逆噴射小説大賞 応援tips 2 『アイデアの検証』について

問われたので説くやつ。第二回です。
このアワードは800字の小説大賞です。しかも冒頭だけ。つまり、面白いアイデアの一発勝負、という側面があることを否定できません。度肝を抜くアイデアがひとつあれば、それだけでチャンピオンになることも夢ではないです。
でも、そのアイデアがほんとに独創的なものなのかどうか、あなたに扱えるものかどうか、どうやって判断すればいいんでしょう?
ちなみに(現時点での)自分に扱えるかどうかは気にしなくていいです。800字の間、きちんとコントロールできていれば(できてなくても)、できた800字が面白ければあなたがチャンピオンです。
つまり、その800字が面白いかどうかというより、今回は少なくとも「ありふれていないか」という判断をするためのtipsです。

「真に独創的なアイデア」は存在しない

これは最初に気に留めておいてください。この世の中に、新奇でエキサイティングでオリジナリティに溢れたアイデアは、もう残ってません。
正確には、どんなアイデアでさえも「何かに似てる」と表現することが可能な時代になってしまったということです。アイデア、たとえば「バラバラにされるたび、記憶も含めて死ぬちょっと前まで戻るヒーロー」というのを思いついたとしましょう。
これは言うまでもなく不死者の亜種です。完全なる新奇ではありません。さらに不死者の部分を電脳存在に置き換えてみましょう。これは通常のサーバーロールバックと同じ現象です。
わたしがここで申し上げたいのは、こういったものを削ぎ落として「真に独創的なアイデア」に研磨せよということではありません。逆です。どんなアイデアも何かに似ているとこじつけることは出来るので、そんなことをクヨクヨ気にすんな、ということです。
ただ、だからといって「使い古されたもの」でじゅうぶん、という訳でもないですよね。

それでも、使い古されたものにしないために

100万人に1人しか思いつかないアイデアを作るきわめて簡単なメソッドがあります。すごく簡単です。100人に1人くらいは考えつくアイデアを3つ組み合わせるんです。1/100を3乗すれば、それは1/1000000です。
ただしかし、この同じ100万分の1のはずなのに「よく見るぞ」と思われてしまうものがあります。
何か。
それは、連想によって繋がっている組み合わせです。人智を超えた存在のことを考えると、人はどうしても対極にある科学技術のことを思い浮かべます。壊すものを思えば守るものをセットで考えつきます。
対極にあるものというのは実は、連想しやすいセットであることを思い出しておきましょう。
また、ひとはなぜか「ふたつ組み合わせたアイデア」をレアリティ換算してしまう傾向にあります。簡単な例でいうと、「異世界転生と珍しい職業」という組み合わせは、実は1/100×1/100のシナジーを生んでいるのではなく、いまや「珍しい職業」という単一、1/100のファクターなのですね。
これは、舞台設定に凝ったりするとよく陥りがちな見落としになります。

組み合わせ自体に罪がある話ではありません。要素の中にありがちな組み合わせがあってもいいんです。ただ、それが比較的使い古されている要素であることを自覚して臨むこと。それが大事なことです。

ここからは初心者向けなのでちょっと雑なtipsになります。
わたしは、「おれのアイデアは大したことなかったのか」というあなたの意気消沈を見たくはありません。わたしがこれから書くのは、プラスひと手間、ワンアクションでそのアイデアをもっと魅力的にできるのでは?という簡単なチェックと提案です。

(1)アイデアの説明になっていないか

世界設定、舞台設定、あなたが空想したそこが「ファンタジー世界」「架空戦記世界」「ハードボイルド世界」など、ひとことでざっくり表現できる世界の場合は、舞台をメインギミックにとるのはやめましょう。それを説明してる間に800字は過ぎます。
逆に、一言で伝えられない「その世界そのもの」を見せたいのであれば、それをゴンゴン推していきましょう。
どっちつかずが一番散らかります。800字、世界を見渡している暇は結構ありません。世界を見渡すなら、その風景だけしか書かないくらいの思い切りが必要です。
キャラクター、事件についても同じです。
「要するにアレよ」のひとことで説明できる要素は、あなたにとってどんなに魅力的なものであっても、読者にとってそうではないと思った方がいいです。

(2)フォーカスは絞れているか

キャラクターの美しさ、強さ、特異さ、魅力が800字で完全に伝わるはずはありません。一行で凝縮して伝えられそう、と思ったらそれはたぶんもうベタです。
描きたいものを描き切ろう、伝えきろう、と思って書くのは素晴らしいことですが、これは「冒頭の800字」です。
あなたが書くべきものというのは、その謎を、そのキャラクターを、その世界を、その事件を、「もっと読みたい」と思わせることです。
そのためには、レンズのフォーカスをきちんと合わせなければなりません。中心にあるのがキャラクターなのか、事件なのか、世界なのか、設定なのか。それぞれ主題だから何文字使うとか、そういう配分に決まりはありません。
最後の一行でぐるっと物語が動く形式もあります。しかし、どの場合も、何がメインなのかは決めておいた方がいいです。

(3)オチちゃってないか

これはもう最後、仕上げの部分ですね。ワンアイデア、800字で書き切れてしまうものというのはちょっとコンパクトなものになりがちです。「書ききらない」というのも大事ですが正確には「書ききれない」を目指した方がいいかと思います。
怪異の仕組み、事件の概要、冒険の予感、そういったアイデアなど、800字ではどうやっても伝えきれないんだ、という勢いや広がりがあるととてもいいと思います。
何も、すべての仕組みや物語構造を膨大な裏設定で作ってから書け、という話ではありません。氷山の絵を描くのですから、氷山の絵が描けていればいいんです。ただ、せめてその水面下の裾野を感じさせるように、あるいは感じながら描くとよいのではないでしょうか。
書く人は最初の読者です。800字のさらにその続きを自分でも読んでみたくなるようにぜひ書いてみてください。

まとめ

アイデアというのは、それをそのまま文字にするだけではそのアイデアの「説明」にしかなりません。アイデアをバックグラウンドに持ち、何を描くかというフォーカスを自分の中できちんと決めつつ、こじんまりしない。

そんなん出来るやついるかって話ですが、実際にいるからびっくりしますね。でももっとびっくりするのは、こういうちまちましたtipsを参考にしなくても面白いものは面白い、という事実です。

もう、明日と明後日しか時間がありません。
こんなのを読んでいるより、手を動かしてみるといいと思います。書けたのは書けたけど、このまま出していいのかな、なんて心配になった人だけがなんとなく参照してくれればいいかなと思います。
がんばってネ!

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