2022年5月の歌

ピンクのプルメリア

プルメリア俤(おもかげ)のごと咲き出でて惜しまれつつも散るは花かげ
入学式見れば涙が溢れるよ忘れられない幼なの情景
大森久光

上海は不思議な街よ古きもの底に抱きて光り輝く  
うきうきと君の腕かいなに縋りて歩く三十年ぶりの上海の街 
小島夢子

大空に吸はれるやうな薄青き桐の花咲く旅立ちの朝
『白老』の村訪ねしは若かりし未だ十代の恋しらぬ頃
近藤秀子

夕暮れに上り列車は走り去る麦の穂ゆれる鹿児島本線
ホクレアは古代の航路たどりゆく星・風・浪の力たよりに
関本なつ

旅立つ日未来を見据え前向きに心は踊るしあわせの旅         
そよ風に気持ち晴れ晴れいい気分しあわせ気分ありがと感謝
田中えり

熱々のパステル・デ・ナタが食べたくてリスボンっ子と行列したり
糸口の小さな紐を引っ張ればゆるりと解けたり今朝の数読は  
筒井みさ子

鈴生りのレモンの挟間に見えし碧ナポリの海の輝き消えず  
裏の木樹きぎばっさり伐られたちまちに朝日に映えしマウナケア見ゆ 
原 葉

春浅き雪国からのひとっ飛び南国の風半袖になる
新任の教師にきびしき教頭のガリ版の字の尖りていたり
藤代敏江

最年長九十歳のシャトナーは「遅いと思わぬ新たな経験」と      
シャトナーはオーナーからの招待者演じし役を体験飛行す       
三浦アンナ

真白な飛行機雲を追いながら夢膨らますハワイへの旅         
憂きニュースに俯きかげんの春の日よツツジはいつしか満開となる    森田郁代

草原の風に誘われ一人旅いのち潤す出逢いのありや
頬撫でゆく緑の風の並木道わか葉の息吹の仄かに聞こゆ
楽満眞美

眠れずに裸足のままで庭に出てしじまの中で見る蒼い月 
雨雲を貫き飛び立つ小型機は海を旅するヤリイカのよう 
六甲もこ

留守番の我に届きし動画から共に旅する娘家族と 
「おはよう」と未だ言えない二歳児はハグで返して朝は始まる 
伊藤美枝子

二年をただ吾あを待ちし父に会うドライアイスに眠れる父に
(山形県天童市の人間将棋)
駒となる人を動かす竜王の声を包みて桜満開             
鵜川登旨

遠くから始発電車の音がした母を見舞ったあの日の朝に 
コンビニのサンドイッチの完璧な味に驚く日本の初日 
大室やよい

夜遅く着く我待ちて娘の作りし熱き茶漬けの海苔の香やさし 
北国の林の木々は芽を吹いてあさき緑の霞の如し        
岡まなみ









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