逆噴射小説大賞2021 ライナーノーツ あるいは今回の高橋白蔵主はメキシコでも腕力だけで戦うの巻

今年もこの季節がやってきましたね。
正直、わたしは今年もガバガバに怠惰に生きていました。だってさあ、君、虎が鍛錬をするかね。ええ。そうですね。虎は鍛錬しませんが家でぐうたら寝てる無駄飯ぐらいも別に鍛錬はしませんね。居食い。心の贅肉がつきすぎてもう死んだほうがいいんじゃないですか。なんでそんなひどいこと言うの。はいそれは、そういう季節ですから。そうですか、ひどい。ひどくないです。
寒くなってきて、独り言が増えました。
本文と関係ないですが、家でぐうたら寝てる何の役にも立たないひとのことを「居食い」と呼びます。居候の下層概念です。古き良き日本語ですね。今日はこの言葉を覚えて帰ってください。「居食い」。


ともあれ今年の逆噴射小説大賞です。

『口が災いの門』(本戦枠)

とりあえず初日、勘を取り戻そうと思って現在の自分の好きなものを詰め込んでやってみました。0時ちょうどにやってやんぞ!と思ったのだけど一瞬別のことに気を取られたら逃しました(あいさつ代わりのガバ)。
ともあれ、ハチャメチャに性格が悪い女の人が不純な動機で一生懸命頑張って、想像してたのとは別の最悪な結果を引き起こしていく物語という感じで書きました。特に気を付けたことはなく、紺さんのちょっとお茶目な感じでドライブ感が出せればなあと思って書いてます。
人を罵りに行くときに見物人が出るあたり、「明るいキチガイ」「ライトな蛮族」みたいな雰囲気がうまく出せたかなと思います。メスのイカとファックしてろ、みたいな罵り文句が出版コードに引っかかってないかはちょっと心配してます。
最後に出て来たのは、ご推察の通りいわゆる古き者ども、「名状しがたいイカみたいなアレ」です。メスかどうかはちょっと怪しいのですが、メスだとしても女性が好きなアレだと思います。
このあと、紺さんは超人ではないので、とにかく知恵と勇気と身の丈に合った暴力を使って、主に魔法のアイテムを持っている連中とかのケツを蹴っ飛ばしたりして海上都市を救ったり救わなかったりするんじゃないかと思います。多分最後の方まで、自分のせいで大変なことになったという自覚はないままのような気がします。基本的に、自身の目的や欲望にまっすぐなキャラクターというのは書いていて楽しいですね。

『ワッタワンダフル・ワールド』(本戦枠)

二作目。いわゆる電脳空間と肉体のSF。これは確か、休日出勤でクッソめんどくせーと思いながらガラガラの電車の中で書きました。
今回、3作しかないということで枠としては
(1)ひたすら自分の好きなもので殴るやつ
(2)全員続き読みたいだろこれは、と殴るやつ
(3)ちゃんとしろと怒られるけど面白いからいいだろと殴り返すやつ
の3本立てで行こうと思ったのですが、書いてみたら単純に面白かったのでそのテンションのまま投稿しちゃいました。この判断が良かったのかどうか分からないけど、情動って大事よね、とは思ってます。

ずっと、「どこまでが人間なの」というテーマが好きで、そこに人間以外の知的活動の話を混ぜてます。「サッチモ」はFacebookのアカウント審査用AIです。膨大な情報をクロールして嘘松を暴き出し「本当の美談」を検出するために生まれました。
嘘を暴き続ける過程でおかしくなってしまったのか、すべてのネットワークに接続するAIを発狂させる魔王として君臨している彼。そんな彼をどうにかするためにダイブする重度身体障碍者の「わたし」と「わたしのチーム」の物語です。彼と接触したAIたちが次々と発狂しているのは確かですが、それが本当に彼の仕業なのかにも結論が出ていません。すべては状況証拠だけです。
機械に支えてもらえないと生きていけない、というのは実はそれほどネガティブなこととは考えていなくて、ただ、そういう状態にある自分が、ほかの電脳存在を「どうにかして」もいいのかというのは苦悩しそうな気がします。

これは近日、続き書くかもしれません。

「革命は正しい思想から」(エキシビジョン枠)

続けて、ちょっと日和ってしまってごめんなさいなのですが本枠ではなく「怒られ枠」を使ってます。序盤で枠全部使い切るのはもったいなくて躊躇ってしまって逆噴射プラクティス。

これは、単純に面白いだろ、と思っているので割と読まれてほしいのですが、界隈の流行を詰めたお祭り枠として考えました。サウナを使って何か書きたいなあというのもあってやってます。(サウナマガジンには載せてもらった。ヤッタ!)
クソアンドロイド(ロボット三原則を無視する)が書きたかったのと、全裸の男を主人公にしたくて書きました。クソアンドロイドはアンドロイドなのでサウナの中でも服着てます。
最後、死んだ男のケツに入った電話で通話するために絵面的にダメな姿勢で通話しているのが書きたいと思ってやったら字数制限ちょうどでした。
マジな話、再教育キャンプでの話はパルプと相性が抜群だと思ってるんですが、どういうわけだか変な文脈が乗るので、昨年のこれと同じ枠でプラクティスとしました。内輪受け要素を素材に使って、界隈外のひとにも面白く読んでもらえるものを目指しました。素材に引っ張られない。大事。

ただ、十分面白いし続きも読みたいとは思ってます。

『じゃじゃ馬馴らし』(エキシビジョン枠)

ここからは鍛錬と爪とぎの時間です。当初、三発目として割としっかり考えて書きました。
内容としては十分面白いし、続きも読みたいし、魅力的なものに仕上がっているとは思いますが、あと一発、強いパンチが足りないんですよね。
ペットの機械獣を毎日ぶちのめしてぐったりするとこまでやってる女の子と、その保護者の話という構造で考えてやりました。これだけだと話が動かないのと、キャラクターをドンと据えてその紹介に字数を割き、その他は控えめ、という構図だと一発目に書いた『口が災いの門』と同じだな(しかも、古典とかことわざをもじるタイトルまでそのまんま)と思ったので、折角ですがエキシビジョンです。
これを面白いと思ってもらえるというのは、単純に地力の問題(キャラクターが書けているか)というところかなと思うので、たくさんの読まれを嬉しく受け止めています。

3発目は、いわゆる「逆噴射小説」というフォーマットに合わせるのではなく、自分にしか書けないもの、自分の得意なもの、自分が書いてきたもの、というスタイルで書いてみようと思ってます。なので、現時点をもって他の人の書いたのを読むの、積極的に解禁します。ざくざく読みに行って、ピックアップもして、来週くらいには三本目、書いてみようと思います。

『ママ、おやすみのキスを』(本戦枠)

これは割合よく書けた気がします。『じゃじゃ馬馴らし』を書いて、来週やろっと、という舌の根も乾かないうちの三発目なので、まあ、ものを書く人というのは噓つきばかりだなあと本当に思います。一応、一晩寝かしました。
書いたのは昨日なのではっきりとは覚えてないのだけど、「すんなり素直」じゃない話を書こうとした記憶はあります。ざかざかっと書いて、わしゃわしゃ削りました。
どうしても40文字くらいオーバーしちゃって、うんうん言いながら、あ、そうだ一人称「わたし」から「私」にしたらだいぶ減るじゃんって思って打ち直して、直し漏れがあるところが結構面白いぞ、と思って、それを生かして主人格を「わたし」と「私」で描き分けてみようかなとか、そんなことをやってみました。メインが「私」なのは字数の都合です。物語の雰囲気的には逆の方が雰囲気が出るような気もしてます。
というわけでその工程で大分書き直したので実質二回書いてます。

そうそう。語ってるうちに思い出してきた。
自分にしか書けないもの、というよりは、パルプとして描かれにくいものを書こうかと思いました。ハードボイルドではなく、ウェットな私小説。カッコいい女性ではなく、弱い女性。あとは身体感覚。いやだな、とか、気持ちいいな、という感覚。片腕を吹き飛ばされる感覚よりも、うまれたばかりの子が自分の指を掴んだ感覚のほうが「ピンとくる」人は多いんじゃないかなあ、というような感じでそれを題材に決めました。
どこまでが「自分」かな、とかどこまでが「人間」かな、というのはおそらく長い長い間の僕個人のブームなので、『ワッタワンダフル・ワールド』と若干被っているのは見逃してください。

ともあれ「自分にしかできないもの」というのは、「発想」のパートではないよな、と思うんですよね。道を決めることはさいころに任せるようなもので、振るだけ振れば後は確率で、同じ道を歩く人は必ず出現するもの。つまり、歩き方の問題なのかなと思います。三題噺を書いても個性は出るじゃろ、というやつです。

今回のお祭りで書いた中、一番気に入っているフレーズは一作目、『地獄でメスのイカとファックしてろ、みたいなこと』の『みたいなこと』の部分なんですが、これは割と偶然生まれた部分があります。アラビア語だから直訳できないよな、という頭があってそのまま出力したんですが、『みたいなこと』ってなんだよ、というおかしみがあってすごく気に入ってます。

それと同じように、芸術というのは設計と、あとはいくばくかの偶然みたいなものが必要なんじゃないかなと思います。芸術は即興。虎は虎。僕はガバなので考えるのつかれた。膂力で振って、あとは待機室でぬくぬくあったかい飲み物でも飲んで見てます。

みなさまご武運を!
ピックアップとかはこの後、残してしまったお仕事を終えてからやります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?