『じゃじゃ馬馴らし』


飼主として常にその機械生命体より強くあり、完全な支配下に置くこと。それがブッチを飼う条件だったのでソーニャは毎日努力した。
腹を空かせたブッチが残飯街を襲った時も単身でぶちのめして引きずって帰ってきた。以来、餌の時間を守ること、というのがルールに書き加えられたが、他にはたいした間違いも起こさずに暮らしている。

上下関係を叩き込むためにか毎日飽きもせずソーニャとブッチは戦闘を繰り返し、お陰で1日の大半を、機械獣はぐったりして過ごしている。
それ何のために飼ってるんだ、と聞くと可愛いからだと間髪を入れずに返ってくる。ブッチの方はそう思っていないかもな。流行の動物語翻訳アプリで聞いてみたら、ぶん殴られる側でも楽しいのだと言う。いつ聞いても、楽しい、腹減った、原隊への復帰は望まない、の三種類しか返事をしなくてつまらないからアプリは消した。

まだ、ソーニャの兄弟姉妹を皆殺しにしたのが俺だと告白するつもりはなかった。俺がもう少し老いてきちんと弱り、彼女が復讐を遂げられるくらいに育ってから、と考えていたが予定が早まった。

発掘班の襲撃で事務所と俺が燃えていた。
トネリコの杭とタングステン線で縫いとめられた俺の身体。ナパームの爆ぜる摂氏1300度。杭はすぐ炭になったが、芯に仕込まれたモリブデン鋼のカエシが俺の身体に食い込んでいた。連中も工夫して進化している。再生が間に合わない。

「おじさん!」

駆けつけてきたソーニャの声が内耳に響く。
秘密を告白すると、そんなのはもう知ってるよ、と冷たい声が響いた。そんなことより、愛してる、って言ってよ。
返事する間もなく猛烈な勢いのコンクリート片がぶっ飛んできて胸の中心を撃ち抜かれ、俺は拘束具と壁ごと炎の外に文字通り転がり出た。左脚は炎の中に残ったままだ。

「おじさんがちゃんと私を愛してくれるまで、復讐できないよ」

ソーニャの隣。ギミ、と嫌な声でブッチが鳴いた。クソガキどもめ。

【続く】

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