同僚だったおっさんのこと 3

承前

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ほんとだよ

 ちなみにキャンさんが重い癌で入院していた時、お見舞いに行ったのは社内では実は僕と社長だけなのだ。
 社長はその時にキャンさんに万田酵素を贈り、僕はなんかその辺で買ったゼリーの詰め合わせを贈った。
そしてのちに社長は激怒することになる。
 キャンさん、万田酵素のお礼を一切言わなかったらしい。その場でも、退院してからも。
 僕んとこには、快気祝いとかその辺の返礼こそなかったが美味しかったですとかそのくらいのリアクションはあった。

 あんまり社長がプンスカしてるから、なんでお礼いってあげないんですか、と社長の不在を見計らって尋ねるとキャンさんは悪びれもせずに答えた。
「一応来てくれた時にお礼言いましたよ、でもあんなもの貰ってもちゃんとしたクスリ飲んでるから飲めないし、いらないよなあってのが本音のとこですよね。迷惑」
ぐうの根も出ないほどの畜生、略してぐう畜。

 ちなみに、というかこのトピックを読んだ人がどういう顔をしていいのかわからない、という声が聞こえてくるので書いておくと、キャンさんはたぶん、ガチで末期癌ではない。マジで完治してるっぽい。
 ただ、癌にかかったのは本当。それも胆管がんという、本来は死ぬやつ。調べれば調べるほど、笑えないやつなんだけどなんか早く見つかったとかうまく取れたとか、色々いい条件が重なって治ったらしい。
 その後どうなんですか、と尋ねた僕にキャンさんは真顔で言った。

「なんか治ったみたいなんすよ、ラッキーだったなあ」

か、かっるぅ!

こんなこともあった。
 キャンさん、会社に届いたお歳暮をすごい勢いでガメる。どんくらいかっていうと、みかんが箱で届いたら初日にカバンに詰め込めるだけ詰めて帰ろうとする。もちろん咎められて未遂に終わるのだけど、隙あらば一人一個のものとかを複数かっぱらう。
 ふと、キャンさんお歳暮盗むもんなあ、と誰かが言ったらキャンさん急に昔話始めた。

小学校の頃もそうやっていじめられたんですよ。

 キャンさんは言う。
給食費なくなったらぼくがとったんだろってみんな言うんですよ。つらかったなあ。
ぼくほんと取ってないのに、文房具がなくなってもすぐぼくじゃないかって疑われて。

 空気の読めない部長がギャグのつもりか「でも取ったんでしょ」とぶっこむとキャンさんは言った。

「でも盗ったの一回だけですよ!あとは本当ぼくじゃないんです、無実なんですよ」

 ちなみにわたしはこの時、横で聞きながら炭酸を飲んでいたのだが不意打ち過ぎて襟が汚れた。
あんなに冷えた空気を僕はこの会社で感じたことがない。
 キャンさんは、その冷え方に別の解釈をしたのか、慌ててその一回がいかに出来心だったかと、給食費の件は無実だったのだということを繰り返し訴え始めた。
 この人ほんと隙なく、間違えた選択肢を取り続けてる。

 キャンさんの話を書くと僕も気がまぎれる。諸兄も暇つぶしになる。これがウィンウィンか、のシリーズ。キャンさん。

続く

この後のボーナストラックは「キャンさんお歳暮盗む」の話。
課金するかメンバーシップに加入すると読めます。キャンさんのシリーズは全9回予定です。

 先日、営業のミーティングで「お互いの良いところと悪いところを、逃げ道なしで必ず両方とも全員が全員分最低1つ以上指摘し合う」という狂気の試みが為された。そんなに仲良いわけでもない野獣の群でなんてこと企画してんだって感じだけど、たぶんどっかのテレビとか研修とかで見て面白いって思ったんだろうね。
ともあれ。
 やはりパワーバランスで上の方にいる人は「悪いところ」として「集中してると顔がこわい」とかその辺のうまーい言い方でけなし褒めが集まる。
 ひとり、「部長って電話の最初に必ず『もしもし』って言いますよね」というちょっとした変化球を投げた猛者がいて、半笑いで乗っかっておいた。
 ちなみに僕はといえば「携帯で電話する時にぜったいじっとしていられないよね」という指摘を受けた。そうなの。檻の中の熊みたいに、うろうろしながらじゃないと携帯電話使えない族なの。あとは「人を見下してる時がある」。地味にダメージを食らうわ。
 で、まあみんなそれなりに遠慮しいしいやってたんだけど、キャンさんの時だけ多様性に満ちた意見が溢れた。
「舌打ちすごいですよね」に始まり、「御礼言わない」「僕のボールペン、パクりましたよね」など、まあまあみんな好き勝手言う。

 こうやって書くとなんか「いじめていい子」扱いみたいで感じ悪いけど、率先して皆がキャンさんの時だけ悪いところを指摘したのではなく、一人一回強制される発言のバリエーションが豊富ということ。途中から、キャンさんあるあるになってるのがなんともキャラクターなのかなあと思う。ちなみに僕は「舌打ちが多すぎる」に入れた。
 パワーバランスの問題なんだろうけど、偉い人からの「お歳暮をよく盗む」という指摘には鼻水的なものが出た。どっかで書いたっけ。キャンさんはガチで会社宛に届いた箱詰め蜜柑とかを、人数割無視して鞄にギチギチに詰めて持って帰ろうとしたりする。
 結局、そこからキャンさんが持ってった会社宛のお歳暮の数々を皆が懐かしそうに語り合うという会になってしまって、ミーティングどこ行っちゃったんだって感じになった。

 ちなみにキャンさんはあんまり堪えてないみたい。流れでお歳暮の蜜柑の話も当然出たんだけど、「そんなことありましたっけ?」のすっとぼけから「そんなにたくさん取ってないですよ」に移行し、最終的には「20個もとってないです。せいぜい10個くらい」に落ち着いた。
 ちなみにホワイトボードには最終的にキャンさんの短所として「お歳暮ぬすむ」、長所としては「生命力つよい」と書かれた。
 なんだこれ。

続く


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