五輪マラソン”給水妨害”騒動の真犯人はネット空間をさまよう敵意
東京オリンピック最終日8/8、男子マラソンで「ボトル倒し」「給水妨害」など世界のSNSが燃えた。フランスのアンドゥニ選手が、30km手前の給水テーブルでペットボトル10本以上を端から全倒し:
この場面が「他ランナーの妨害では」と世界のSNSで炎上。でもランナー目線ではこんなことは普通に起きる話だよ、と8/10にツイートしたら
Twitterトレンド「給水妨害」の2番めあたりに表示され続け、1日の表示数も10万超え。これは必要な情報だなと思い、3,000字ほどの完全版を書いたよ。
<結論>
直接の原因: ボトル取りが下手
真の原因: 運営の理解不足
炎上した真犯人: ネット空間をさまよう敵意
想定可能なアクシデントだから、大会運営で配慮できればよかった(※批判する気はなく改善点の指摘としてです)。それよりも、ネット空間で敵を探し過ぎる人たちの心理が気にかかった。
では、僕らはどうすればいいのか?
<提案3つ>
1.スマホ画面だけ見て反応するな
2.落ち着こーぜ
3.行動してからモノを言おーぜ
この3つを提案した上で、ランナーのための妨害疑惑を避けるお作法:
<正しいエイドでの補給法>
・コップをしっかり見て
・上から取る(横に動くから倒す)
・エイドは集団と同速通過
・テーブル過ぎたらウォークブレイクを選択肢に
・空きコップは確実にゴミ箱に(プロの真似して捨てない)
を紹介しよう。
(1)大量ボトル倒しは想定可能なアクシデント
1つアナタに質問だ。
質問:時速20kmの自転車で走りながら、テーブル上で密集したボトルを、1本だけ、正確に掴めますか?
時速20kmとは、ママチャリなら、がんばった最高速に近いくらいかな。電動アシストなら25kmでアシストがゼロになる。ランニングならさらに上下動が加わる。50m走なら9秒だ。男性なら自己ベスト7−8秒が多いと思うので、少し力を抜いただけ、ほぼダッシュに近いはず。
男子マラソンの五輪選手たちは、その時速20kmで2時間走り続ける(1km3分=2時間6分台)。しかもあの酷暑を1時間半を走った後で、密集した集団の隊列の中で、濡れたプラスチックのボトルを取る。
進行方向に1直線に密集させたボトルなら、掴みそこねてストライクするのは、高確率で発生する予測可能なアクシデントだ。
上記の動画を見ても、スロー&拡大で、3度にわたりボトルをつかもうと試みていることがわかるだろう。下手だが、故意ではない、僕はそう断言する。
<僕の見方>
狭いテーブルにボトルを密集させておいた運営側の問題が大。
テーブルを増設して、広く並べておけばよかった。
(※禍の中、会場も移動し、いろいろ大変な中で、全体として素晴らしい運営をされたことに敬意を表しつつ、改善も進めていこう、という話です)
オリンピックの世界トップランナーたちは、このレースに人生をかけている。少々アクシデントあっても、みんなに確実に行き渡るような仕組みを用意するのが、運営サイドの オ・モ・テ・ナ・シ ♡であると思う。
落ち着こーぜ。ネットの民たちよ。
(2)なぜ世界のSNSが怒り狂ったのか?
なのに、なぜSNS空間で、妨害だ!酷い!と炎上したのだろうか?
つまりは、ネットとは「共通の敵をみんなが探し回っている、敵意に満ちた空間」だから、ではないだろうか?
この空間では、真実を探ることよりも、敵を見つけ、攻撃することが、優先されてしまう。
今回も、本当に真実を知りたいのなら、このレベルの競技経験者の意見を探すくらいのことはするはずだ。スマホで、いかにもランニング未経験者のツイートを見て、その刺激に即反応するようなことはしないはずだ。
異論ありますか?
いわばそれは映画Matrix(1999)に出現するクラゲ野郎「センチネル」のようなもの。オルタナティブな空間(この映画ではリアル世界側)で、敵を探し続け、発見すると群がって攻撃を始める。相手が滅びるまで。
では、人はなぜ不安になり、敵意を感じ、憎悪を膨らませるのか?
古典的名著、アラン『幸福論』(1925)によれば、
<ネガティブ感情とは?>
暇なほど、時間と共にインフレ
今やるべきことに集中できていれば、膨らまない
暇だから、どうでもいいことに過剰に警戒し、敵でもないものを敵だと誤認して、「正義のための闘い」(と信じ込んでいるもの)を勝手に始めてしまう。
アランはこれら考えを確かめるため、平和主義者なのに第一次世界大戦に志願、前線で兵隊までした。この人体実験の結果、最前線の兵士は職人的に自分の担当業務(さつじn等)を淡々とこなし、後方の政治家や一般人ほど敵への憎悪をたかぶらせていくことを、体験の中で発見してゆく。
現代人は、忙しい人が多いだろうが、こういうネガティブ感情を膨らませてしまうということは、本質的には、「今、自分がやるべきことに集中できていない」ということだろう。
敵意とは、攻撃される恐怖への防衛反応だ。現代社会で第一次世界大戦とは違って銃弾は飛んでこないが、別のプレッシャーが常時とびかっていて、自分が攻撃されるかもしれない、という不安感は変わらない。だから潜在的な敵意も消えない。「ネットで誹謗中傷を繰り返す人間には社会的地位ある中高年男性が多い」というデータも有名で、この不安は社会のあらゆる階層にあるんだろう。
<提案>
1.スマホ画面だけ見て反応するな
2.落ち着こーぜ
3.行動してからモノを言おーぜ
今回なら、50m9秒(=ほぼダッシュ)で走りながらボトルつかむ実験して、動画も撮って、「ほら、ボトルなんてこんな簡単に取れるだろ!」とツイートすればOK!
行動と経験のない言葉なら、軽い。
(3)給水妨害疑惑を避けるためのエイドお作法
冒頭のツイートのコップ倒し男について触れておこうか。
HATTAとプリントされた日本代表ウェア(※アマチュア部門の)を着た男性は、当時39歳、独学でトライアスロンを始めて2年、以前にマラソン大会などの出場歴もなく、エイドステーション活用技術がたりない。時速16km台(1km3分44秒ペース)で走りながら、それまでミスが相次いだ焦りもあり、前を追いながらコップをノールックで取ろうとして、空振りした指がグーパンチ化。進行方向に手を動かしているので、その勢いでコップをなぎ倒している。その余裕のなさ加減が、沈んだ腰と膝に見える。
では、どうすればいいのか?
<正しいエイドでの補給法>
・コップをしっかり見て
・上から取る(横に動くから倒す)
・エイドは集団と同速通過
・テーブル過ぎたらウォークブレイクを選択肢に
・空きコップは確実にゴミ箱に(プロの真似して捨てない)
(撮影Jane Marieさん, 愛南トライアスロン2015)
力を抜いて、ヒョイッと摘み上げる感じかな。五輪のフランス選手は力が入ってた感。
指を上から差し込めば、片手で最大3個くらい取れ、左右交互に取れば1エイドで6個くらい取れる。
追記:下の写真のように、ボランティアさんが紙コップの上側を掴んだ状態で差し出されると、上から摘むことができない:
この場合、野球のバントみたいに、キャッチの瞬間に少し手を後ろに引く感じで、力を抜いて、キャッチにいく。この動きは、長距離トライアスロンの自転車パートである、ボトルを直接受け取る場合も同じ。
そして「ウォークブレイク」もしくは「ラン&ウォーク」と呼ばれる、レース中の歩き動作で、脚をリフレッシュさせながら、落ち着いて水を飲み、暑ければ水を掛けて冷やせばよい。
<まとめの提言>
少なくとも僕のようなホビーアスリートにとって大事なのは、落ち着くこと。落ち着いて動作できるスピードまで減速すること。無理してプロの真似をしてはダメだ。
プロの大会なら、その激しく余裕のない動作でもトラブルが起きないように、起きたとしてもダメージが最小化されるように、想定されるアクシデントを想定し、運営を工夫することが、世界トップ選手への、オ・モ・テ・ナ・シ ♡ なのである。
アンドゥニ選手には、ボトル掴み練習をして、動画に撮って、SNSに上げていくのを提案します。最初は自転車に乗って。
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