『柔肌は俺たちの墓碑銘』

冴えない女にしか見えなかったがなかなかどうして、脱がせてみるとラァラはボンキュッボン。
腹筋なんかは六つに割れてて、臍には丁寧にちいちゃな鮫のピアスだ。驚いた?って例の舌ったらずな声で囁くから思わず頷いちまった。
鮫のピアスにじゃない。その、全身にびっしり彫られた刺青の数にだ。耳なし芳一か、なんて冗談は最近の女達にはどうやったって通じっこない。
「聞いてもいいかい」
抱き寄せて聞いてみるとその背中にも、びっしりと人名が彫ってあった。漢字、アルファベット、アラビア文字に、なんだこりゃ、ヒエログリフか。
「これ、惚れた男の名前かな」
「まさか。そんなのいちいち覚えてらんないわ」
「確かにな」
俺の耳朶を噛み返す、もっと親密な吐息。
「殺した男の名前よ」
「そっちの方がキリがなさそうだけどな」
「確かにね」
俺は鮫のピアス目指して口づけを滑らせてゆく。
左のおっぱいの下、『張 梅霖』の横に、二重線で消された『御子柴 軍平』の名前を俺は見る。

「嘘だろ」

思わず声を出すと女はどこに隠し持っていたのか、俺の背中にナイフを突き立てた。ガボッと音を立てて肺から血の泡が出るが今夜は満月だ。銀のナイフでもなければどうってことはない。

「この二重線はどういう意味だ」
女はさすがに驚いたようだったが、身体を離して囁いた。
「なんで刺したんだって聞かないの」
「どうでもいい。些事だ」
「殺したと思ったら生きてたなんて、こいつの次、あんたで二人目だわ」
「ウッソだろ」
女は左胸を手でおさえながら、俺の目をじっと見た。
「マジか、あのクソ野郎が生きてるってのか」
失ったはずの、俺の生きる目的が急に色を取り戻した。あんにゃろう。御子柴軍平だけは、一秒でも早く、絶対にこの手でぶっ殺さなきゃならない。

「あいつを殺したら、また抱いてやるから服着ろよ」

俺は脱ぎ散らかしたシャツと拳銃を放り投げた。
【続く】

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