同僚だったおっさんのこと 8(小ネタ)
定点観測。
キャンさん生きてる。最近の「すげえなお前」エピソード。
若手の営業くんが買ったばかりの三色フリクションボールペンを事務所内で失くしたという。
「さっきまでここらへんで使ってたんだけど、あれ、ないな、どこかなあ」
生来の癖で彼は矢鱈独り言がデカい。
しらねえようっせえなあ、というのも薄情なので、聞かれてないけど、知らないよ、この辺にはない、と返事をする。
若手くんはついにキャンさんに直接声をかけた。
「キャンさん知らないっすか」
キャンさん、若手くんをずっと無視してたけど、チラッと目をあげて「知ってるよ」と自分のペンケースを開けてフリクション出した。
「これ?」
これ?じゃねえよお前いまいまいまどこからそれお前その。
僕はフリーズ。若手くんも絶句して、今、オレが探してるの聞いてましたよね?と頓珍漢なことを尋ねた。
「いや?聞こえてなかった」
流石にダメだろと思ってわたくし。
「いや、今、自分の筆箱から出しましたよね。なんで入ってんの」
「いや、落ちてたから、ラッキー、って思って」
悪気のない曇らない瞳であった。
「ここはストリートか」
僕はつぶやき、若手くんはキャンさんを咎めようとしたのだが諦めたようだった。
それからというもの、物が消えると真っ先にキャンさんに「知らない?」と声がかけられるようになった。凄まじいことに、キャンさんはそれを「頼られてる」と解釈したようだった。聞かれると、知らないけど一緒に探しましょうか、とあたりをガシャガシャとひっくり返す。
キャンさん凄い。
僕はといえば、キャンさんに財布を見せないよう、注意して暮らすようになった。あと、さも面白い話風にみんなに聞かせて、キャンさんへの注意喚起を行っている。
みんなキャンさんに気をつけろ。あの人ナチュラルボーン泥棒だぞ。
この後は「キャンさんを殺そうとしたわたしの後日談」。
課金するかメンバーシップに加入すると読めます。キャンさんのシリーズは全9回予定です。
続く
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