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クラファンは予約販売じゃない。ユーザーとガチで語る場だーー成功したプロジェクトから学ぶ3つの勝ち筋

ユーザーから直接プロダクトの開発資金を集めるクラウドファンディング。その元祖と呼ばれるKickstarterの登場から15年ほど経ちます。その中でもハードウェア関連のプロジェクトは開発中断や配送遅延といったトラブルから、リスクを避けてODM品などの輸入販売のように使われる事例も増えています。

その一方で、国内のクラウドファンディングプラットフォーム「Kibidango(きびだんご)」では、今なおオリジナリティの高いハードウェアが支援を集め続けています。不確定要素の多いハードウェアを開発するスタートアップは、クラウドファンディングという手法とどのように付き合えばいいのでしょうか?きびだんごの松崎良太氏と青井一暁氏にお話を伺いました。


クラウドファンディングは予約販売サイトではない

ーークラウドファンディングで挑戦的なハードウェアを実現しようとするプロジェクトは減り、開発済みのプロダクトを普及させる「予約型ECサイト」のように使われる事例が増えたと感じています。こうした変化は何に起因するのでしょうか。

きびだんご 代表取締役 松崎良太氏

松崎氏:一般論として、プロジェクトを支援しても企画が頓挫し、製品が支援者に届かないことが頻発する時期がありました。支援者や社会からの不信を回避するため、2020年頃から海外のプラットフォームでは、商品画像はCGによるものだけで実物のない企画や、不確実性の高いプロジェクトの掲載を控えるような動きが生まれています。

日本のプラットフォームはさらに保守的な方向に振れ、サクセスしたら確実かつ迅速に出荷できるような、安定性の高い商品を多く扱うようになりました。事実上の予約販売とも言える形態ですが、こうしたプロジェクトは支援者を落胆させることこそありませんが、クラウドファンディングの根本にある面白さからは離れてしまうものだと感じます。


きびだんご Cheif HR Officer コンサルティングチームマネージャー シニアプロジェクトコーディネーター 青井一暁氏

青井氏:私にとってクラウドファンディングの醍醐味は、支援したプロジェクトがどう進むかわからない”ガチさ”にあります。早い段階からフォローや支援をして展開を追いかければ、開発に「一枚噛んだ」という自負も生まれます。これは単純な物の売買では生じない価値ですし、消費行動としても全く質が異なるものです。量産前に行われるクラウドファンディングを経ることで、ユーザーからの要望がプロダクトの完成品に反映された例も少なくありません。

松崎氏:弊社が運営するECサイトとクラウドファンディングサイトでも、利用者がサービスに期待するものは全く異なります。ECは注文した翌日に届くのが当たり前のような世界ですから、遅延や不良があれば勿論お叱りを受けます。一方、クラウドファンディングの利用者は初期不良や遅延があっても見守るような方が多く、そこにも業態としての違いが表れています。

また、購入型や寄付型、株式投資型など多様な方式が「クラウドファンディング」という一言で括られているので、ユーザーの認識がバラついている面もあるでしょう。場を提供するプラットフォーマーとしては、自分たちの立ち位置を整理し、伝え続けていくことが必要だと考えています。

ーー確実に手に入れるための予約販売と、挑戦的なプロダクトを見守りながら育てる企画はかなり性質が異なりますが、同じクラウドファンディングとして括られている現状があるのですね。単純にお金を集めたいのか、支援者を巻き込んでいきたいのかなど、スタートアップ側も目的意識を明確にして利用する必要がありそうです。

プロトタイプのクオリティで不安を取り除く

2020年以降、きびだんごではオリジナリティの高いハードウェアがファンディングに成功する事例が続いています。電子楽器「InstaChord」や往年の名機を復刻した「#X68000 Z」、先進的なアイウェア「ViXion01」の3プロジェクトについて、成功の要因はどこにあったとお考えでしょうか。

電子楽器「InstaChord:インスタコード」

松崎氏:約8000万円を集めたInstaChordは、コンシューマー向けハードウェアの苦しさを体現したような存在でした。製造するためには最低5000万円を調達する必要があり、そのハードルの高さからいくつかのプラットフォームで掲載を断られていたそうです。私たちは成功報酬で商売をしていますから、新規性が高く、成功する見込みが不明瞭なプロジェクトに協力しづらいことは理解できます。

しかし詳しく話を聞くと、開発メンバーには相当な実力があり、支援の前提となる 「確実に完成し、確実に手に届く」ことが達成されると思えました。発案者の永田雄一さんは本当に多くの人に相談して最善の結果を出そうとしていましたし、持ち込まれたワーキングプロトタイプにも相当なお金がかかっていた。こうした思いや努力に共感し、全面的にお手伝いをさせていただくことになりました。

ーー開発資金を調達しても完成させられないことや、配送が極端に遅延してしまうことが、クラウドファンディングでつくる製品の不信の要因になっていました。新規性が高いプロダクトでも、実現する確度の高さを伝えられれば支援に繋がりそうですね。

ユーザーの意見に触れ、作るべきものや温度感を見定める


往年の名機を復刻した「#X68000 Z」

松崎氏: #X68000 ZでもInstaChordと同じように、プロダクトが完成すること自体への疑いは一切ありませんでした。#X68000 Zを手がけた瑞起さんは、ものづくりの実績を積み重ねてきた企業ですから。しかし「ユーザーの声の受け止め方」という点では、やり方を間違えないように進めていく必要がありました。

#X68000 Zは当初、瑞起さんの自社サイトで予約販売される予定でした。しかし、実機を東京ゲームショウ2022で発表した際に、ファン達の強い思いや要望を受け取ったそうです。このまま作って販売することもできたけれど、想像を超えて寄せられた多くの期待や意見に応えるため、進め方を再考することにした経緯があります。

熱量の高いユーザーたちの意見を汲み取っていくと、ライセンスの管理など含め、開発コストも嵩んでいきました。本当に売れるかどうかの判断が難しくなり、それならばクラウドファンディングで世に問い、支援者を巻き込みながら進めようという判断になったのです。

ーー技術があったとしても、本当に何を作るべきかの判断は難しいものです。闇雲にリクエストに答え続けてもコストがかさむので、その落とし所としてクラウドファンディングが選択されたのですね。プロジェクトの進捗を報告したり、質問に答えたりと、ユーザーの声を聞く機会としても活用できますよね。


松崎氏: #X68000 Zには並々ならぬ情熱を持つ支援者が多く、中でもユーザーを代表するような人物として、GOROmanさん(近藤義仁氏)の存在は大きいものでした。きびだんごのスタッフや瑞起の方々も、プロジェクトの各所でGOROmanさんにユーザーとしての意見を伺い、舵取りの方向や温度感を大いに参考にしていました。

GOROmanさんは一人のユーザーとして、瑞起というメーカーに対して期待はずれなものを作ってほしくないという強い想いがありました。とにかく結果として最高のものを作ること、ユーザーの気持ちや視点が最優先と捉えプロジェクトをリードしていました。時には開発側として耳が痛いような内容も伝え、ユーザー目線のアンバサダーとして関わり続けた結果、支援金額はもちろん、それ以上にファンからの大きな熱量を集めることに繋がったと感じています。

ーーユーザーからの濃厚な意見を取り入れたことが、完成度の向上やプロジェクトの盛り上がりに貢献したのですね。

過剰な期待へのリスクを避けて、理解者だけに訴求する


オートフォーカスアイウェア「ViXion01」

松崎氏:ViXion01は暗所視支援眼鏡などを手がけるViXion社が開発した、自動でピントを調節するオートフォーカスアイウェアです。眼の酷使や加齢にともなう⾒え⽅の課題解決をサポートするものですが、視野角や利用シーンなどに一部制限も存在します。

製品名に「01」とありますが、いわゆる「開発者向けキット」のようなニュアンスもこの製品には含まれています。改善点がある段階でも、まずは商品の未来にかけてみたい——そう思える方に届けるため、クラウドファンディングという手法が選択されました。

青井氏:「魔法の眼鏡」のような伝え方をすれば、より多くの人にアピールできたのかもしれません。しかし、技術に明るくない人が手に取って、使えないものと判断されてしまうことは避けたい。実際の性能と乖離した認識を与えないよう、期待値のコントロールにはかなり気を遣いました。

開発者の皆さんにも、これまでにない技術を使った商品であることを真摯に伝え、支援者と一緒に開発していきたいという強い思いがありました。毎日のように戦略を話し合った結果、期待以上の支援を集めながら、想定外の層にはリーチしないという理想的なゴールを達成できました。

ーー進化の余地があるプロダクトであることを前提に、控えめなトーンでPRしたのですね。理想や良い点だけを謳って、とにかく大勢の注目を集めるのとは全く異なるアプローチだと感じます。

青井氏:Kibiangoでは、同じくクラウドファンディングプラットフォームであるGREEN FUNDINGとの共同開催が可能です。ViXionさんも双方でキャンペーンを実施しました。

CCCグループであるGREEN FUNDINGは全国にある蔦屋家電や蔦屋書店で展示が可能です。ViXionさんも店頭での試着イベントも積極的に開催しました。南部誠一郎さん(ViXion代表取締役 CEO)も現場で得られる新鮮な意見をとても貴重なものと捉え、何より試着しに来られた方々との交流を心から楽しんでいました。

また、#X68000 ZにおけるGOROmanさんのように、いしたにまさきさん(ライター・ブロガー)が開発の初期段階から関わっていた点も大きなアドバンテージになりました。

彼がユーザーの立場でプロダクトに触れ、その魅力をメディアやSNSなどで広く発信し続けたことで、共通の理解を持った仲間が増えていったのです。

作り手と使い手がフラットに接する舞台として活用する

ーー新規性の高い製品はプロダクトアウトで進めることを良しとされがちです。しかし、きびだんごで成功した3つのプロジェクトでは、むしろユーザーのことを深く観察し、密なコミュニケーションをとっていることが印象に残りました。

松崎氏:3つのプロジェクトに共通していることは、プロジェクトの実行者とユーザーの距離が極めて近かったことです。InstaChordの永田雄一さんは自身がこのプロダクトを誰よりも必要としたボーカリストですし、#X68000 ZにはGOROmanさん、ViXion01にはいしたにさんというアンバサダーがいました。ユーザーが求めるもの・求めていないものを、メーカーやプロジェクトに関わるチームが深く理解できたのは、非常にありがたいことでした。

ユーザーが要望を伝えるのと同じように、メーカーもできない理由や譲れないラインをしっかりと主張できていました。ものを作る側と買う側に上下関係がなく、同じ目線で言いたいことを言い合える良い関係が生まれていたと思います。

ーー会社の中にとどまらず、少し距離を置いた立場からフラットな意見をくれる人の存在は貴重です。外部の目に晒して正しくニーズを捉え、正直にできること・できないことを伝えながら現実社会に落とし込んでいく。ハードウェアスタートアップにとっては、そうした一つの開発手法として、クラウドファンディングを活用することができそうですね。

青井氏:コンシューマ向けプロダクトの開発は、ユーザーとのコミュニケーションに終始すると思います。その最たる例はデザインで、プロダクトの造形や色彩は印象を大きく左右し、ユーザーからの反応を変えていきます。きびだんごに持ち込まれたプロダクトに対しては、僕らが第一のユーザーとして印象を伝えますし、我々が適切なプロダクトデザイナーを紹介することで実際にデザインが大きく変わった例もあります。

松崎氏:企業では決裁権を持つ人がプロダクトの合否を判断しますが、その方達が理想とするユーザーに近いとは限りませんよね。スタートアップとしても自分たちが作りたいものと、お客さんが望んでいるものは合致しているかという目線を持つことは大事なはず。その擦り合わせの手段としても、クラウドファンディングという選択肢には価値があると思います。

(聞き手:越智岳人 取材・文・撮影:淺野義弘 / シンツウシン)

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