三菱UFJ銀行による金利急騰のシミュレーションと「国債のすべて」
三菱UFJ銀行から「国債のすべて」という書籍があり、円債市場で広く読まれています。
この本は、典型的な編著の書籍で、各章ごとに違う人が書いています。したがって、頭から読む本ではないと私は理解しています。一例をあげれば、p38に「ロールダウン」がでているのに、「利回りとは」みたいな説明はp290となっています。これは編著で、各章ごとに記載していくため、こういうことが起こるのですが、各章で独立して読むことを読者が求められていると理解しています。
この書籍は、第6章が「銀行ALMにおける国債投資とリスク管理」であり、私はこの章をメインに読みました。この章は、ALMについて包括的に記載しているのですが、三菱UFJ銀行が国債暴落に対してどのようなシミュレーションを行っているかということが詳細に記載されています。三菱UFJ銀行がどれくらいこれに立脚しているかはわかりませんが、多くの市場参加者やリスク管理を行っている人は、おそらく日本で一番進んでいる金融機関の一つである三菱UFJ銀行がALMや金利急騰リスクについてどのように考えているかを把握することで、リスク管理を考える契機を与えていたと思います。
実際、私が国債関係を書く際も、「国債のすべて」の影響を強く受けています。特に実際の事例を記載する際に、引用できる文献が少ないところ、この書籍は事例が多いため、参照させてもらうことが少なくありません。例えば、以前記載した「グリッド・ポイント・センシティビティ入門」では下記のような引用をしています。
実は、この三菱UFJ銀行の金利急騰シミュレーションについては前哨戦があり、2012年2月7日に、朝日新聞の朝刊で、「三菱UFJ銀:数年後の日本国債急落を想定-危機対策」という記事を出たことがあります。特に、その日が10年国債の入札日であったので、大変大きな話題になりました。
【主要朝刊】三菱UFJ銀が日本国債急落想定、SUMCO工場閉鎖 - Bloomberg
その後、三菱UFJ銀行から「国債のすべて」が出たため、この事件が関係しているのでは、と市場参加者の中で議論になったようです。例えば、ダイヤモンドでは下記のような記事があります。
朝日新聞のリリースが2月であるところ、「国債のすべて」が10月なので、書籍を出すという意味では、1年以上前からこの書籍を準備していたと考えるのが自然です。もっとも、朝日新聞の報道があったため、「国債のすべて」における三菱UFJ銀行の金利急騰シミュレーションが注目を受けたという側面はあったと思います。
金利急騰については、国債の発行量が増加する中、利上げもあり、私個人は関心を持っています。それに伴い、VaRショックや資金運用部ショックなど、かつての金利上昇についても分析もしてきました。詳細は下記などを参照してください。
財務省ファイナンス「VaRショックについて―2003年における金利急騰時のケース・スタディ―」|服部孝洋(東京大学) (note.com)
財務省「ファイナンス」:齋藤通雄氏に聞く、日本国債市場の制度改正と歴史(前編)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
一般的に、「編著」である書籍の読み方ですが、私も経験がありますが、編著に携わると、各章の著者とのコミュニケーションがなされないのが典型であり、各章の関連が薄い、統一感が取れないなどの問題が起こりがちです。例えば、頭から読んでいても定義していないものがどんどん出てきます。特に会社で編著を書く場合、会社の仕事で記載していることが典型で、各章ごとに著者の熱量が違ってきます。したがって、編著の場合、一般論でいえば、各章ごとに読んだ方がよいと思っています(編著の場合、各章で独立読めるように記載されるのが典型なので、その独立性は編著の良さといえると思います)。
ちなみに、ご参考までですが、この書籍には今話題の石丸市長も関わっています。
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