タイトルの付け方
↑を見てもらえば分かる通り、類まれなるタイトルセンスを持つ私ですが、ショートショートを書き始めた頃は、題名は作品を完成させるための最後のピースでもあり、大きな課題でもありました。
本記事では、タイトルに関する自分なりの考えをいくつか投下します。といってもこだわりは人それぞれでしょうから、自分の中で一家言ある人はぜひコメントを残していっていただけると嬉しいです。
ちなみにゲームの主人公の名前を「ああああ」にするタイプです。
タイトルの方向性
①タイトル回収
まず題名が最も効果的に小説に影響するシチュエーションは「タイトル回収」。つまり物語の山場に「タイトル」が本文として現れる瞬間だと思います。私なんかはいつもこれで号泣してしまいます。おススメは「たったひとつの冴えたやりかた」のwikipedia。『あらすじ』と銘打った10割ネタバレはとても感動的です。
ですが、この手法は物語が長ければ長いほど効果的だと思います。
それはがなぜかというと、例えば読者の皆様は本稿を「ありふれた記事」として読んでいらっしゃるはずです。
小説や漫画についても同じで、1話や序盤を読んでいる最中なんて「面白い話だなあ」ぐらいのふわふわとした概念しか持っていません。ですが連載が続いていく中で「今週のジャンプの新連載」とか「○○先生の新連載」と呼んでいた漫画のことを、ある日を境にちゃんとタイトルで認識しはじめます。
やがてそれは読み手の人生の一部となり、毎週の月曜日が楽しみになってくる。気が付けば、真っ先にページを開くようになっている。しかしだんだんと、主人公の出生の秘密やラスボスの悲しき過去が語られ初めて、もうすぐ最終回とネット上で噂され始める。
そこで満を持しての「タイトル回収」。もはや読者にとってそれは、ただの文字列以上の意味を持ち、Twitterのトレンドに上がるというわけです。
②タイトルの位置づけ
というわけで「タイトル回収」という手法は、短い物語とは相性が悪いです。特に1000字以下のショートショートにおいては、意味のない技法だと考えています。
それでもあえて、オチの一節をタイトルに据えるというのは、話が始まる前にネタバレを置くという意味で、(オチが弱いと感じる時などに)結末の意外性を強める効果を期待できます。
しかし覚えておくべきことは、やはり読者は短編のタイトルなんて覚えていないということです。
noteでは画面を上に少しスクロールするだけで記事のタイトルを再確認できますが、下に下に読まれていく小説で、その機能が使われるということは、あまり名誉なことではないかと思います。
自分のタイトルセンスによほどの自信があるならば、話の最後に「完【タイトル名】」などと入れると、分かりやすい読後感を生み出すことができますが、むしろそれは後味の押し売りになってしまわないかと私は危惧しています。
それでも、このようなタイトルが散見されるのは、つまりその作者にとっては、タイトルも小説の一部であり、内容として大きな比重を持っていると考えている人がいるからです。
逆に、タイトルと内容を完全に分離すべきだという意見もあると思います。タイトルは本文とは別に用意されるべきであり、小説自体に影響を与えないような、見出し程度の扱いにとどまっておくべきだと。
③タイトル潔癖症
タイトル見出し派の人は、自分の小説の内容を気に入っていると言えるでしょう。いわば題名に頼らずとも、むしろ題名で無駄な先入観を持たれないことの方が重要になります。
このような場合、シンプルに本文を切り取るのもいいですが、それをダイレクトに反映するのではなく、少しアレンジすると魅力が増すかもしれません。
例えば、夏休みをテーマにした小説を書いたときに、「夏休み」とタイトルをつける人は流石にいないと思いますが、本文中にその単語が出てこなくとも「セミの鳴く午後」や「バケーションがやって来る」というような、恣意的な見出しの取り方、または副題として捉えるといったやり方をしても良いということです。
④ギミック系タイトル
対してタイトルすらも伏線や、演出の一つとして扱う考え方もあります。
ディストピア系の小説を「幸せな国の出来事」と名付けたり、ホラーであることを強調するために、読みにくいカタカナにする。またはホラーであることに意外性を持たせるために、愛らしいタイトルにするといったように。
このような考え方は特に、字数制限のあるフォーマットで効果的だと考えています。文字数が少なければ少ないほど、例えば400字ショートショートで8文字の題名をつければ全体の文字数は2%増えるし、それ以上のインパクトを生み出せる可能性が高いです。
タイトルをギミックとして考えるには、それ自体をメタ的な要素の一つとして考えることが必要になります。
⑤キャッチャーさの見つけ方
「人間は外見か中身のどちらが重要?」
という問いかけをしてくる人は、大抵どちらも兼ね備えていませんが、本が溢れる現代社会において、小説の中身よりも前に手に取ってもらうことが重要というのは公然の事実でしょう。
ライトノベルのタイトルが長すぎることが注目された時期がありましたが、本質的に大事なことは、他の作品との差別化をどう作るかに帰着します。
一つの分かりやすい指標は「カタカナ+漢字」の組み合わせではないでしょうか。書店に行って本棚を眺めて下さい。「○○ガール」というタイトルがいくつか目に付くと思います。比較的、漢字一辺倒のタイトルが多い小説コーナーではカタカナが目立ちます。
逆に外国作品が多い名著コーナーでは、「葉隠」や「武士道」とう文字列に目が吸い寄せられることがありませんか?
キャッチャーさというのは、自らが注目したものを意識することでで簡単に知ることができます。日ごろから自分が何に視線を奪われているかを、観察して真似すると良いでしょう。
あっ、こいつ星新一読んでるなって思う瞬間
web上のショートショートを徘徊していると、上記のことを体感する場面があります。これは自分が星新一の作品を数多く知っているからであり、その特徴を無意識的に把握しているからですね。なので他の人はもしかすると、こいつ「宮部みゆき」読んでるな、などと思う瞬間があるのかもしれません。
ここまでは一般論に落とし込んだ話をしてきましたが、最後はタイトルの付け方に出る書き手の個性の話を、星作品を例にして終わりとしたいと思います。
星新一のタイトルの特徴
1、一般名詞を使う
つまり固有名詞を避けます。「五円玉」→お金。「富士山」→山。という風に一般化しましょう。さらに、特定の生き物などを使う際も、「ヤイロチョウ」のような聞き覚えのない名前ではなく、「カラス」や「オウム」のような身近なものを題材にします。
2、二つの単語の組み合わせ
ショートショートの基礎は二つの異なる概念の組み合わせです。それ片方では魅力のなかった単語も組み合わせしだいで、誰も考えたことのない概念に化ける可能性があります
3、助詞を入れる。主に「の」
上記に関連して、星作品のほとんどは、代表作の「午後の恐竜」を筆頭に「AのB」というタイトルが非常に多いです。または「AをBに」「AとB」などというパターンも見受けられます。
4、形容詞・形容動詞+名詞
助詞が入らない場合には「きまぐれロボット」のように「形容動詞+名詞」の形になることが多いです。3が単語+単語の異質さであるならば、こちらはシチュエーションの意外性を意識しているのかもしれません。
これらを踏まえると、星新一っぽいタイトルは簡単に作ることができます。例えば、「大きな宇宙船」「名画の条件」「あざやかな犯行」みたいな感じでしょうか。審査は星クラスタの皆様に任せますが、こんな感じでタイトルを考えておけば、あなたも星新一になれるかも?
最後まで読んでくれてありがとうございます