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小説『そもそも彼女は死んだはず』 第九話「校長」

#創作大賞2023 #小説


その日、高柳校長は妙な話を聞かされた。なんでも昨夜、校舎の教室が燃えているところを見た住民がいたという。だが、消防隊が出動し、すべての教室を確認しても火事どころか荒らされた形跡も見当たらなかった。このところ、おかしな噂ばかり耳に入る。
夏なのに桜の木が満開で咲いているところを見ただとか、深夜の校舎に人影を見ただとか。
生徒たちは怪談話として面白がっているが冗談ではない。この学校では二年前、本当に人が亡くなっているのだ。

「だからといってなぜ俺が夜の学校の見回りなどせねばならんのだ……。」

緊急会議が開かれ、噂を否定するために夜の見回りをすることが決まった。問題は誰がやるか。本来なら若手の教員にやらせるところだったが、噂の中にひとつ引っかかることがあった。
会議の席で一人の教員が発言した。

「夜の校舎を歩いていた人影。白衣を着ていたとか……。」

校長の脳裏にとある女性の後ろ姿が思い浮かぶ。

「ええ。聞きましたよ。美里先生に似てるって。」

別の教員が答えた。
それを聞いた校長の額には冷や汗が浮かび上がっていた。

夜の校舎。静まりかえり人の気配なんてどこにもなかった。さっさと異常がないことを確認して帰宅しようと校長は思った。懐中電灯を取り出して点灯する。

「養護教諭が夜の学校に侵入? バカバカしい。」

そんなわけがない。

「……そもそも彼女は死んだはず。」

二年前、学校内で起こった凄惨な事件。被害者は女性教員一人。
まだその犯人は捕まっていない。


第十話につづく


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