ブロックに揺さぶりを加え、数的優位や守備の綻びができたところを崩して最後はフリーの選手を作り、確率の高いゴールを決めるというのはまさに今年の理想形

そして、組織としてだけではなく、個人としても滝の抜け出しからのドリブル→クロスは見事だった。意外にもこれで山雅での初アシスト。そして、この後、後半14分には山雅での初ゴールを決める。山雅に来るまでは清水でも代表でも左サイドでのプレーが多い選手だったので、左での活躍はそれほど驚きはないが、早速1G1Aと結果を残してみせた。

これまでは菊井や榎本や左サイドでのプレーを得意とする選手が左で優先された点、滝と藤谷の関係性が良好だった点から右でのプレーが多かった。これは個人での突破よりも連携面が重視されているスタイルの関係もあったのだろうが、ドリブルやフィニッシュに関わるプレーの部分ではやはり左サイドの方がやりやすそうなのは明らか。

一番は菊井との併用が悩ましい問題になってきそうだが、新たなオプションや彼とのポジション争いを生み出せたという意味では大きな出停の功名だったと感じる。ここまで良いプレーは見せながら結果がなかなか出せなかったので今後の爆発を期待したい。

■稀に見るジェットコースター展開

・止まらない攻勢

後半になってもゴールラッシュは止まらない。

宮部の好守から得た右サイドでのスローインから小松が一気に逆の滝へとサイドチェンジ。相手のSBに対して下川との2対1の形を作ると2人の連携で左サイドを突破。この日狙っていたブラインド(ファーサイド)へのクロスを村越が折り返し、小松はシュートを打ち損じるも落としたボールをパウロがゴラッソ。後半頭の「試合を決める次の1点」を山雅が奪い、試合の流れ的にはほぼダメ押しに近い形になる。

4点目は相手のパスを引っかけたところから。
パウリーニョがこぼれたボールを素早く小松に縦パスを入れると左の滝に展開。相手の右SBはサイドまで開いていたため、そのままCBの國廣との1対1に。逆サイドにもフリーの村越がいたが、今回は滝が1人でフィニッシュまで持ち込む。

今のスタイルでは攻撃陣が相手に付いて戻る(ラインを下げる)のではなく、あえて高い位置にいたまま「戻ってこない」ことも多い分、今回のようにトランジションが発生すると攻撃には転じやすい。このシーンでは中央で小松が前を向いた時に3人も前線に選手がおり、まさにそうしたスタイルを現したかのようなカウンター攻撃が決まる。

そして、5点目もその2分後。
村越の強引な(笑)ボレー縦パスを渡邉が収めると、こちらもトリッキーなパスで前を走る小松へとボールを流す。時間がかなりあったとはいえ、角度はだいぶ厳しめだったが、このボールを小松がそのまま逆のサイドネットへと流し込むゴラッソ。形よりも何よりも"前線の選手の充実っぷり"を感じるような、それぞれの視野が広がり、身体のキレもある一連のゴールへの流れだった。

・2度突かれた守備の穴

「鹿児島戦の内容を続ければ結果もついてくる」
個人的にはそんな感触もなんとなくあったが、まさかの5点の大量リード。このまま途中交代の選手を絡めながら、この点差、あわよくばリードを広げられれば言うことなしだったが、またしても終盤に課題を残す。

1失点目と3失点目は似たような構図から。
5失点を喫し、手段を選ばずとにかく点を返しにきた相模原は高精度の左足を持つ山下から、長身の松澤(3点目は栗原)の頭をめがけてフィード→ハイラインの裏を狙うパワープレーに移行。

(出し手へのプレスは現実的に難しかったので)ハイラインを保ちたい山雅としては、まず何よりも松澤のところで自由にヘディングをさせず、理想を言えば弾ききらなければいけない場面だった。

ただ、1点目も3点目も結果的には橋内が出て行った裏のスペースを使われての失点になったが、終盤で橋内と190cm近くあるターゲットマンとで競り合いさせるのは「そもそも分が悪いのでは?」とも考えられる。そして3点もフレッシュな状態のデュークカルロスとフル出場の山雅最終ラインの走り合いになっていたがやはりこちらも分が悪い。

裏を取られた後の判断ミスはところどころあったのもまた事実だが、1点目・3点目に関しては"5点取った後の気の緩み"や"守備の甘さ"の問題というよりは、大量失点でやり方を変えてきた相手に対して臨機応変に対応できず(対応せず)、シンプルに「戦術的ミスマッチ」ができたことが原因の大半だと感じる。

・交代で生まれたボタンの掛け違い

ただ、両チームの交替によって生まれた「掛け違い」も終盤の失速の要因として大きかった。具体的に、掛け違いが生まれていたのは「①相模原のシステム変更」と「②交代や疲労で起きる山雅の"構造"の乱れ」の2つ。

①5失点したことで相模原は3バックへの変更を決断(実際に交代したのは5-1になった直後の63分)。

SBが本職の温井や綿引がボールを運んでくるのに対して、2トップに加えてWGが1枚出てくることで対応していたが、滝・村越ともに序盤から飛ばしていたのでなかなかプレッシャーがかからず。SHが出て行ったところの裏を狙われて、前線の3枚と山雅の守備陣の1対1になる場面を多く作られてしまう。

相手に回され、奪うことができないままボールを運ばれることで、ここまでのようなカウンターやボールを握ってのサイドチェンジができなくなった山雅。この時点で②の問題が始まっていたのでベンチが手を打つ。

76分にはFWをフレッシュにするために小松に代えて国友に。82分には両WGとパウリーニョを代えて3枚替えを行い、サイドの活性化を図るが、この交代の直後の87分には先ほど触れた構造が改善されるどころか、むしろ悪化しての2失点目が生まれてしまう。

意図的に片方のサイドに密集を作った相模原はスローインから一気にサイドを変え、攻撃を開始。

そこから先ほどのように下川を釣りだすと、デュークが広大な裏のスペースに流れて常田と1対1に。山雅は最終ラインのうち2枚がサイドの対応に割かれることになる。

デュークのところで突破はされなかったものの、肝心のゴール前では2トップに対して橋内とSBの宮部の2枚で対応することに。ただでさえ宮部と栗原のところはかなり止めるのが難しいマッチアップになったが、さらにその背後から飛び込んできた橋本に対応しきれずボールを拾われ、2失点目を喰らうことになる。

今季終盤の失点は前からのフィルターがかからなくなり、ハイラインを良いように使われるというパターンが多いが、この失点ではそれを象徴するようなやられ方となってしまった。

ゴール前での國分の処理も軽率だったとはいえ、あの位置までWGが戻って守備をしなければいけないシチュエーション自体があまり好ましくない。下川、常田をサイドに釣りだした時点で山雅の守備は破綻しており、相模原としては狙い通りの攻撃が仕上がっていた。

得点経過だけを見ると5得点の後の3失点というのはなかなか経験しないようなショッキングな展開で、山雅の歴史でも稀に見るような流れだったが、とどのつまりは

・運動量が落ちた時にハイラインをいかにして保つか
・配置を変えてきた相手にどう対応するか
・人が変わった時にどう仕組みを保つか

という今季これまでも、そしてこの先も課題となってきそうな「終盤問題」に帰着してくる。

ここまでやってきて分かる通り、1週間、1ヶ月で解決するものでもなさそうなので解決するには難しい問題だが、それだけスタイル確立へと向かっている裏返しであり、課題としては分かりやすい。この問題への解決策をシーズンを進めながら見つけていくことで、しっかりとした「上積み」になっていくはず。

中長期的に見て、具体的に「どう手をつけていくのか?」も興味深いポイントなので、(結果はすぐには出ないが)過程をじっくりと楽しんでいきたいところ。

■天敵となる?今治との上位対決

次節は目の上のたんこぶである6位に位置する今治との直接対決

今治はシーズン前から優勝候補の1つに挙げられ、陣容を見ても勝負をかけているのが伺える。実際にシーズンが始まるとここまで連勝がなく、イマイチ波に乗り切れていないのが今の順位にいる要因になっているが、5勝3敗4分けと勝ち点はコツコツと積み上げており、ここからの巻き返しも十分期待できるだろう。

スタッツを見てもシュート数やチャンス構築数はリーグ1位。
逆にゴール数が伴っていないとも言えるが、ヴィニシウスやドゥドゥ、中川ら強力な攻撃陣が乗ってくれば一気に走る可能性もある。そして、ホームでは3勝3分けと無敗(アウェイは2勝3敗1分け)とここまで強さを見せているのも無視できないポイントとなっている。

昨年の対戦成績を見ると、山雅は今治に対してシーズンダブルを達成。昇格した藤枝やいわきに対してダブルを達成していた今治にとっては大きな壁となって立ちはだかった

が、昨年の噛み合わせを見ると、自陣のスペースを埋める山雅に対して千葉やインディオ(現・ヴィニシウス)が持ち味を発揮しきれず、逆に縦に早い攻撃を仕掛けてくる、個を巧みに生かした山雅の攻撃の餌食となっていた

その一方、藤枝やいわき、鹿児島のような押し込まれる時間も多くなる上位チームに対しては、広大な敵陣のスペースをインディオや中川が切り裂き、カウンターで一刺しするような得点も多く見られ、そこが相性の良さにも繋がっていた。

つまり、ガラッとスタイルを変え、ハイラインを敷いて敵陣でサッカーをする時間を増やそうとしている今年の山雅にとっては今治の前線は打って変わって天敵になりうる。爆発力ではJ3屈指のヴィニシウスやドゥドゥやそれを操る中川、近藤らチャンスメーカーを相手に、いかにしてハイラインを保ち、敵陣でサッカーを続けられるか。

真価の問われるアウェイゲームで、これまでのように自分達のやりたいことを貫きつつ、守備では臨機応変に対応していきたい。

END


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