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はじける会話

「一泡吹かせてやりたかったんですよ」
 取調室の中、机を挟んだ容疑者は刑事に向かってそう言った。
「それは上司にですか?」
 刑事の質問に彼はコップの中の水を一飲みして答える。
「ゲェッ…おっと失礼。月賦がね、不満だったとかではないんですよ。残業代もしっかり出てましたし」
 そこからしばらくの間があった。コンクリート造りの地下室に、どこからか、ひんやりと冷たい風が吹き込んでいた。
「彼女に振られたんです。それも思いっきりね。だから何とかして見返してやろうと。でも僕は彼女の優しさに甘えていただけかもしれません。信じられないでしょうが、昔の僕はもっと爽やかでスッキリとしていたんですがねえ…」
 確かに今の彼はお世辞にもスマートとはいえなかった。どこか気が抜けたような顔をして、腹はブクブクとしたビール腹だ。
「でもね、あれが犯罪だとは知らなかった。最初に思いついた時なんて、俺って天才だーなんて浮かれていたんです。刑事さん、本当に僕は悪いことをしたのでしょうか?」
 刑事はため息をついて、調書に目を向ける。容疑の欄には「インサイダー取引」と書かれてある。刑事はニガニガしい顔をして呟いた。
「そりゃソーダ」

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