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北九州戦レビュー~困難を乗り越える力強さ~


<両チームスタメン>

■松本山雅

天皇杯県予選を挟んで大宮戦からスタメンは2人変更。

古巣対戦となる藤谷は大宮戦に続いて連続スタメン。
左SBは馬渡に代わって2試合前に負傷退場した山本龍が復帰。
また、山口に代わって菊井が3試合ぶりに復帰して即スタメンに。これまではトップ下に入ることがほとんどだったがこの試合では左SHに入る。

ベンチは樋口に代わって宮部。滝がメンバー外に。

■ギラヴァンツ北九州

前節久々の勝利、天皇杯県予選でも大勝と調子が上向きな北九州はスタメン1人変更。

トップ下の若谷に不在で、喜山が約1カ月ぶりのメンバー入りで即スタメンに復帰、ボランチに入る。1トップの永井と共に古巣対戦となる。それまでボランチでの出場が多かった平原が代わりにトップ下に。

トップチームでコーチの経験がある増谷監督にとっても古巣戦となる。

<総評>

■積み上げと課題と

・止まらないエース浅川

大宮戦で劇的な完封勝利を挙げ、無敗の首位に初黒星をつけるも続く天皇杯県予選・信州ダービーでは最終盤に追いつかれてそのままずるずるとPK負け。リーグだけで見ると5戦で勝ち点10と悪くない流れが続いていており、天皇杯もラスト1プレー凌ぎきれば勝てていただけにあと一歩のところでとにかく余計な敗戦となってしまった。

流れを再び取り戻したい今節は頼れるキャプテンの菊井が戦線復帰。一方で大宮戦でも活躍し、存在感を高めてきた馬渡と滝が不在。期待と不安(心配?)が入り混じるメンバー発表となった。

ただ試合が始まるとペースを掴んだのは山雅。大宮戦で輝きを放った浅川ー安藤ラインに菊井が加わり、シンプルな攻撃ながら再現性のあるチャンスを作る。

大内のフィードからの浅川の裏抜けは徐々に警戒されてきているが、浅川が最終ラインを引っ張ることによってできたCB-ボランチ間のスペースで安藤が競り(収め)、チャンスメイクする形は第2の選択肢として確立されつつある。菊井ではなく、安藤がトップ下に入ったのはこの影響もあるかもしれない。

前半7分には安藤が逸らしたボールを浅川が落とし、それを受けた菊井がゴラッソ未遂のミドルを放つと、後の14分にも似たような形で菊井に良い形でボールが収まっている。

システム上は左サイドに入る菊井だが攻撃時の役割はほぼトップ下(というか"菊井悠介"というポジションだと思ってる)。最前線の浅川が最終ラインを引っ張ってくれる分、その手前のスペースが広がるのでそこを安藤・菊井のWトップ下のように使い、それに合わせて佐相や大外の藤谷や山本龍が絡むなど攻撃のサイクルが立ち上がりはうまく回っていた。

そして、早々の先制点も先ほどの菊井のミドルで取ったCKの流れから。
一度はクリアされて最終ラインまでボールが戻ってくるも、浅川への縦パスを菊井に落としたところから再び大外に張っていた山本龍に展開。左から鋭いクロスをあげるとニアで相手をひきつけていた野々村の頭上を越え、浅川がドンピシャヘッド。高精度のクロスをあげた山本龍、それに合わせた浅川はもちろん、その手前でCBをひきつけてスペースを生み出した野々村の動きも秀逸だった。

シーズン序盤はまだあと1歩呼吸が合わず得点面では苦しんでいた浅川だが、カップ戦合わせてこれで5戦6発。特に馬渡、藤谷、山本龍×2とクロスに綺麗に合わせる形での得点が増えているのは好材料。シーズン進む中でペースの波はあるはずだが、ここでの成功体験は今後も揺るがないものでチームとして1つの得点パターンができたのは前向きに捉えたい。

・変わる風向き

しかし、この試合だけで見るとその後は浅川にチャンスを与える機会は少なく、攻勢も長くは続かない。明確に流れが変わるきっかけとなったのは前半17分の野々村の負傷交代あたりから。

「イケイケで2点目を狙いに行きたい中、味方が負傷して交代カードを使わざるをえなくなって当初のプランが崩れた」という山雅側の事情もあるかもしれないが、「そこまではセットプレーからのシュート1本に抑えられていた北九州の戦い方・狙いがこの時間を挟んで共有され始めた」というのが大きかったように思う。

その狙いとは左SHで起用された菊井の裏のスペースを突くというもの。その共通の狙いをもとに、「ビルドアップで左(山雅から見て右)でわざとボールを繋いで山雅の陣形を寄せたところで右に展開」、「あえてボランチが右に下りて数的有利を作ってプレスを惑わせる」などリスクをそれほど負うことなく山雅の陣形が勝手に乱れたところで前進⇨右からのクロスを繰り返していく。

⇧菊井が1列前まで行くのであれば本来はSBの山脇までスライドしたい山本龍も裏抜けを得意とするコウスンジンの相手もしなければならないので2対1のような構図になってしまい、大外は捨てざるを得ない時間が続く。

もちろんこれは菊井がそれだけ警戒されているプレイヤーであって、守備にエネルギーを使わせるための意図もあるだろう。攻撃時にはフリーマン的に動き回りボールにもよく絡んでいくため、奪われた後に定位置に戻るまで時間と運動量を要する。逆に守備に重きを置くようにさせればいつもの動きは制限させることができるという発想になってくる

また守備のセット時もいつもスイッチ役をやっているためかどうしても釣られて高い位置を取ってしまう傾向があるのは掴まれていたはず。トップ下の時にはそれほど弱点とならず、むしろチームとしてプラスに働くことが多い。が、SHに置く場合、特に相手がこのように狙ってくるとやはりうまく回らなくなるというのがこの配置のデメリットになってきそうだ。

それにしても(事前に情報が漏れていなければ)菊井の復帰も左SHでの起用も想定外だったはずで、試合序盤もやや混乱が見られたことを考えると修正があまりに早い。

治療中のブレイクタイムでの話し合い、もっというと菊井をサイドに置く際の弱点を知る喜山あたりがチームに弱点を伝えた可能性もあるんじゃないかと個人的には思っている。あくまで仮説にすぎないが、だとしたら同点弾の永井に並ぶ影のMVPといっても過言ではない。

・解決策はどこにあったのか

一応、それに対して山雅もピッチ内での微修正は見られた

仮に守備的な思考で相手に合わせるのであれば「並びを変えて菊井を中央に置く」「菊井を前線で追わせて後ろがスライドする」「後ろを5枚にすることでサイドのスペースを消す」など……。

そんな明確な修正をするチームもあるが、ここでは菊井にあえてそのまま行かせてボランチがその分をカバーすることもあれば、自重させて通常のSHのように低い位置でブロックを組ませることもあり、大きな変更は加えなかった。ここの穴埋めを第一にするというよりは2点目を狙うためにある程度自分たちの形を残したかったような意図が強かったのかもしれない(実際2点目欲しかったし)。

ただどっちに舵を切るにしろ、結果的に流れを引き寄せることができなかったのもまた事実。前半は無失点で終えたが、リスクを冒してでも2点目を取りに行くか割り切って相手の狙いを潰しに行くことに注力するかはっきりさせた方が流れは取り戻せたかもしれない。もし2点目を取りにいくのであれば保持も非保持もチーム全体でのさらなるアグレッシブさ、能動的な動きがさらに必要になってきそう。

sporteria ゴール期待値推移より

⇧期待値の推移からも野々村の負傷以降あたりから40分以上シュートから遠ざかる時間が続いていることが分かる。

■収まらなかった大混乱

・HTでの修正はいかに

ただなんだかんだ1点リードしてHTを迎えることができたのでスコア的にはそれほど悪くない。内容面で課題は残ったものの、山雅側にも手を打つ時間ができた。

Q.前半はミドルゾーンから奪っていい攻撃に繋げられている部分もあったと思いますが、後半は前からプレッシャーをかけに行ってはがされるシーンもあったと思います。守備の手法についてはどのように話されていたのでしょうか?

後半の入りは別に悪かったと思っていません。前半うまくいったところといかなかったところを選手同士が話をして、僕らが修正しました。後半の頭は相手にロングボールを蹴らせて回収することができたので、ショートカウンターの1発目、奪った後の1本目のパスがもう少し繋がっていればビッグチャンスになったシーンをいくつか作れました。

と述べているように後半は菊井に自重させることなく、前から行かせるようになって北九州も蹴るシーンが増えたのは間違いない。そこで奪えなくてもどこまで戻るかもHTを挟んである程度は整理してきていたように思う。

根本的にうまくハマっていたわけではなかったので継続的にハメて奪うまでにはなかなか至らなかったので収支的にプラスに傾いたかは微妙なとこだが、

59分に安藤、佐相がサイドへのコースを遮断し、浅川もボランチを背中で消して追い込めたシーンでは相手が1つ飛ばしで刺してきたボールを米原が狙い、菊井→佐相と早い攻撃を仕掛けて決定機を作るなど敵陣での組織的な奪取も前半より見られるようになっていた。

相手が保持の配置を取っているので奪った後は数的優位に。米原からボールを預かった菊井の絶品のスルーパスが佐相に繋がり絶好機を迎えたシーンを作れたのでこうした形が増やせれば相手の保持も窮屈になっていき、山雅の得点数も伸びていくだろう。

・アクシデントの連続はあったが…

が、さらっと流した「根本的にうまくハマっていたわけではなかったので継続的にハメて奪うまでにはなかなか至らなかった」ことによるマイナス面も無視できない。

試合の流れを押し返せそうなシーンこそあれど、北九州側のチャンスも引き続き多く、山雅側も試合を決定づける追加点を奪えないことで1点差のまま時間が続いていく。

加えて、前半37分には山本龍の脳震盪によりこの日2人目の負傷退場。それと同時に2人を投入して、前線3人と左SB乾がフレッシュになった北九州に対して、山雅側は「配置の乱れ」と「運動量の低下」がところどころに見られ、終盤になるにつれて再びペースを奪われる。特に疲労が見えていた藤谷と佐相の右サイドに井野と乾をぶつけてきたのは非常に厄介で、さすがに現場もそれを感じてか途中から藤谷と宮部の左右を入れ替えていた。

この展開で割り切って守り切るのも1つの正解だと思うが、選手によってはストレスを感じているような場面も見られ、

その後も浅川が痛めた影響や菊井の怪我明けもあって、2トップに代えて最後まで残していたジョップと村越を投入して残る交代カードを使い切るも直後に橋内が負傷。宮部が中に絞って3バック気味に対応するも前線に人数をかける北九州の圧を抑えきるにはあまりに厳しく……。最後はその流れで取られたセットプレーで永井に同点弾を喰らうことに。

同点になった後はジョップと村越が中心になって勝ち越しを狙いに行く姿勢はありつつも、疲労面と負傷者を考えると逆転されるリスクも高かったので攻撃にエネルギーは使いきれず。勝ち点1も見据えつつセットプレーでの1発を狙うような試合運びに留まった。

まずは良い時間に追加点を取れなかったことが一番で、試合後の監督コメントもそちらを問題視するコメントがほとんどだったが、その後も試合運びでどのようにリードを守り切るのか?どこまでリスクをかけて追加点を奪うのか?でズレがあったように感じた。試合全体では想定外の不運が連続してあったとはいえ、イマイチ統一できなかったのは自分たちでなんとかできる範疇の問題でもあるのであと一歩でウノゼロ勝利だったことも含めて悔いは残る。あらゆる困難に屈しないチーム作りをするためにも2週間のうちに早急に修正したいところ。

■混戦の続くJ3を勝ち抜くのは

当初に比べると浅川を生かす形も徐々に形になってきて、守備面も首位大宮相手に無失点で終えるなど「柔軟性」や「守備的な試合運び」がうまくハマる試合もある一方、それによる「統一感の欠如」や「試合中の切り替え」をする難しさ、「試合によってのパフォーマンスのブレ」も問題点として浮き彫りになってきたここ数試合。

本来であればどんな時も変わらない試合をするのが理想だが、今は相手やメンバーが違うと適した戦い方・試合運びが変わってくるのも現実としてあるので、(一定自分たちの戦いはベースに持ちつつも)状況や試合展開によってそこは変えなければならない。負傷者が増えてきている今は特にそこもうまくアジャストする、もしくは不本意的に戦い方を変える必要性を減らす工夫は必要になるだろう。

順位表を見ると、今節勝ち点1を積んだ山雅の順位は10位のまま。
だが前節まで同勝ち点の9位だった相模原が一気に4位まで順位をあげるなど連勝や直接対決で一気に順位が上がる混戦模様(大宮を除く)。しっかりと目の前の試合を勝ち切りつつ、後半戦ブーストをかけられるような積み上げや我慢も必要になってくる。

そんな次節の相手は同勝ち点で並ぶ11位の今治。大宮と共に開幕から4連勝を飾ってその後もしばらくPO圏で安定していたが……直近はまさかの公式戦5連敗中で急降下。ヴィニシウスや阪野ら前線のタレント力は今年も健在だが、この5戦は全て複数失点で競り負けており、今治らしくない試合が続いている。リーグ戦が1週空くのはむしろ相手の方が好都合かもしれない。

悪い流れを断ち切って6月良いスタートを切れるのはどちらか。浅川の連続ゴールはどこまで続くのか。永井龍に続いて阪野も古巣対戦になるのでしっかりと無失点に抑えられるか。負傷者の代役は誰になるのか。まだまだこれからのシーズンを楽しみながら1週間待ちたい。

<記録>

※ゴール・アシストのカッコはカップ戦

■ゴール

6:浅川(1)
2:野々村(2)、山口
1:樋口、村越、安藤、藤谷、佐相
住田(1)

■アシスト

1:常田、安永、山本康(2)、馬渡、菊井、樋口、藤谷(1)、山本龍(1)

■累積警告

2:馬渡、滝
1:菊井、神田、浅川、野々村、安永、山口、ジョップ、山本龍、高橋、安藤、樋口、山本康
※0:佐相<警2・退1>

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