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2024年3月の歌 題「食器」 


亡き父の選んでくれし飯茶碗のぬくもりを手に今日を始める
つやつやと輝く庭の片隅に猫のタイガー静かに眠る
筒井みさ子

魚好きの夫を思いて夕餉には食器あれこれ並ぶ食卓
中年のブーゲンビリアは年毎に精彩欠きて吾と競いぬ
原 葉

うるし塗りふうのチープなプラ皿にだいふく乗せて茶の友とする
倒壊の家屋に降り積む真っ白な雪に罪などないのだけれど
藤代敏江

客用の器は棚の奥の奥使われる時を待ちわびている       
むずむずと鼻が察知するスギ花粉長い戦いとマスク取り出す
森田郁代        

朝刊を広げ楽しむコーヒーは母の形見のマグカップに入れ      
ウグイスの初音に気付き目が覚めし春の兆しを待ち兼ねし朝   
山下ふみ子

いそいそと記念日ごとに買い足ししウェッジウッドの皿手洗いす
七草の茶漬け食べつつ数え出す母の作りし七種の菜漬け
楽満眞美

手の震う義母の為にと蓋付きで軽い食器を探し求めん 
雨空に一筋光が刺したような金縁の皿に載せたるケーキ 
六甲もこ

お赤飯

重箱に赤飯詰めてパーティーへ開ければふわっと故郷の風 
幸せは香り漂う珈琲のカップに微笑む姫ちゃんの顔 
伊藤美枝子


スカイライン

青みゆく空に向かいて高架線の電車ひときは速度をあぐる
遂にやった月面着陸夢に挑む探査機「スリム」世界は注視
今森貞夫

指先で弾けば鈍い声を出すコーヒー茶碗に別れを告げる.  
厚きシャツを一枚一枚脱ぎながら帰り来たれり緑のハワイへ  
鵜川登旨

「子供にもリスペクトが必要よ」紙皿使えば七歳(ななつ)は言えり
海鳴りのようなライオンの遠吠えがアフリカ園の奥から響く
大室やよい

 雪の街にて(連作)
一夜明けて雪景色となりし街中を車も人もそろそろ動く         
雪道の足跡穴に足を入れてバランスをとり脇見せず進む   
岡まなみ

お小皿が七つは欲しい私と大きな皿に全て盛る君  
甘たるい天丼の味変わらないハワイいち古いセキヤ食堂 
小島夢子  

テーブルに二膳のおはし無意識に並べてつつくきんぴらごぼう
図書館の窓から見える春の風弥生の空に流れる雲よ
関本なつ






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