Our Town 人が紡ぐスタジアム
追記(2023年7月):この記事は2023年1月、当時イングランド2部リーグ相当のEFLチャンピオンシップに所属していたクラブ、ルートン・タウンのホームスタジアムについてまとめたものです。今年のチャンピオンシッププレーオフを制しプレミアリーグ昇格を決めた、この小さくも世界最強のクラブ、その奇跡を照らし続けたスタジアムの話です。
ルートン・タウンのホームスタジアム、ケニルワースロード。昨年3月FAカップでのチェルシー戦を前にnoteの記事でも紹介したが、今回は現地で生き字引ジョン•ミラーさんの解説を聞きながらスタジアムとクラブ施設を歩いてみた。
<基本情報>
ケニルワースロードスタジアム
・ピッチサイズ:100.6m×65.8m
・収容人数:10356人
・建設年:1905年
・所有者 :ルートン区議会
・所在地:ルートン/ベッドフォードシャー
・愛称:KENNY
*概要は過去の記事に記しているのでコチラから。
-ルートンという街
ボクシングデイのノリッジ戦をコーリー•ウッドロウの劇的な決勝ゴールで勝利したハッターズ。その翌々日の12月28日、冷たい小雨の降る中、ロンドンから再びルートンへ。
ルートンは、ロンドンの中心駅セントパンクラスからテムズリンクで約1時間ほどの場所にある都市近郊の街。駅前にはスターバックスと長距離バスターミナル、街中心部にThe Mallという大型ショッピングセンターがある。
駅から歩いて約15分ほどでクラブ事務所とスタジアムに到着するのだが、その前にルートンの街について少し触れることにする。
ルートンの街に降り立つとすぐわかること、それは多様な民族構成だ。白人の構成が45%とトップを占めるが、そのうちブリティッシュは32%、アイリッシュ2%、その他の国11%という構成になっていて、"その他の国"では東欧ルーツの人々が多いようだ。ついでパキスタンやバングラデシュを中心としたアジア系が37%、黒人系が10%、その他が7%となっている。
街の中心部からスタジアムに向かって歩くと、ルーマニアの国旗を掲げたスーパーやトルコ食材の店、カレー店、アラブ系の衣類店などが目につく。大通りから一本入り、住宅街を抜けるとケニルワースロードに到着する。
-スタジアムへ
ホームサポーターはメインスタンドとケニルワーススタンド、デイヴィッドプリーススタンドを中心に陣取り、一部のサポーターはアウェイエンドのオークロードスタンドで声を上げる。ダグアウト側はエグゼクティブBOXになっていて、一般サポーター用のスタンドはない。
エントランスは3か所、クラブ事務所に直結するメインスタンド側に1つ、チケットオフィスとグッズショップ、キオスクが並ぶゴール裏のケニルワーススタンド側に1つ、そして"住宅の一部の階段を抜けて入る"名物オークロードスタンドだ。
今回のケニルワースロードでの観戦は都合上1試合だったので、どのスタンドで見るか迷ったもののケニルワーススタンドで観戦した。結果的にこの選択はベストだった。マイフェイバリットのアラン・キャンベルのストライクと劇的なウッドロウのゴールを目の前で見れたのだから。
-ピッチ
ピッチはきれいに芝生が育成されケアされている。この日もメンテナンスが行われていた。サイズはご存知の通り100m×66mと縦横共にコンパクト。実際見ると、センターサークルから少し前に運べばロングシュートのチャンスがあるのでは?というくらいの距離感だ。スタンドとピッチの傾斜はなし、なので最前列でもしっかりゲームを見ることができる。
-ダグアウト
サイドラインギリギリに配置されたダグアウト。ちなみにテクニカルエリアの概念はない。元々オークロードスタンド側にあったホーム用のダグアウトは、とある監督が"ラインズマンが邪魔でぶつかる"という理由で、アウェイ用のダウアウトと場所を入れ替えた。ピッチ脇で常に大きなジェスチャーでチームに指示を送り、共に戦う男、ネイサン・ジョーンズの指示だったそうだ。
-ビッグクロック
エグゼクティブボックスとケニルワースロードスタンドのちょうど隅の部分に大きな時計がある。"昔スポンサーから寄贈されたもの"とのことだが、正確な時間がわかるものではない。しかし、この時計がなくてはならない人々も存在する。デビッドプリーススタンドのシーズンチケットホルダーは常にこの時計が対面にある状態なのだ。彼らは新スタジアムでも同じ位置にこのビッグクロックを置いてほしいと希望を伝えているということだった。
-ラウンジ
他クラブ同様、いくつかの素晴らしいラウンジを持つ。シーズンチケットのグレードのインセンティブで利用できる部屋が違うが、どの部屋もそれぞれ違う雰囲気があり素晴らしいものだ。トロフィールームにはアーセナルを決勝で破って得たリーグカップのトロフィーや、降格が決まって手にした悲しみのEFLトロフィー、そしてピラミッドの底辺から這い上がったきた軌跡が詰まったリーグトロフィーなどがある。
カップ戦での優勝経験がないワトフォードのトロフィールームはスッカスカだよ、とジョンさんが教えてくれた。ちなみにワトフォードに対しての敵対心も去ることながら、歴史上MKへの憎悪をより大きく感じた。
歴代代表選手の名前が刻まれた木製ボードや過去対戦したきたクラブのペナント、もちろんレジェンドたちのサイン入りユニフォームも並ぶ。
進行している駅前のパワーコート地区での新スタジアム建設モック(最大で23000人収容を目指す)もある。ここで現在のケニルワースロードを名残惜しむのが定石だ。
-クラブオフィス
オフィスにも案内していただき、様々なスタッフが挨拶をしてくれた。とてもあたたかい歓迎を、心からしてくれた皆さんに、改めて感謝したい。デスクオフィサーの方だけではなく、バックルームを掃除をしている方や、何やら次の試合の装飾品を作っている若手スタッフ、レセプションで迎えてくれた笑顔がチャーミングな女性、皆さんありがとうございます。
-ドレッシングルーム
ホーム用ドレッシングルームはシンプルな作りもしっかりパーテーションで区切られたロッカータイプ。角の面積が広い席は去年の得点王イライジャ・アデバーヨの場所だ。さらに進むと大きなバスタブが二つとシャワールーム、レストルームがある。最新設備はないが、きれいに掃除してメンテナンスすれば長く使えるし、クオリティが生まれる。何事も新しければ新しいだけいいというものではない。ハイテクノロジー=ラグジュアリーという事でもない。とは言え試合中継&戦術投影用の大型モニターもある。そのわきには、A2サイズぐらいのハンディタイプ戦術ボード。何度も書いて消した跡がある、前監督はこのボードをずっと使っていたそうだ。所々残るネイサン・ジョーンズの残り香に彼の不在からくる寂しさと、新監督との期待とが入り混じる。
アウェイ用のドレッシングルームは下部リーグ特有の、"ただの部屋にベンチと机、そして小さめのエアコン"スタイル。ちょうど2日前には、W杯を戦ったジョシュ・サージェントやカナリーズの絶対的エース、テーム・プッキが汗を拭いたバックルームだ。ところどころ傷があるのは、ご愛敬。選手間、マネージャー選手間も人間なので色々起こる。あのテンションで試合から帰ってきたら、何か起こらないほうがおかしいとさえ感じる。
その中でも大きな傷は、ブリストルRのジョーイ・バートンがつけたもの。こういったネタには必ず顔をだす男、さすがである。
-トンネルtoピッチ
ドレッシングルームを出るとオフィシャルズルームがあり、そこからピッチへ。この道は天井が低く190cm近くある選手たちはこうべを垂れる必要がある。先に続くケニルワースロードのピッチには、夜は魔法をかけるスタジアムライトが照らす最高の舞台が待っている。
-新スタジアムと街の希望
ケニルワースロードから駅前のパワーコート地区への移転。向う3年ないし5年以内に実現する予定だ。ホテルやマンション建設とともに、ルートンのパワーコート再開発地区の目玉でもある新スタジアム。まずは17000人収容、そしてゆくゆくは23000人まで収容人数を増やす予定だ。今でもこんなに素晴らしいスタジアムがあるのに移転なんて、と安易に言うことは出来ない。この一大事業が作るもの、ルートンにもたらすものは雇用と経済効果だ。新スタジアムやホテル、住居の建設は、近隣のロンドンルートン空港と経済面でよりリンクさせるためにとても重要な役割を担う。新スタジアムは街の希望でもあるべきだ。
-エピローグ
ケニルワースロード。おいしいホットドッグを出す小さなキオスク、手垢のついた不揃いのシートやビッグクロック、使い古した戦術ボードとピッチへ向かう窮屈なトンネル。120年もの間、週末を照らした魔法のスタジアムライトとピッチで起きるエモーショナルなフットボール。
それらを紡いできたのは、ルートンタウンを愛する人々。彼らは何よりも"人"を大切にする。クラブが街にできる事、ともに戦い歩む方法とプロセスを彼らは常に考えている。親会社の借入帳票と時々見るITVのハイライト動画にしか興味がない、そんな海外資本のペーパーオーナーはここにはいない。
今回濃度の高い4日間を過ごすことができたのは、クラブ関係者とルートンという街で関わってくれた全ての人のおかげに他ならない。
クリスマスでほぼ全ての商店が締まっていたにも関わらずオープンしていた、ルーマニア食材のスーパーに寄った。従業員の男性に、"今日はクリスマスだけど、なんでオープンしているの?"とあいさつ変わりに質問したら、ルートンのマフラーを指さして"君のパンのために"と答えが返ってきた。
またすぐにここに戻ってきたいと、本当にそう思う。
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