キッチンの片隅の異国。

スパイスが好きだ。

エキゾチックで、刺激的な香りの数々。ときに甘く、辛く、さわやかで、少しだけ苦い。そんなスパイスの香りが、とても好きだ。

キッチンのIHコンロの横。一番取り出しやすい位置の、我が家の一等地の引き出しに、何種類かのスパイスが常に常備されている。多い、というわけでもないが、どちらかというとそろっている部類に入ろうか。

シナモン、ナツメグ、クミン、ガラムマサラ。ジンジャー、タイム、バジル、クローブ。オールスパイスに、ターメリック、チリパウダー。アニスと、もちろん、黒コショウも。ローズマリーは玄関口の鉢植えに。でもすぐに使えるように、リビングに吊るして少しだけ乾燥させている。

チャイを淹れるとき、それからカレーを作る時。クッキーに練り込んでも美味しく、スパイシーシフォンケーキなんていうのも、香りがとても豊かだ。

バターチキンカレーだって、スパイスがそろっていればお手の物。量らずに目分量で足していくから、毎回少しずつ味が違う。それでもちゃんと、毎回美味しく出来上がるのだから、スパイスの力は偉大である。

夏になると食べたくなる、茄子のトマトグラタンにも、ローズマリーやタイム、バジルをたっぷり。さわやかな香りが癖になる。芽が出始めてしまったじゃがいもの大量消費に作るジャーマンポテトだって、香りがよければ箸が進む。

ほんのひと振りのスパイスが、いつもの料理をがらりと変える。

その瞬間が、とても好きだ。

ほんのひと振りで、キッチンの片隅が、異国になる。
スパイシーで、パワフルで、力強い。

背中を押してくれるような、その香りが好き。