承前
キャンさんとわたしの関係は、彼のガンの手術が終わる半年前くらいに遡る。当初から、まじめに付き合うのが難しい人物だった。
簡単な例を挙げると、こんな感じ。
呼吸だけはなんとかできるくらいの穴に半分生き埋めになったりして、なるべく苦しみが長く続く死に方をすればいいのに。
タバコの火が財布に燃え移って全部焼けて、ああ小銭しか入ってなくて良かった、つって煤けた硬貨を拭いているところに横からダンプが突っ込んでくるような死に方をすればいいのに。
おいお前、と言うほどでもないレベルの無礼、失礼。
これが一番害悪になると最近思う。直す機会は、ほぼ永遠に訪れない。たぶんこの人も、これまで誰からも指摘されずにきて、これからもこうやって緩慢に死んでゆくコミュニケーションをとってゆくんだろうなあ、と感じる。
もしかしたらこの人、社長や他の人には質問しにくかったり、望む答えが返ってこなかったりして困って僕に質問しに来たのかもしれない。もしそうだとしたら悪いことしたなあ。
で、翌日。
キャンさんは、年下であれば先輩社員であろうとタメ口という相変わらずのスタンス。
訪問件数を稼ぐため、といって手当たり次第に飛び込んでろくに説明もせず、名刺交換すらせず、資料とサンプルをとにかく押しつけてくるという営業ツアーをしているのを僕は知っている。
三ヶ月それを続けて客先から一件の返事もないのを、「ぼくの表情とか人柄がよくないのかなあ」と口に出し、反省しているように見せかけて、まったくそんなことはないと信じ切っているのも、僕は知っている。
同行営業したとき相手の会社のヒヤリングも一切しないでドサドサパンフレットだけ積んで帰ったので、いっぺん注意したら「いいんですよ、高橋さん、営業というものは、こういうもんなんです」って肩掴まれたしな。
続く