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小説『そもそも彼女は死んだはず』 第八話「美里とかのん」(イラストの場面)

#創作大賞2023 #小説


「大丈夫!? 先生!?」

かのんが心配そうな顔で美里に近づく。どこで怪我をしたのか。理科室では一撃で悪霊を倒した。大悪霊には触れられてもいない。
かのんは美里の足の怪我の状態をもっとよく見ようと、美里の足に手を伸ばした。

「触らないで!」
「先生?」

思いがけず美里に拒絶され、かのんはビクリと肩を振るわせ硬直した。かのんが見た美里の表情は青ざめていて、どう見ても普通ではない。

「かのんさん、私から離れて!」
「なんで……? 先生?」
「早く!」
「……わかったよ。」

かのんは美里から数歩離れ、教室の前方の机の間に立って美里を見た。美里もかのんから目を逸らさないで黒板の前で立ち上がった。ちょうど、かのんと美里との間に教壇が置かれた配置になり、教壇を挟んでかのんと美里は対峙した。

「やっぱりおかしい。どうしてかのんさんはそんなに詳しいの?」
「どうしてって……。」
「かのんさんは学校のどこに悪霊がいるかもわかっているし、どんな悪霊がいるかも知っている。」
「敵のことを調べるのは当然じゃない?」
「じゃあ、悪霊ってなんなの? なぜかのんさんは悪霊に狙われているの?」
「それは……。」

かのんが言いよどむ。かのんは美里から目を逸らした。しばしの沈黙。時間としては数秒だったかもしれない。
だが、それで美里はかのんが自分に隠し事をしていると確信した。
 
「かのんさん。本当のことを話して。」
「本当のことって……。」
「かのんさんと一緒にいると不思議なことばかり。悪霊もそうだけど、ずっと咲き続けているあの桜の木も変よ。荒らされた職員室や燃えた図書室が元通りになるのはどういう仕組みなの!?」
「先生、ちょっと落ち着こう?」

今、銃は美里の手元にある。美里は教壇の下に隠すように持った銃の重みを感じていた。
美里の目の前にいる少女は本当に自分が知っているあの山田かのんなのだろうか? メイクアップして髪色も変えていて、当時と見た目も違う。確かに目元も声もソバカスも記憶の中のかのんのままだ。でも、今、目の前にいるかのんは死者なのだ。死者がこんなに校舎の中を元気に歩き回り、感情豊かに人間と話すのだろうか? 悪霊と戦うためと渡された武器はいったいどこから持ってきたのだろうか? 桜の木も、校舎が元通りに戻るのも、本当はかのんの力なのではないか?
かのんは普通の死者ではないのでは?

美里はそっと銃に弾を込めようと動いた。かのんが何者だろうと、万が一の時、自分の身を守る準備が必要だ。あともう少し時間を稼ぎたい。焦りから美里は不用意に言ってしまった。

「かのんさん……、あなたは悪霊とどんな関係なの?」

かのんは美里のその問いを聞いて驚いたのか少し目を見開いたあと、ふふっと息を漏らすように笑った。
 
「そっか、先生。私を疑ってるのね?」
「う、疑うっていうか……。」

かのんが一歩、教壇に近づいた。美里は咄嗟に身構えようとして、自分の体が自由に動かせないことに気付いた。まるで金縛りだった。

「先生。私が悪霊なんじゃないかって思ってるんでしょ?」

かのんは更に一歩前に出て教壇に肘をついて頬杖をつくと、動けない美里の顔を覗き込んで微笑み言った。

「もしもそうだって言ったらどうするの? 私を撃つの?」


第九話につづく


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