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小説『そもそも彼女は死んだはず』 第十三話「大悪霊」

#創作大賞2023 #小説


「大悪霊……!」
「覚悟を決めなきゃ……。」
「そんな……。」

かのんは周囲を見渡した。目に入るのは教室に散らかった机と椅子。校長に襲われて散らばったカバンの中身。かのんはどこにいったかわからない美里の武器を探した。一番近いのは教壇の上に置いたはずの銃だったが……。
その時、美里が声を上げた。

「あぁ! あれは!?」

美里の声の先をかのんは目で追った。そこにあったのは教室の窓いっぱいを占める大きくて不気味な目玉だった。

「ああ……大悪霊に見つかっちゃった……。」
「あれが大悪霊なの……?」

外から冷気が教室に吹き込んでくる。倒れた校長の回りに白い霜が積もり始めていた。
美里とかのんが震えているのは寒さのせいだけではない。大悪霊に睨まれた時、二人の心は恐怖で支配されていた。だが、その恐怖の中で美里は感じていた。

「この目は……前に見たことがある……。」

教室のドアが開いて、大悪霊の黒い無数の足が入り込んできた。続いて黒い無数の手が教室の壁にも天井にも、あちらこちらに手形を付ける。
あっという間に大悪霊は教室の一角を真っ黒に染めあげてしまった。その間も大悪霊の目玉はかのんと美里を見据えている。その黒い闇の中心には倒れた校長がいた。

「校長先生……?」

大悪霊の体の一部が黒い霧になって校長の体内に入っていくのが美里には見えた。

「私……見たことあるわ……。あの目……この黒い手を……。」
「まさか、先生。」

美里は自分の首に手をやる。だが、その首にはもう二度とあの手形は浮き出てこなかった。今の美里は自分の死を乗り越えていた。
かのんは真剣な面持ちで美里に言った。

「先生を殺したのは大悪霊なのね?」
「うん。そうだと思う。」
「そういうことか。先生の遺体からは犯人に繋がる物証が何も出なかったらしいの。犯人が悪霊なら何も残らなくて当然……。でも、それじゃ校長先生はなんでこんなに美里先生の事件にこだわったの?」

かのんは校長に目をやった。気を失った校長は大悪霊の渦に飲まれつつある。

「わかった。初めから校長先生は大悪霊に取り憑かれていたんだ。」
「え?」
「校長先生と大悪霊。繋がってたから大悪霊の犯した殺人を自分の記憶のようにずっと抱え込んでいたんだ。だから、美里先生もずっとこの学校で大悪霊に縛られて……。」
「嘘……。」

意識の無い校長の体が大悪霊に取り込まれて闇の奥に消えていく。大悪霊の準備は整ったようだった。ぞわぞわと大悪霊の黒い手足がうごめいた。

「もう、やるしかないよ! 先生!」
「やるって言っても……。」
「先生は大悪霊を倒さないと自由にならないの! また今日のことも忘れちゃう!」
「忘れるなんて……! それは嫌……!」

ならば戦うしかない。美里は大悪霊から逃げないと誓った。自分のことを忘れるのも、かのんのことを忘れるのも死ぬよりもつらいことだった。美里は覚悟を決めた。

「銃を取って! 教壇の上!」

美里はかのんに言われて教壇を見た。
しかし、教壇の上に美里が悪霊退治に使っていたあの銃は見当たらない。あるのは折り紙で作られた銃のような形の……。

「これって……?」
「それだよ! それを持ってイメージして! 今までの武器は全部、先生のイメージが作ってたの! もっと強い武器をイメージして! そうすればきっと大悪霊を倒せる!」
「イメージ!?」

美里は目を閉じ、折り紙の銃を握って願いを込めた。強い銃……大きな銃……大悪霊を倒せるような……。

「はっ!」

美里の手にずっしりとした重さが実現され、美里は目を開けた。
手の中にあったのは四十五口径オートマチック。

「こんなの撃てるの!?」
「撃てる。先生が作った武器なんだから撃てないはずがない! 構えて!」

美里はかのんの言葉を信じて新しい銃を構えた。黒く光る銃を両手で持ち大悪霊に狙いを定める。
大悪霊の影から黒い手が伸びて美里とかのんに迫ってきていた。


第十四話につづく


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