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萌芽の帰り道。

こだまが駅を出発する。景色も過去もすべてを振り切るように、速度を上げる。

夕日を浴びる富士の麓に目を凝らす。一時間前に検査を受けていたがんセンターが見えた。
初めて三島駅へと降り立ったのは、もう十年も前。富士の稜線が新鮮に映ったのは、最初の数年だけ。長い長い通院生活で、三島の町も、駅のお土産物も、富士に掛かる雲の形さえ、見飽きてしまった。

この町にもう訪れる必要がないのかと思うと、奇妙な気分だった。
晴れがましいのとも、違う。寛解を喜ぶべきなのに、どこか後ろ髪をひかれるような心地がする。
飛び去る景色の向こう。窓ガラスに写る私と目が合った。

長い長い旅だった。
ガラスの中にいる私は、どうやらもう癌患者じゃないらしい。
癌患者じゃない自分と出会うのは、中学一年生以来。
知らぬうちに背も伸び、大人になった。

さよなら、私。ひさしぶり、私。
別れは寂しい。だが、再開は嬉しい。

新幹線は岐阜へと、新しい私を乗せてゆく。

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