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愛媛戦レビュー~追い越してなんぼ~

北九州、讃岐と連勝を飾り、次の相手は上位を追走する愛媛。
スタートはコロナの影響もあって出遅れたものの、ここ10戦では7勝2敗1分けで1試合平均勝ち点2.2と今のいわきと同ペースの勝ち点
そして、何より現在山雅は愛媛に3連敗中、前回対戦では3失点を喫して敗れた苦い思いをさせられた相手となっている。

讃岐戦では内容面で選手・監督からかなり厳しい声も聞かれたが、そんな相手に内容・結果をいかに両立していくか。また1つ違いを見せなければいけなかった愛媛戦を振り返っていく。

<メンバー>

・松本山雅

スタメンの変更は無し。
野々村は北九州戦から3試合連続先発。
ルカオ・横山の2トップも4試合連続となった。
ベンチには稲福に代わって浜崎。前節監督から名指しでコメントがあった中山だったが連続でベンチ入り。田中(想)も5試合連続のベンチ入りとなった。

・愛媛FC

変更点は1トップの進→松田に。
前回対戦で山雅も苦しめられたが、愛媛は5連勝で順位も上がってきた中で1トップで先発していた松田が離脱してブレーキがかかった感があったので頼もしい男がこの試合で帰ってきた。

<記録>

・ゴール数(31)

10:横山
5:外山
4:小松
3:住田、常田、榎本
1:菊井、宮部、下川、ルカオ

・アシスト数(20)

4:外山
3:菊井
2:常田、佐藤
1:ルカオ、住田、濱名、ビクトル、小松、横山、下川、野々村、浜崎

・累積(39)

4:パウリーニョ<1>、住田<1>
3:常田、菊井、外山
2:村越、佐藤、、榎本、大野、宮部、横山
1:米原、浜崎、安東<1>、ルカオ、小松、野々村

<総評>

■ネジのまき直しで何が変わったのか

・"攻守分業式"をリセット

こんな3ポイントで喜んでいるようではお客さんにも失礼ですし、皆さんにも失礼です。「昇格なんて遠い夢」と先ほど言いましたが、それも選手に伝えて今ここにいます。

松本山雅公式 讃岐戦 試合後監督コメントより

勝ち試合ではこれ以上ないほど厳しい言葉で振り返りがなされた前節。それだけに今節は"選手個々の奮起"と"チームとしての修正"が求められる中での1戦だった。当然、名波監督自身もこれだけのことを言うのだからチームを変えられるかは試される1週間となる。どのような変化を求めてくるかは監督の色が出る点で、1つの注目ポイントだった。

まず変化として見られたのは「前線の献身的な守備」
コロナ中断以降は体力的な問題もあって、2トップからは積極的にプレスはかけず。ブロックを組むにしても要所を締めるよりもカウンターに備えるというのがシーズン当初と比べても顕著に見られていた。どちらかというと"攻撃で違いを見せてほしい2人"を頭から使うことで、守備に体力を使わせたくない、その代わり長い時間試合に出続けてほしいというのが結果的には「攻守分業」のようになっていた。

具体的には前線2枚を極力残して、その分、後ろの3枚が広範囲をカバーするというやり方がここ数試合だった中で……⇩

愛媛戦は前線3枚が並び、菊井がアンカー役に、ルカオ横山は幅を取り、2トップも守備に積極的に関わる前提での守備陣形に。バランス良く前線に人を配置できるのでプレスにも行きやすくなり、プレス時は佐藤が1列前に上がり、枚数を合わせた⇩

これまでの守り方だとCB森下やSB高木が持ち上がると、後ろの誰かが持ち場を捨てて出ていく→そのスペースを使われるというケースがあったが、この日は持ち上がっても出し場に困るという場面が多かった。

ルカオがプレスバックをして奪い切れそうになるもファールを取られてしまうこともあったが、奪えれば手薄な守備陣にカウンターを仕掛けられる絶好の機会でもあった。ファールにはなってしまったがそれだけ相手の出しどころは限定されていたという表れでもある。

・取り戻した2トップの生かし方

ただ、これまでも考え無しに2トップの守備を軽減させていたわけではない。このやり方だと2トップのエネルギーはこれまでよりも守備時に使われることになる。これまでの記事でも触れたことはあったが、今の2トップの攻撃力を最大化するには「守備を極力させない」というのも妥当性はあった。

しかし、この1週間でチームが行ったのは先ほども書いた「全員守備の徹底」。そして、その代わりに2トップの負担を減らすためでもある「保持時の整理」だった。

例えば、整理されたのが顕著に表れていたのは前節は下川と野々村で中にポジションを取ってしまっていた右サイド。中で間受けしたい下川とサイドでのプレーをそれほど得意としない野々村、どちらも意図は理解できるし、今年のチームは「追い越し」は大枠のテーマとしてあるが、あえて正解は設けていない。選手の個性とコミュニケーションによって解決するというのが方針となっている

前節はそこの擦り合わせがまだしっかりとできていない瞬間もあったが、

この日は野々村が積極的にライン際に立ってボールを受けたり、機を見てオーバーラップも仕掛ける。もちろんストレートにサイドの優位性を作るというメリットもあるのだが……

その動きの恩恵を一番受けたのは2トップ、特にルカオ。
讃岐戦では相手の守備陣が必ず1人は余るような守り方を敷いていたが、この試合では意図的にそれをさせず。SB高木がサイド対応を強いられたことで森下とルカオが1対1になる状況に

「縦にシンプルに」、「2トップの力を生かす」というところは残しつつ、効果的な攻撃を繰り出すことができたので再び中断前の感覚は取り戻せたのではないかと思う。

・好循環から生まれた先制点

そして、前半40分に先制点が生まれる。
この日の愛媛は前線から果敢にプレスをかけてきていたが、前半8分には近藤に対して常田が、前半16分にも森下に対してルカオが、前からのプレスをひっくり返す形でイエローを誘発。

前半戦は山雅がこれまでと違う愛媛のゲームの入りに戸惑いを見せるシーンもあったが、今回は逆に愛媛が山雅のアグレッシブな入りに戸惑っているように見えた。

得点シーンではパウロからルカオへのロングボールに対して、愛媛の最終ラインは(森下が1枚警告を貰っていることもあって)簡単にラインを下げすぎてしまい、中盤が間延びした状態に。

ロングボールは高木によって跳ね返されたがセカンドボールを下川が回収。田中のプレスバックを回避すると中盤は数的優位に。菊井に多くの時間とスペースが生まれたことで横山を囮にして、大外の外山に展開。

わずか数秒で最終ラインから前線、右から左へとボールを運んだことで外山・横山と立て続けに先手を取る形で相手と駆け引きを行うことができ、先制点へと繋がった。

■進化を見せる逆襲者たち

・勇気あるサイドの守備の修正

先ほども書いたように前半戦はFW(ルカオ)がプレスバックして、SBにプレッシャーをかけていたが、その一方で後ろに重くなりがちでカウンターには出にくいというデメリットも。

野々村のコメントからも

相手が低い位置にいる時にあまり下川選手と縦ズレしてしまうと、自分もズレた時に背後のスペースを使われるのが怖いと思って、ボランチやFWの選手を行かせていました。ただ、それが徐々に少しずつ押し込まれる要因にもなっていました。

松本山雅公式 愛媛戦 選手コメントより

と出ているように、時間とともにそのデメリットが強く出るようになってきた。右サイドは特に相手が持ち上がってくる機会が多く、そのたびにルカオや佐藤が対応していたところをHTでテコ入れ。縦ずれをしてWBを相手のSBまで押し出すようになる。

もちろんこのやり方もリスクと隣り合わせ。前線の負担が減り、WBが自由に動けるようになる分、野々村の移動距離や晒されるリスクも大きくなるが結果的に右サイドの選手たちが行ったこの修正がハマる。

それが表されていたのは63分のシーン。

前線からルカオ・横山・菊井でコースを限定したことで鈴木に与えられたパスコースは逆サイドの高木のみに。ここ数試合、そして前半戦では低い位置にいるSBへはFWかIH(佐藤)がプレスに出ていたのでここはプレスの回避場所になっていたが、ここで勢いよく飛び出してきたのがそれまで小原にピン留めされていた下川。

後半からは最終ラインのスライドを早めることでWBは1列前に。これまでにないほど思い切って小原のマークから下川を解放し、野々村が引き受けるというシーンが多くなる。

決勝点となった2点目も、攻撃の始まりは相手のクリアをスライドしていた野々村が飛び出してカットしたところからだった。野々村自身も選手コメントで「相手のルーズなボールが飛んできてマイボールにできる形もあったので、あれを前半からできればよかったという部分はあります」と話していたが試合の中でこうした変化や成長が見られるのも今のチームの脆さであり、ポテンシャルの部分といえるだろう。

・結果を残した途中出場組

多くの好材料があったこの試合だが、最大のマイナス要素は後半27分の横山の負傷。攻撃陣ではシーズン当初から横山が軸になっており、得点ランキング2位の得点数を記録している。加えて来週から代表戦も控えていた。負傷離脱は当然痛い。

そして、この試合でも元々決まっていたルカオ・佐藤→榎本・浜崎の交代に加えて、横山→田中(想)で交代枠を使うことを余儀なくされる。さらに後半39分にはパウリーニョ・下川に代わって中山・宮部を投入し、交代カードを使い切る。

榎本・田中(想)・中山・宮部は前節・讃岐戦にも途中から投入されたが、前節の途中出場組への監督コメントはかなり辛辣なものだった。その言葉通り受け取るとベンチシャッフルもあり得るほどだったが、期待の表れか1点を取りに行かねばならないこの試合でも無事継続して投入されることになった。

そんな途中交代組の選手たちがこの短い時間で存在感を示す。
中山は前回以上にシンプルにボールを散らして攻撃にリズムを与え、田中(想)に1点もののスルーパスを通した場面もあった。その田中(想)も決定機こそ逃したものの、裏抜けやボールを持った後のタメを作るプレーなど可能性を感じるプレーを披露。宮部も見せ場こそなかったものの、積極的に高い位置を取り、ゴールのシーンでもボックス内に入り、前回対戦の再現を狙っていた。そして、なんといっても決勝ゴールをあげた榎本とそれをアシストした浜崎。それぞれここ数試合はベンチから外れるなど苦しい時期もあったが、2人にしかできないようなゴールやアシストで大きな大きな勝ち点3を手繰り寄せた。

ここ数試合はルカオや横山を中心にスタートから存在感を示すも、終盤にかけて尻すぼみ。ベンチパワーでも押される試合も少なくはなかったが、この試合はこの時間からギアが上がる。

前節この場で僕に強く指摘された、途中から入ってきた選手たちが、前向きにシンプルに献身的にやってくれました。決勝ゴールもそういった2人から生まれましたが、その10分前くらいから外山の左サイドのクロス、右サイドの下川から外山のボレーと深いエリアにボールを運べたのは、我々の攻撃のコンセプトがハマったから。決勝ゴールも彼らの特徴が出た良いゴールだったと思います。

松本山雅 愛媛戦 監督コメント

交代をしていくとさらに走力の差が出てしまった印象。後半の最後の方はどんどんパワーがなくなっていく展開になったが、そこは僕の采配ミスも含めて考えていかなければいけない。

愛媛FC公式 松本戦 監督コメント

と両指揮官も認めるようにこちらが勝ち越すに値する働きを途中出場メンバーが残してくれたのは今後の競争と言う意味でも、今年の強みを取り戻す意味でも大きい。これまで序列的には追いかける立場だったが、これに満足せずどん欲にチームを引っ張れるような活躍を期待したい。

・決勝点を生んだ圧力

具体的に決勝点を振り返っていくと
①システムのズレとなる大外の外山に外山が展開
②常田がそのままインナーラップすることでSH佐藤を引き付け、手前の中山がフリーに
③トップ下近藤がサイドのカバーに入るとアンカーの浜崎が空く
④この位置で浜崎をフリーにするのは危険なのでCB鈴木がプレッシャーに行くと背後のスペースが空き、
⑤菊井・榎本の2人がそこのスペースに飛び込んで得点をあげた

似たようなシーンでいわき戦の2点目は浜崎の位置あたりにいた菊井がミドルを打ち、このシーンと同じように中に侵入していた外山のもとにボールが転がってきている。

この得点では浜崎や榎本の正確なクロス・ヘディングも美しかったが、そこに至る追い越しからのサイドの優位性の作り方、ボックス内への人数のかけ方など湧き出るような今年の良い時の攻撃の形を作り出せていた。

ここ最近は勢いが収まる気配のない上位陣のハイペース、コロナ中断以降のコンディションの足並みの揃わなさで難しい期間を過ごしていたが、ようやく結果だけではなく、内容面も復調の兆しは見えてきたかもしれない。

■ホーム連戦の狭間を乗り越えられるか

いわき→鹿児島→北九州と遠方アウェイ3連戦を1勝1敗1分けで終えたが、その後は5戦のうち4戦がホームで戦えるという山雅にとってはビックウェーブを作りやすい舞台が整っている。

この5戦の対戦は
H・讃岐1-0〇
H・愛媛2-1〇
A・福島?ー?
H・鳥取?ー?
H・Y横?ー?

ということで、次は間に入ってるアウェイ福島戦。
今シーズン最多タイの4連勝がかかったゲームとなる。

2か月前のホームゲームでは住田の得点で早々に先制するもその後は相手に押し込まれ、被シュートも20。終盤はルカオが孤立し、単独突破しか攻め手が無くなる場面が多かった。

後ろから辛抱強く繋いでプレスを剥がしてくる福島を相手に、リスク上等で今節のように前線からアグレッシブに奪いに行くか辛抱強くブロックを敷いて鋭いカウンターを突き刺さすか。また、エース・横山の不在時にどういうプラン、メンバーで挑むのか。

まだいわきとは勝ち点4差、鹿児島とも得失点差で追い抜けない位置にいるが、例え昇格圏にいなくても常に追い越せる位置を保ち続けていくことが大切になってくる。ホームでの良い流れを殺さないためにしっかりと結果にこだわりつつ、今節取り戻した良い感触を持ち続けて戦っていきたい。

END

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